ドクターにインタビュー

vol.08

【3】ほとんどの不妊患者さんは潜在的に鉄が不足しています

出居 貞義 先生(大宮レディースクリニック院長)

出居 貞義

【3】ほとんどの不妊患者さんは潜在的に鉄が不足しています

細川)
それでは、よい卵を育むのに絶対に必要であるのにもかかわらず、 現代に特有な食生活や生活習慣では不足しがちな栄養素にはどのようなものがあるのでしょうか?
Dr.)
まずは、鉄ですね。驚くことなかれ、 当院の患者さんの約9割が潜在的な鉄欠乏性貧血です。
細川)
ほとんど患者さんは鉄が不足していると。
Dr.)
はい。女性の場合は、毎月生理があることに加えて、あまり肉を食べませんからね。
細川)
宿命的に鉄が不足しがちだということですね。
Dr.)
そうですね。通常、貧血の診断基準は赤血球中のヘモグロビンが使われます。 ただし、体内の鉄は赤血球だけでなく、組織鉄や貯蔵鉄としても存在します。 ですから、ヘモグロビンが正常範囲であっても、 貯蔵鉄が少ないということは組織中には鉄が十分な量ではないということになります。
細川)
貯えに手を出さざるを得ないくらい少なくなっているというわけですね。
Dr.)
そうです。ですから、貯蔵鉄であるフェリチンを調べる必要があるのです。 理想的には100~150ng/mlですが、最低でも50ng/mlは必要です。 もしも、潜在的な鉄不足に陥り、鉄がその役割を十分に果たすことで出来なくなれば、 肩こりやめまい、冷え症などの症状が出てきます。
細川)
肩こりやめまい、冷え症などに悩まされている女性は少なくありません。
Dr.)
そんな時には貧血を疑うべきでしょう。 鉄を補給し、フェリチンの値が30を超えるとそれらの症状が相当緩和され、 50を超えるとほぼ改善されるようになります。
細川)
潜在的な鉄欠乏性貧血を改善するべきだということですね。
Dr.)
実際のところ鉄の役割についてはあまり知られていません。 鉄は細胞のエネルギー産生になくてはならないミネラルです。 ですから、鉄が不足するとエネルギーがうまくつくれなくなってしまいます。
細川)
卵細胞が健全に成長ためのエネルギーが十分に供給されなくなるわけですね。
Dr.)
そうなりますね。 また、卵子にダメージを与える活性酸素を消去する抗酸化酵素が働くためにも鉄が必須です。
細川)
もしも、鉄が不足すると、活性酸素を消去するという抗酸化酵素の働きが低下してしまうと。
Dr.)
そうです。私は、女性の年齢が高くなるに従って、 卵子の染色体異常が増えるのも酸化ストレスが原因の一つではないかと考えています。
細川)
酸化ストレスの軽減のためにも鉄をしっかりと摂ることが大切だというわけですね。
Dr.)
当院の流産率が全国平均を下回っているのは、 食生活や生活習慣の改善を通して、 酸化ストレス対策を行っていることが大きいと思います。 さらには、鉄は脳内でセロトニンという精神を安定させる作用のある脳内神経伝達物物質が トリプトファンというアミノ酸から代謝される際に、葉酸やビタミンB6ともに関わっています。 ですから、鉄不足はエネルギー産生や抗酸化力だけでなく、 精神面の安定にも深く関わっているのです。

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