ドクターにインタビュー

vol.14

30代後半、40代からの不妊治療 ~“後悔のない治療”にするための専門医からのアドバイス

吉田 仁秋 先生(吉田レディースクリニック院長)

吉田 仁秋

[2]卵子の老化といかに闘うか

卵子の老化といかに闘うか

細川)
次に、具体的な治療内容についてお聞きしたいと思います。
Dr.)
当院の40歳以上の患者さんの不妊原因をみてみると、明確な不妊原因、たとえば、子宮内膜症や子宮筋腫があったり、ご主人に問題があったりするというケースは、どちらかと言えば少数派で、だいたい6割は原因不明です。ただ、原因がないというわけではなく、主に年齢による卵巣機能の低下によるものだと考えるべきです。
細川)
特に異常や障害があるわけでなく、卵子の老化によって妊娠しづらくなっているケースが最も多いということですね。
Dr.)
さらに、たとえ、不妊原因が子宮内膜症や子宮筋腫、男性不妊である場合でも、その背後に卵子の老化という問題は存在すると考えなければなりません。
細川)
なるほど。
Dr.)
ですから、適切な治療を行いながらも、卵子の老化といかに闘うかということを意識する必要があるのです。
細川)
はい。
Dr.)
この年齢になると、卵巣機能が低下し、卵巣が卵を成熟させ、排卵させる働きが不安定になってきます。また、卵管の働きも低下し、周期によっては、うまく卵子や受精卵を運べないとか、排卵後の卵子を取り込めないというようなことも起こり得ます。
細川)
それまでの検査で異常がなくても、ですね?
Dr.)
そういうことです。ですから、まずは、既に述べた通り、早めに体外受精に移行することで、妊娠のプロセスの確実性を高めることが大切です。
細川)
確実性を高めると。
Dr.)
そうです。その一方、卵子の老化を逆転させることは出来ません。つまり、卵巣内の卵子の数を増やしたり、質の低下した卵子をよくしたりすることは現時点の生殖医療では不可能です。
細川)
はい。
Dr.)
ただし、妊娠に必要なのは1個の質のよい卵子なのです。ですから、卵巣内に存在する妊娠するだけの力を備えた卵子に出会うチャンスを増やすことがとても重要です。
細川)
染色体に異常のない卵子と出会う機会を増やすということですね?
Dr.)
そういうことです。そのためには、患者さんの卵巣予備能1)に応じた卵巣刺激2)を行う必要があります。
細川)
適切な卵巣刺激法を選択すると。
Dr.)
そうです。通常、自然な排卵では1個の成熟卵が排卵されますが、卵巣を刺激することで複数の卵子を成熟させることで妊娠できる卵子と出会う可能性が上がるわけです。
細川)
なるほど。
Dr.)
ただし、卵巣予備能が低下している場合には、採卵後、受精できたものの分割が途中で止まってしまったり、分割が進んでも良好な胚が得られなかったり、胚盤胞まで到達できなかったりといったケースが少なくありません。
細川)
いろいろなパターンがあるわけですね。
Dr.)
そうです。ロング法やショート法、アンタゴニスト法など、従来の一般的な誘発方法だけでは対応しきれないわけです。そのような場合には、それまでの結果を踏まえて、さらにきめこまかく誘発方法を変えていきます。
細川)
治療を進めていく中で、患者さんの状況を見極め、その状況に応じた誘発方法を選択し、実施するということですね。
Dr.)
それが、ドクターの腕の見せ所だと思います。もしも、漫然と同じ治療を繰り返すとか、治療内容に納得がいかないような時には、セカンドオピニオンを求めてもよろしいのではないでしょうか?
細川)
貴重な時間を無駄にしないためにも大切なことですね。
■この章のポイント■
高齢で卵巣機能が低下していると考えられる女性への不妊治療では、妊娠の確実性や確率を高めるために、早めに高度生殖補助医療にステップアップすること、そして、患者さん固有の状況に応じた卵巣刺激法で出来るだけ良好な胚を数多く得る工夫をすることが大切である。また、なかなか結果が出ないときには積極的に転院を検討することも必要なことかもしれない。

1)卵巣予備能
卵子を成熟させ、女性ホルモンを産生、分泌するという卵巣に備わっている力のこと。女性の生殖機能に影響を及ぼし、 卵巣内に残っている卵の数を反映し、加齢に伴って低下する。

2)卵巣刺激法(誘発法)
複数の卵子を成熟させるため、排卵誘発剤を用いて卵巣を刺激する方法。

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