食の見直し、なにからはじめる?

2020年01月30日

私たちは、食べることでさまざまな栄養素を体内に取り込んで、そこから身体を維持したり、妊娠や出産に必要とされるエネルギーをつくりだしています。

そして、卵子や精子、受精卵、胚、胎児、そのものも母親や父親が食べた栄養素からつくられるわけです。

そのため、食の質が、エネルギーの産生効率や新しい命の健康度を左右するのは当然のことです。

食と妊娠しやすさは相関する、そして、それだけでなく、妊娠前のカップルの食と子どもの長期間に渡る心身の健康とも相関するという研究データが、最近、どんどん蓄積されてきていることからも、食の質を高めることはとても大切なことです。

新しい年がはじまり、心機一転、食を見直そうというカップルも少なくないと思いますので、なにからはじめるのがよいのか、最近の研究報告をベースに考えてみたいと思います。

ただし、あくまで、編集室の意見であることを予めお断りしておきたいと思います。

1)野菜の種類と量を増やす
国(厚労省)が推奨している1日の野菜の摂取量は350g以上です。ただ、350gと言われても、なかなか、ピンと来ませんよね。1日350gは、1食あたりでは120gになりますが、120gの野菜のボリュームの目安は、生であれば両手のひらに一杯、ゆでた状態であれば片手のひらに一杯です。そのため、1食あたりの最低限の量的目安は、手のひらに1から2杯になります。

ところが、最近、発表された厚労省の国民健康・栄養調査の2018年版によりますと、30代女性の野菜摂取量の平均値は240.2g、40代女性で234.9gで、全然、足りていません。最低量の7割も食べていないのですね。

そこで、1食あたり、もう一皿、野菜を増やすことを提案します。

もう一皿を増やすことを提案するのは、単に量的に増やすだけでなく、種類的にも増やしたいからです。

たとえば、1食の120gのうち、淡色野菜が80g、緑黄色野菜が40gが推奨されているように、単品を大量に食べるよりも、色のバリエーションを増やし、多くの種類を食べることがポイントになります。

なぜなら、野菜に含まれている栄養素、たとえば、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなどの植物性化学物質の含有構成が野菜によって異なるからです。そのため、食べる野菜の種類に偏りがあると、摂取できる栄養素も偏ってしまい、反対にいろいろな種類の野菜を食べることで、結果として、いろいろな栄養素を満遍なく摂取できることになります。

特にポリフェノールは抗酸化作用があり、独自の作用がありますので、極めて重要です。

1食あたり、野菜をもう一皿、増やしましょう。

2)たんぱく質のおかずを含んだ朝食を食べる
もしも、朝食を食べないことが習慣化しているのであれば、せめて、週に5日くらいは朝食、それも、たんぱく質のおかずを含んだ朝食を食べたいものです。

私たちが300名の妊活カップルを対象に実施したアンケートでは約7割の女性が朝食でたんぱく質源のおかずを食べていませんでした。

朝食を抜くと、昼食や夕食後の食後の血糖値が高くなることが知られています。そのためか、1日に2食になって摂取カロリーは減っても、朝食を抜くほうが太りやすくなります。

そして、食後高血糖は活性酸素の発生量を増やし、それが続くと、糖代謝異常を招きやすくなり、卵子や精子にダメージを与えてしまう可能性が高まります。

また、朝食を食べるか食べないかの影響はそれだけではありません。

朝食を食べる人は食べない人に比べて、野菜や果物の摂取量が多く、運動習慣のある人の割合も多い、そして、テレビを見る時間が短いことがわかっています(1)。

要するに、朝食を食べる人は食べない人に比べて、全体的に生活が健康的なのですね。

なぜかはわかりませんが、朝食を抜く人は朝食を食べることを習慣化すると、トータルの生活もよう方向に変わるかもしれません。

たんぱく質源のおかずを含んだ朝食を食べると、食べないよりも、起床時に最低に下がっていた体温がスムースに上昇するようになり、心身ともに良好な状態で1日のスタートを切れるようにななることは間違いありません。

もしかしたら、その波及効果が大きいのかもしれません。

3)砂糖入り清涼飲料水を控える
初めて日本を訪れた外国人は自動販売機の多さに驚くそうです。たいていは、そこで砂糖入りの清涼飲料水が販売されています。

砂糖入り清涼飲料水は、不妊治療の治療成績の低下に関連することがわかっていて、砂糖入り清涼飲料水を多く飲む女性は、そうでない女性に比べて採卵数や良好胚数が少なく、1日に1本以上飲む女性は飲まない女性に比べて体外受精で出産まで至る確率が16%低いという報告がなされています(2)。

甘いペットボトルに含まれる砂糖の量はハンパなく多いとのこと。

砂糖入り清涼飲料水は、もはや、きっぱりと飲まないのが無難なようです。

また、最近、問題視されているのが、スターバックスのフラペチーノで、これも相当な甘さのようです。

いずてにしても、飲み物に限らず、精製された砂糖、特に空腹時に飲んだり、食べたりするのは、血糖値の急激な上昇を招き、よい卵や胚をつくるのに「大敵」です。

4)魚を週に3回は食べる
動物性タンパク質源は、肉よりも魚を中心にするのが、妊娠や出産には適しているようです。目安としては週に3回以上です。

ところが、実際には、このところの傾向としては、肉の摂取量が増え、魚の摂取量が減っているのですね。

最近の国民健康栄養調査では、特に、40代女性の摂取量が1日の平均で44gと50代の65g、60代の76.5gと比べると大変少なくなっています。

これは野菜の摂取量の傾向と同じです。

実際に魚をよく食べることが不妊治療の治療成績によい影響を及ぼすことは明らかで、魚を週に3回食べる女性は2週間に1回しか食べない女性に比べて、体外受精で出産まで至る確率が40%も高いという研究報告がなされています(3)。

また、不妊治療を受けていないカップルでも、魚を食べる頻度が周期あたり8回以上食べたカップルは1回以下だったカップルに比べて性交の頻度が22%多く、妊娠率も61%高かったという報告もなされています(4)。

5)加工度の低い食材を選ぶ
最後に全体的なことですが、加工度の低い食材を選ぶということです。

加工度をあげることで、本来、その食材に含まれていたさまざまな微量栄養素を捨ててしまうことになり、食材から摂れる栄養素のバランスは悪くなってしまうからです。

せっかく、バランスのよい食生活を心がけていても、一つ一つの食材や食品に含まれている栄養素のバランスが悪ければ、元も子もありません。

[文献]

1)Am J Clin Nutr 2010; 92: 1316.

2)Fertil Steril 2017; 108: 1026.

3)Am J Clin Nutr 2018; 108: 1104.

4)J Clin Endocrinol Metab. 2018; 103: 2680.