ドクターにインタビュー

vol.24

子宮内膜症と不妊治療

桜井 明弘 先生(産婦人科クリニックさくら院長)

桜井 明弘

[4] チョコレートのう胞の新たな治療戦略 チョコレートのう胞をどうするか

細川)
どのような研究を実施されたのでしょうか?
Dr.)
当院でAMHを測定した患者さんで、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の患者さんを除いた844名をチョコレートのう胞がないグループ(A群:青)とチョコレートのう胞があるグループ(B群:黄)、過去にチョコレートのう胞を手術したグループ(C群:赤)にわけ、AMH値を比較しました。下のグラフのような結果になりました。

AMH.jpg

細川)
はい。
Dr.)
AHM値は年齢と緩やかな負の相関があるので、20歳代前半から40歳代後半まで5歳ごとに分け年代別にAMH値を比較しました。その結果、ほとんどの年代において、A群、B群、C群の順に低下する傾向があり、特に、31-35歳と36-40歳で、C群のAMHがA、B群に比べ、有意に低下したため、チョコレートのう胞の存在がAMH値を低下させる傾向にあるものの有意な差ではなく、手術の影響が明らかであることがわかりました。
細川)
31-35歳、36-40歳の年代でチョコレートのう胞を手術するとAMH値が下がることがわかったと。
Dr.)
まさに、生殖年齢です。この年代の女性が不妊外来を訪れ、診察したらチョコレートのう胞があり、手術して摘出したらAMHが下がるということを、このデータは示しているということです。
細川)
妊娠を希望する場合、チョコレートのう胞は手術で摘出すべきでないということになるのでしょうか?
Dr.)
単純に全ての患者さんがそうとは言い切れませんが、慎重にならなければいけないと思います。
細川)
どのように考えればいいのでしょうか?
Dr.)
まずは、患者さんが一般不妊治療までしか望まなければ、手術して、タイミング療法や人工授精で妊娠を目指してもいいと思います。実際にチョコレートのう胞摘出後に一般不妊治療の妊娠率が向上するという報告はたくさんあります。
細川)
患者さんの希望次第では手術してタイミング療法や人工授精で妊娠を目指すという選択肢もあると。
Dr.)
そうですね。そして、ARTを希望されるのであれば、大きさが5cm未満なら、そのままで採卵し、ARTを実施し、胚移植してもいいと思います。
細川)
妊娠できれば子宮内膜症は軽くなりますからね。
Dr.)
はい。ただし、私はその場合でも、採卵時にチョコレート嚢胞は穿刺しません。穿刺、吸引はしない先生が増えていると思います。なぜなら、感染のリスクが伴うからです。チョコレートのう胞が感染すると卵巣膿瘍になりますので。そして、もしも、発見が遅れると卵巣を取ってしなわなければならなくなるかもしれません。
細川)
穿刺、吸引は感染のリスクが伴うのですね。
Dr.)
そうです。もしも、チョコレートのう胞が5cm以上と大きければ、妊娠する前には摘出することが望ましいので、先に採卵し、受精卵を凍結しておいてから、チョコレートのう胞を手術してから胚移植を行います。 ただし、この場合、よい卵がとれないことが多いので、何回か採卵することになるとは思います。
細川)
そのまま妊娠するのはよくないということでしょうか?
Dr.)
チョコレートのう胞が大きいまま妊娠すると、子宮が大きくなった時に潰れてしまうのです。つまり、チョコレートのう胞が破裂してしまうのですね。これは大変な痛みが伴いますし、卵巣から出血していますから緊急手術しなければならない可能性もあるのです。妊娠して子宮が大きい場合の卵巣手術はとても大変です。このようなリスクを伴いますので、そのまま、妊娠するのは避けるべきだと考えています。
細川)
妊娠しさえすればいいというわけではないと。
Dr.)
そうです。また、採卵が出来ずに手術を先行させる場合でも、チョコレートのう胞は吸引するだけにとどめて、周囲の癒着を剥がす手術を、現在では近隣の病院の先生にお願いしています。先に述べた典型的な手術ではないので、再発の恐れがありますが、再発して大きくなる前に採卵し、妊娠をめざすのです。
細川)
これがAMHからみた治療戦略ということになるのですね。
Dr.)
現時点での私の結論です。

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