葉酸は少な過ぎても多過ぎてもいけない 〜妊娠前、妊娠中の葉酸補充

2016年03月16日

葉酸はその名の通り葉っぱものの野菜全般、海藻類などの植物性食品、そして、レバーなどの動物性食品にも豊富に含まれるビタミンB群の仲間です。

不足すると出生児の神経管閉鎖障害という先天異常の発症リスクが高まるため厚生労働省は妊娠前から妊娠3ヶ月迄、1日400μgの葉酸をサプリメントで補充するように呼びかけています。

そのため妊娠前、妊娠中の葉酸補給の重要性が知られるようになりましたが、葉酸のサプリメントについてさまざまな情報が溢れるようになったからか、最近、葉酸についての質問や相談が急増しています。

そこで、改めて、妊娠前、妊娠中の葉酸補充についてまとめてみたいと思います。

葉酸は不足しても過剰になってもよくない

葉酸には妊娠、出産に際して以下の4つの重要な働きがあります。

1)核酸(DNA)の合成

核酸(DNA)がつくられる際に葉酸が補酵素としてなくてはならない役割を担っています。

2)神経管閉鎖障害の発症リスクの低減

出生児の神経管閉鎖障害の発症リスクを低くします。

3)遺伝子発現のコントロール

葉酸が変換されることで遺伝子の発現の促進や抑制に関わるメチル基が提供されます。

4)悪玉アミノ酸の変換

葉酸はアミノ酸の代謝に関わっています。そのため、葉酸が不足するとホモシステインという悪玉アミノ酸の濃度が上昇します。

葉酸と言えば「子どもの先天異常の予防」という印象が強いと思いますが、それは葉酸の働きの1つであることがおわかりいただけると思います。

新しい命が育まれるということは、母親になる女性と胎児の細胞分裂が増加するということです。そのため、DNAの合成に不可欠な葉酸の必要量、重要性はともに著しく増加します。妊娠に際して葉酸が縁の下の力持ち的存在である理由です。

その一方で、ホモシステイン濃度が上昇すると胚や胎児の成育に悪影響を及ぼします。そのため、葉酸が不足すると細胞が正常に分裂増殖できなくなるだけでなく、胚質が低くなったり、胎児の成長が阻害されたりするリスクも高まります。

さらに、葉酸は遺伝子の発現を調整することになる「メチル基」の提供に関わっているため、葉酸が子宮内で不足したり、過剰になったりすると、胎児の遺伝子の発現に影響を及ぼし、子どもの出生後の体質が左右されるようになります。

このように、葉酸はエピジェネティクス(遺伝子の働きを調節する仕組み)にも関与する栄養素としても注目されているのです。

つまり、葉酸は少な過ぎても、多過ぎてもよくないのです。

葉酸補充に際してのポイント

最近、よく質問される項目をピックアップします。

◎葉酸のサプリメントの摂取期間

葉酸を子の先天異常(神経管閉鎖障害)の予防を目的として摂取する場合は妊娠前から妊娠3ヶ月迄で十分です。神経系の形成は妊娠の極初期になされるためですが、反対に妊娠が判明してからでは遅く、妊娠する前から補充しておくことが大切です。

ただ、細胞の分裂増殖は妊娠全期間を通じて活発に行われていますので胎児の健康な成育のためには妊娠3ヶ月以降も継続して補充することが望ましいと言えます。

◎葉酸の原料

野菜などに含まれる(天然)の形態の葉酸はポリグルタミン酸型と呼ばれ、吸収効率が悪いことが知られています。そのため吸収されやすい形態のモノグルタミン酸型(合成)の葉酸を補充すべきです。

サプリメントの原料としては「天然の葉酸」ではなく、「合成の葉酸」、もしくは、ポリグルタミン酸型を酵母に取り込ませ培養した「葉酸含有酵母」がベターです。

◎葉酸補充の副作用(リスク)

妊娠中に葉酸のサプリメントを摂取することで出生児のアレルギー(ぜんそく)の発症リスクが高まるとの報告がなされ、そのことが知られるようになり心配される方が少なくないようです。

ただし、その後の研究で現時点では明確な結論は出ていません。つまり、エビデンスは確立されていません。

そもそも、葉酸は上記の通り、エピジェネティクス(遺伝子の働きを調節する仕組み)にも関与する栄養素です。葉酸は多くても少なくても遺伝子発現に望ましくない結果を及ぼすと考えるべきであると専門家は指摘しています。

一方、葉酸を補充することのメリットはエビデンスとして確立されています。

そのため適切な摂取量を守ることが大切です。具体的には不足を予防する摂取量は1日400μg以上、厚労省の上限量は1日1000μgです。

現実的には1日400〜600μgが無難です。

子宮内の栄養環境は新しい命の成育環境

生殖医療や遺伝子に関する研究の急速な進歩によって、さまざまなことがわかるようになり、教科書が書き換えられ、認識が改められるようになりました。

生殖医療の培養技術の進歩は女性の体内の栄養環境が受精卵や胚の成育を左右すること、また、遺伝子研究の進歩は受精前後の子宮内の栄養環境は胎児の遺伝子発現のオンオフに影響し、出生後の健康状態を左右することも知られるようになりました。

現在までに炭水化物や葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、亜鉛などの栄養素が関与していることがわかっています。

結局、葉酸だけを意識するのではなく、いろいろな、新鮮な食材を満遍なく食べ、その上で適切な量のサプリメントを補充することが大切であることがわかります。

[文献]

・妊娠中に重要な栄養素としての葉酸の意義 
 臨床栄養 2011; 119: 174
・妊産婦のやせと胎児発育 DOHaDの視点から考える
 産婦人科の実際 2015; 64: 27-33
・Is Folate Status a Risk Factor for Asthma or Other Allergic Diseases?
 Allegry Asthma Immunol Res. 2015; 7: 538-546