ドクターにインタビュー

vol.19

40代の不妊治療について考える

辰巳賢一 先生(梅ヶ丘産婦人科院長)

辰巳賢一

【4】人工授精は回数を重ねることで有効な治療法になり得る

Dr.)
それでは、40歳以上の治療法別の治療成績をみることにしましょう。
細川)
はい。
Dr.)
まず、40歳の周期あたりの妊娠率は人工授精で4.4%、新鮮胚移植で15.7%、そして、凍結胚移植で33.1%になっています。凍結胚移植が高いのは胚盤胞まで培養できた胚のみを凍結していますのである程度の選別を経ているからだと考えられます。41歳では人工授精が3.6%、新鮮胚移植が13.7%、凍結胚移植で21.3%、42歳では順番に0.9%、11.7%、18.5%、43歳では0.7%、4.9%、18.2%、44歳では0.4%、9.8%、10.2%、45歳では0.8%、2.9%、6.3%となっています。
細川)
やはり、周期あたりの妊娠率は、体外受精や顕微授精が人工授精に比べて圧倒的に高いですね。
Dr.)
そうですね。周期あたりの妊娠率でみるとそういうことになります。ところが、最終的な妊娠数でみてみると様子が違ってきます。
細川)
妊娠数では変わってくると。
Dr.)
40歳で人工授精によって妊娠された方は53名、新鮮胚移植で妊娠された方は33名、凍結胚移植で83名です。そして、41歳では順番に36名、25名、38名、42歳では8名、18名、24名、43歳では5名、7名、15名、44歳では2名、4名、6名、45歳では3名、1名、1名という具合に人工授精がずいぶん善戦しているのですね。
細川)
人工授精は周期あたりの妊娠率では低いのに、妊娠数になるとARTに拮抗しています。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
Dr.)
その理由は、なんと言っても、人工授精は多くの回数を行うことが出来るからです。確率だけで言えば、ARTを毎周期行うことが最も高くなると考えられます。ところが、そうなると、患者さんにとっては肉体的な負担もさることながら、経済的な負担も相当大きくなり、現実的な方法としてなかなか難しいものがあります。せいぜい、年に3、4回と言ったところでしょう。
細川)
なるほど。それに比べて人工授精を毎周期行うことは、経済的な負担という面からでも、十分可能ですね。ましてや、辰巳先生は自然周期の人工授精を基本にしておられるとお聞きしていますので尚更のことと思います。
Dr.)
人工授精一回あたりの妊娠率は、年齢が高くなると大変低いのですが、回数を重ねることで累積妊娠率はそこそこのレベルになるというわけです。
細川)
回数を実施することで有効な治療法になり得ることが、梅ヶ丘産婦人科における長期間のデータの蓄積が物語っているというわけですね。
Dr.)
たとえば、何回目の人工授精で妊娠に至ったのかをみてみると、1回目で妊娠された方が最も多く、回数とともに次第に減っていき、5、6回目以降はかなり少なくなってしまいます。
細川)
体外受精に移行する目安の一つになるわけですね。
Dr.)
そういうことです。ところが、これは体外受精に移行することによって、人工授精を受ける人、そのものが少なくなるからなのです。
細川)
あー、なるほど。
Dr.)
ですから、回数と妊娠数ではなく、回数と妊娠率をみてみると回数を重ねてもそれほど低下しないことがわかります。実際のところ、10回以上、14回くらいまではそれほど下がっていません。
細川)
14回くらいまで妊娠率はそれほど落ちないというのが意外ですし、驚きました。
Dr.)
ところが、ARTでは回数を重ねる毎に妊娠率の低下傾向が明確にあらわれます。
細川)
そうなのですか。
Dr.)
たとえば、初回採卵時に40〜41歳の場合、1回の採卵でどれくらいの妊娠率が得られるかをみてみますと、1回目で15%、2回目で10%、3回目で4%、以降は3%、1%になっています。
細川)
ARTといえども年齢に対しては無力だと。
Dr.)
このように40歳以上の周期あたりの妊娠率は、ARTによる凍結胚移植が最も高く、続いて、新鮮胚移植、そして、人工授精が最も低くなります。ところが、妊娠数からみるとそれほどの差はみられません。
細川)
そうですね。
Dr.)
実際、ARTに比べると、人工授精では回数を重ねる毎の妊娠率の低下がそれほどではありません。そのため、40歳以上ではARTは最も有効な治療法ではありますが、人工授精も回数を重ねることにより有効な治療法となるというわけです。
細川)
よくわかりました。
■この章のポイント
(1)周期あたりの妊娠率ではARTによる凍結胚移植が最も高く、次にARTによる新鮮胚移植、人工授精が最も低い。
(2)最終的な妊娠数ではARTと人工授精ではそれほどの差はみられない。
(3)ARTは回数を重ねると妊娠率が低下していくのに対して、人工授精ではそれほどの低下傾向が見らない。
(4)40歳以上ではARTは最も有効な治療法であるけれども、人工授精も回数を重ねることにより有効な治療法となる。

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