ドクターにインタビュー

vol.19

40代の不妊治療について考える

辰巳賢一 先生(梅ヶ丘産婦人科院長)

辰巳賢一

【1】妊娠率の低速低下期と急速低下期における不妊治療について

細川)
辰巳先生は、女性は年齢とともに妊娠しづらくなることから、不妊治療の進め方は女性の年齢によって全く違ったものになるということを強調されています。
Dr.)
当院の女性の患者さんの初診時年齢と妊娠率、出産率の関係をみてみますと、20代前半をピークに、年齢とともにゆるやかに下降します。ところが、36歳あたりを分岐点として下がり方が急になります。私は、36歳頃までのおだやかに下がる時期を妊娠率の「低速低下期」、そして、36歳を境に急激に下がる時期を「急速低下期」と呼んでいます。
細川)
妊娠率の低下は、初診時年齢が36歳まではゆっくり進むけれども、36歳以降は急速に進むようになるということですね。
Dr.)
そうです。このことは、低速低下期では不妊治療の開始が1年遅れても最終的な妊娠率はそれほど低下しないけれども、急速低下期になると開始が1年遅れると最終的な妊娠率は大きく下がってしまうということを意味します。
細川)
なるほど。36歳を過ぎると治療の開始は早ければ早いほうが有利だと。
Dr.)
そうです。次に、日本産婦人科学会による体外受精をはじめとするARTの総治療周期あたりの生産率[1]を見てみると、35歳までの生産率はそれほど低下しませんが、36歳以降、急激に低下することがわかります。ここでも、先ほどと同じように36歳を境に低速低下期から急速低下期に移行するという傾向が見られます。
細川)
いずれも、年齢的には35、36歳がキーになっているようです。
Dr.)
このことは何を意味するかと言いますと、低速低下期では体外受精に進む時期が遅れてもそれほど治療成績に影響しませんが、急速低下期においては体外受精に進む時期が遅くなると、最終的に妊娠出産できる可能性が大きく下がってしまうということです。
細川)
なるほど。低速低下期ではタイミング指導や人工授精に十分な時間をかけてからステップアップしてもその後の治療成績にそれほど影響しないけれども、急速低下期になると、早めに体外受精に移行するほうが得策であるということですね。
Dr.)
はい。このように患者さんの年齢が低速低下期にあるのか、それとも、急速低下期なのか、それによって、不妊治療の進め方は大きく異なってくるというわけです。
細川)
よくわかりました。
Dr.)
実際に当院において35歳以下で治療を始めた患者さんは、1年後には33%がタイミング指導などの一般不妊治療で、10%が人工授精、そして、9%が体外受精で妊娠に至っています。
細川)
35歳以下であれば1年後に半分弱の割合で人工授精までで妊娠出来ているということですね。
Dr.)
初診時年齢が35歳以下であれば、1年で43%の患者さんが人工授精までの治療で妊娠に至っています。そして、低速低下期にあるわけですから体外受精へのステップアップを1年伸ばしても、その後の妊娠率はそれほど低下しませんので、タイミング指導や人工授精に時間をかけてよい時期であると言えますね。
細川)
そうですね。
Dr.)
それに対して初診時年齢が36歳以上の患者さんの、今度は最終的な成績ですが、17%がタイミング指導、10%が人工授精、すなわち、人工授精までの治療で妊娠に至ったのは27%に留まっています。代わりに22%が体外受精で妊娠に至っています。
細川)
はい。
Dr.)
この年齢になると、最終的に体外受精が必要な患者さんが多くなってくることがわかります。そして、急速低下期にあたるので、体外受精への移行を1年伸ばすと妊娠率の低下が大きくなるわけですから、この時期には体外受精を積極的に考慮すべきであると言えます。ただし、そうは言っても妊娠例の半数以上は人工授精までの治療で妊娠できているわけですから、36歳以上であってもある程度の期間はタイミング指導や人工授精を行う価値はあると言えます。
細川)
よくわかりました。
■この章のポイント
(1)初診時の女性の年齢が35歳未満の場合はタイミング指導や人工授精にある程度の時間をかけてもよいが、35歳以上の場合は早めに体外受精に移行することを検討すべきである。 (2)35歳以上でもある程度の期間はタイミング指導や人工授精を行う価値がある。

■ 用語解説
[1]生産率:出産にまで至った割合のこと

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