ドクターにインタビュー

vol.07

酸化ストレスと男性不妊〜男性不妊のセルフケアを考える

辻 祐治 先生(恵比寿つじクリニック院長)

辻 祐治

【2】 酸化ストレスと男性不妊

細川)
それでは、酸化ストレスと男性不妊の関連性について教えてください。
Dr.)
活性酸素は、体内のあらゆる細胞を酸化させるわけですが、 実は、活性酸素によって細胞が受けるダメージについて、 初めて報告された※のが精子細胞なのです。
それは、酸素濃度の高い環境では、 精子の運動能力が低下してしまうことを確かめたものでした。 活性酸素の発生量が多くなり、酸化ストレスが増加したことが 精子の運動性能を低下させたのだろうと考え、 抗酸化剤を投与すれば、運動性能が回復したというものです。

※The role of oxygen in the metabolism and motility of humanspermatozoa. Am J Physiol 1943;138:512-518.

細川)
酸化ストレスによって精子の運動能力が低下するということですね。
Dr.)
はい。元々、精子は宿命的に酸化ストレスに脆いところがあります。
細川)
精子が酸化ストレスによるダメージを受けやすいと?
Dr.)
まずは、精子の細胞膜は、主にDHAのような酸化されやすい不飽和脂肪酸で出来ています。 また、酸化ストレスから細胞を守る抗酸化酵素が十分に備わっていません。
細川)
酸化されやすいうえに、防御システムが脆弱だということですね。
Dr.)
卵を目指して長い距離を泳ぐためのエネルギーをつくるために 犠牲にしたとも言われています。
細川)
なるほど。
Dr.)
そのため、酸化ストレスの増大によって、精子の細胞膜やたんぱく質が酸化されたり、 父親の遺伝情報を含むDNAが傷つけられたりします。 酸化ストレスが男性不妊を引き起こすメカニズムは複雑で、 完全に解明されているわけではありません。 ただ、精巣内の細胞膜やたんぱく質の酸化は精子をつくる機能の障害を、 精子の細胞膜の酸化は精子の運動の能力の低下を、 それぞれ、招くのではないかと考えられています。 また、DNAの損傷は、受精能力の低下や胚の成育不良、流産、 子の先天異常、子の発ガンリスクの上昇を招くことが確かめられています。
細川)
さまざまなメカニズムによって、 活性酸素は男性の妊孕性を低下させるおそれがあるということですね。
Dr.)
そういうことです。 実際に、男性不妊患者を対象とした試験で、 精液中の活性酸素レベルの高い男性ほど、精液検査の結果が悪く、 パートナーの妊娠率が低いとの報告※があります。

※Effect of reactive oxygen species in semen on the pregnancy of infertile couples International Journal of Urology 2009;16(2)202-207

細川)
実際、どれくらいの頻度で、 酸化ストレスによる男性の妊孕性の低下がみられるのでしょうか?
Dr.)
現実には、男性に対して精液検査は必ず実施されていますが、 精巣内の酸化ストレスを測定することは、まずはありませんし、 決まった検査法があるわけでもありません。 また、DNA損傷度を測る検査※も、必ず、実施されているわけではありませんので、 正確なことは言えません。 ただ、海外の論文では、男性不妊患者の約30%~80%は、 酸化ストレスによるダメージが認められるとの報告※があります。 実際のところかなりの頻度だと言えると思います。 いずれにしても、酸化ストレスと男性不妊の関連性については、 さらなる研究が必要でしょう。

※精子クロマチン構造検査(SCSA: Sperm Chromatin Structure Assay )など。

※Oxidative stress and male infertility - a clinical perspective. Human Reproduction Update 2008;14(3):243-58.

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