ドクターにインタビュー
vol.25
精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
菅藤 哲 先生(かんとうクリニック院長)
【5】治療効果について 〜 精子の質の改善がポイント
- 細川)
- 精索静脈瘤の治療効果について教えてください。
- Dr.)
- 術後、精液所見は51%〜78%で改善するという研究報告がなされています。また、たとえ、精液検査で明らかな改善がなくても妊娠に至るケースも少なくありません。
- 細川)
- 精液所見が全てではないということですね。
- Dr.)
- そうです。その結果、女性不妊要因を除くと自然妊娠率は1年目で43%、2年目で69%と報告されています。
- 細川)
- 精索静脈瘤を治療することで自然妊娠の確率が高くなるということですね。
- Dr.)
- 当然、精子の質を改善させ、自然妊娠を期待するとなると、一定の期間が必要になりますので、年齢が若いうちに手術を受けることが望ましいですね。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- ただ、女性の年齢が高くても手術後に自然妊娠に至るケースもありますし、顕微鏡下低位結紮術で複数の動脈を全て温存することで、従来の報告よりも自然妊娠までの期間が短くなるというケースも見受けられます。
- 細川)
- なるほど、術式や手術レベルも影響するのですね。
- Dr.)
- 前に述べた通り、精索静脈瘤の手術は対症療法ではなく、原因に対する根治療法なのです。つまり、そこから新婚生活がスタートすると、僕はいつもお話しています。
- 細川)
- あー、新婚生活がはじまると。
- Dr.)
- これから子作りするという新婚カップルと同じ状態になるんだよって。
- 細川)
- カップルにとって治療の持つ意味は、人工授精や体外受精、顕微授精などの対症療法とは全く違いますね。
- Dr.)
- その結果、モチベーションが高まり、夫婦生活の回数も増えるでしょう。そうすると自然妊娠の妊娠率も高くなります。
- 細川)
- なるほど、そのような効果もあるのですね。
- Dr.)
- また、手術後の人工授精や体外受精、顕微授精の治療成績も改善されることが数多くの研究報告がなされています。
- 細川)
- まさに、手術により、精子DNAの損傷率が低下し、精子の質が改善されることによるものですね。
- Dr.)
- 精子DNAの断片化(損傷)は3日目以降の胚発生、その後の着床や妊娠にマイナスの影響を及ぼすと考えられています。
- 細川)
- そうなのですか。
- Dr.)
- そのため、男性側に高率の精子DNA損傷があると、受精後、初期胚までは育つけれども胚盤胞までに停止してしまったり、初期胚で移植しても着床できなかったりする可能性が高くなるということになります。
- 細川)
- 精液所見と違って、精子DNAの損傷率を測定する検査は一般的ではありませんので、ARTを繰り返しても結果が伴わない場合は男性側に目を向けることが必要かもしれませんね。
- Dr.)
- その通りです。たとえば、都内のクリニックで5回顕微授精を行っても胚盤胞まで育たず、一度も妊娠されなかったカップルの男性パートナーが当院で精索静脈瘤の手術(低位結紮術)を受けて根治され、その後、元の施設で顕微授精を受けたところ、初回で無事妊娠されたという症例がありました。
- 細川)
- 精子の質が改善された途端に妊娠されたということですね。
- Dr.)
- そうですね。これまでのシステマティックレビューでは、精索静脈瘤の手術による精子DNA損傷の減少やパートナーのARTの妊娠率や出産率の改善が報告されています。
- 細川)
- なるほど。
- Dr.)
- また、現状で高度生殖補助医療が必要なカップルでも精索静脈瘤治療によって精子の質が改善されることで、ステップダウンできる可能性があります。
- 細川)
- 患者さんにとっては軽い治療で妊娠できるのに越したことはありませんね。
- Dr.)
- そうです。たとえば、顕微授精から体外受精へ、体外受精から人工授精へ、そして、人工授精から自然妊娠へと、よりパートナーの体への負担が軽く、コストが低い治療で妊娠を目指すことができるようになるということです。
- 細川)
- カップルへの恩恵はとても大きいですね。
- Dr.)
- さらに、非閉塞性無精子症であっても、精索静脈瘤根治後に射出精子が出現して自然妊娠される方がいらっしゃいます。
- 細川)
- 無精子症でもですか?
- Dr.)
- もちろん、必ずそうなるわけではありませんが、射出精子が得られなくても、顕微鏡下低位結紮術後で精子回収率が改善したり、回収後のICSIの妊娠率が改善したりといった報告もあります。
- 細川)
- そうなのですか。
- Dr.)
- 全例にメリットはあるとは言えませんが、かつて射出精子の存在が確認されていた方や妊娠歴がある方では検討する価値はあると言えます。
ドクターに訊く
ドクターにインタビュー
- 第25回 精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
- 第24回 子宮内膜症と不妊治療
- 第23回 納得のいく選択や決断のための“情報共有”について考える
- 第22回 老化促進物質AGEをターゲットにした不妊治療
- 第21回 不育症を正しく理解する~不妊症と不育症はひと続き
- 第20回 栄養と妊娠力
- 第19回 40代の不妊治療について考える
- 第18回 不妊治療の終結について考える
- 第17回 栄養と生殖機能の関連研究の第一人者に聞く
- 第15回 オーダーメイドの不妊治療とは?~あるべき不妊治療を考える
- 第14回 30代後半、40代からの不妊治療
- 第13回 不妊治療には、なぜ、“対話と物語”が大切なのか?
- 第12回 妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
- 第11回 妊娠しやすい思考ってあるのでしょうか?
- 第10回 クラミジア感染症と不妊 ~検査と治療についての正しい知識
- 第09回 ストレスフリーの不妊治療を目指して
- 第08回 体が本来持っている妊娠する力を取り戻す
- 第07回 酸化ストレスと男性不妊
- 第06回 質のよい卵を育むための生活習慣
- 第05回 不妊治療でなかなかよい結果が得られないとき
- 第04回 体外受精の後悔しない病院選びについて
- 第03回 ちゃんと知っておきたい薬のこと
- 第02回 妊娠しやすい夫婦生活とは?
- 第01回 不妊予防という考え方