ドクターにインタビュー

vol.24

子宮内膜症と不妊治療

桜井 明弘 先生(産婦人科クリニックさくら院長)

桜井 明弘

[1] 子宮内膜症とは? 「炎症」と「癒着」がキーワード

細川)
そもそも、子宮内膜症とはどんな病気なのでしょうか?
Dr.)
「子宮内膜」は赤ちゃんが宿る(受精卵の着床)組織であり、毎月の月経の際に剥がれて出血とともに腟から出てきます。本来、それは子宮の内側にある組織なのですが、違う場所に出来てしまうのが子宮内膜症なのです。子宮内膜の病気、とか、子宮内膜増殖症(子宮体がんの前がん病変)と混同されることがよくあります。
細川)
子宮内膜が本来あるべき子宮の内側と違う場所に出来るのが、子宮内膜症であると。そう聞くと、単純な病気のようにも聞こえます。
Dr.)
そうかもしれませんね。ところが、子宮内膜症と一言で言えないくらい、その程度はさまざまで、病態も多岐にわたり、更に治療法も沢山あります。
細川)
子宮内膜症はこんなですとは、一概には言えないと。
Dr.)
言えませんね。また、なぜ、子宮内膜が、本来あるべき場所以外のところに出来るのか、その原因も、本当のところはわかっていません。
細川)
はい。
Dr.)
仮説としては、月経血が腟から排泄されずに、卵管を通して、つまり、逆流して、腹腔内や子宮筋層に拡がる「移植説」、そして、卵巣に出来る内膜症である、チョコレートのう胞の様に組織の一部が変化して出来るとする「化生説」などがあります。その他に免疫的な因子や、遺伝的なもの、また、10年以上前にはダイオキシンなど環境ホルモンの影響があるのではないかという説もありました。
細川)
複雑なようですね。
Dr.)
原因についてはよくわかっていないことが多いのですが、実際に内膜症で引き起こされるのは、主に「炎症」と「癒着」です。
細川)
子宮の内側以外のところに子宮内膜組織ができると、そこに炎症や癒着が起こると。
Dr.)
そうです。たとえ、子宮の内側でなくても内膜組織なので、月経の度に、同じように厚くなり、はがれ落ちて、出血します。
細川)
なるほど。
Dr.)
それが毎月、繰り返されると、「炎症」反応が起こり、やがて、組織は「癒着」を形成し、臓器どうし、あるいは、臓器と腹膜がくっついてしまいます。酷い場合は臓器が変形してしまうこともあります。
細川)
内膜症によって、このようなことが起こるのですね。
Dr.)
そうなのです。そして、炎症も、癒着も、ともに「疼痛」の原因になります。
細川)
痛みですね。
Dr.)
はい。子宮内膜症が起こりやすい場所の周囲で一番痛みに対して敏感な組織は腹膜です。内膜症の「炎症」的変化によっても、形成された「癒着」によっても、腹膜は痛みを感じます。
細川)
子宮内膜症で、酷い月経痛があったり、性交痛、排便痛があったりするのは、このためなのですね。
Dr.)
そうです。そんなふうに「癒着」は痛みの原因にもなりますが、臓器の機能をも損ねることになります。例えば、卵管が癒着していると不妊の原因になります。卵管は卵子を取り込み、精子を通し、受精卵をつくる場であり、さらに受精卵を子宮に送る役割を担う、妊娠が成立するためにとても大切な臓器だからです。
細川)
内膜症ができると「炎症」と「癒着」が引き起こされ、その結果、「疼痛」や「不妊」に悩まされることになるというわけですね。
Dr.)
はい。ただ、子宮内膜症は、妊娠したり、閉経したりすると、内膜症が緩和されたり、なくなったりします。
細川)
なぜですか?
Dr.)
子宮内膜症は生理のある間の病気で、妊娠後、閉経後は生理が止まるからです。要するに、月経の度に悪化しますから、唯一、治療以外に内膜症の治療になるのが「妊娠」や「閉経」なのです。
細川)
子宮内膜症は妊娠すればよくなると言われるのはそのためなのですね。
Dr.)
そうです。もしかしたら手術(直接観察すること)以外に診断することができない初期の内膜症は、悪くなる前に妊娠でなくなってしまうのかもしれません。
細川)
よくわかりました。

ドクターに訊く

ドクターにインタビュー