ドクターにインタビュー

vol.05

【2】 体外受精でよい結果がえられない場合

塩谷雅英 先生(英ウィメンズクリニック院長)

塩谷雅英

【2】 体外受精でよい結果がえられない場合

2-1 体外受精は3回を目処に考える

細川)
次に、体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療(以下、ART)を繰り返しても よい結果が得られないというケースではいかがでしょうか?
Dr.)
その前に、ARTで妊娠された方は、だいたい何回の治療で妊娠に至っているのか、 知っておいてほしいと思います。 当院でARTによって妊娠できた方の治療データを分析してみると、 8割の方は最初の3回目の治療までで妊娠できています。 1回目でだいたい6割、2回目で7割、そして、3回目で8割の方が妊娠できています。 5回目までみてみると、ARTで妊娠した方の9割が妊娠に至っているという事実があります。
細川)
1回目、もしくは、2回目の体外受精で妊娠できなかったからと言って、 悲観するのは早計なわけですね。
Dr.)
そうなのです。 また、妊娠率は、1回目でも2回目でも、3回目でも、それほど差がありません。
細川)
2回目、3回目でも、それほど妊娠率が落ちないということですね。 同じ治療を繰り返した場合、妊娠率が低下していくのが、普通だと思うのですが。
Dr.)
これは治療を繰り返す際にとても大切なことなのですが、 もしも、最初の治療で妊娠に至らなかったとき、 なぜうまくいかなかったのかを分析し、そのうえで、2回目の治療方針を立てます。 3回目の治療の場合は、過去2回の治療データの蓄積があるということです。
細川)
なるほど。 回を重ねるごとに、それぞれの患者さんの状態に よりふさわしい治療になっていくということですね。
Dr.)
そうです。 具体的には、刺激法や受精の方法、培養の方法や期間、また、移植の方法を検討し直します。 私たちとしては、1回目の治療で妊娠していただきたいと考えていますので、 当然、患者さんの卵巣や子宮の状態に最適と考えられる方法で治療に臨んではいます。 ところが、どうしてもやってみなければわからないことがあります。 そのため、たとえうまくいかなかったとしても、 そのデータを次に活かすことがとても重要になってくるわけです。
細川)
よく分かりました。
Dr.)
ただ、4回目、5回目になってくると、さすがに妊娠率が低下してしまいます。 そのため、私たちは、体外受精にステップアップされる際には、 3回を目処に考えていただくようにお願いしています。

2-2 あきらめなければ妊娠できる可能性がある

細川)
さて、そうは言うものの、4回、5回、そして、それ以上の治療を繰り返しても、 妊娠に至らないという方もいらっしゃるわけですね。
Dr.)
残念ながらいらっしゃいます。 ただし、その場合でも、あきらめずに治療を続けていれば妊娠できるということもあります。
細川)
なるほど。
Dr.)
もちろん、妊娠が保障されているわけではありませんし、 治療を続けていく中で一番ご苦労なさるのは患者さんご自身です。辛い思いもされるでしょう。 ですから、私たちが治療を続けることを無闇にお勧めするわけにもいきません。
細川)
はい。
Dr.)
ただし、当院では、過去に48回目の採卵で妊娠し、お元気なお子さんを出産された患者さんもいます。 そして、二人目のお子さんを希望されて、現在も通院されています。
細川)
採卵回数が48回ということは、移植回数はもっと多いということですね。
Dr.)
はい。もちろん、続けるかどうかは、あくまで、患者さんが決められることですが、 あきらめなければ妊娠できる可能性があるわけです。
細川)
そうですね。
Dr.)
ただ、私たちから治療を終えられることを提案することもあります。それは、年齢が46歳になられた方です。 当院では、妊娠例は48歳までありますが、 妊娠し、出産できたのは、これまでの何万例という症例中、採卵時の年齢が45歳というのが最高です。 46歳以降で妊娠された方はたくさんいらっしゃいますが、全員が流産に終っています。
細川)
年齢的な限界があるということですね。
Dr.)
そうです。ですから、私たちは高齢の方にはこのことを予めお伝えしています。

2-3 PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と卵巣機能低下

Dr.)
ARTを繰り返してもなかなか妊娠に至らない患者さんは、 大きく2つのグループに分けることが出来ます。 1つは、PCOSと言って、多嚢胞性卵巣症候群の方。 PCOSの方は若くてもなかなかよい結果が得られないことがあります。 もう1つは、卵巣の機能が極めて低下している方です。 こちらは主には高齢の方です。 それぞれ、アドバイスの内容が異なります。
細川)
不妊の原因からのアドバイスということですね。
Dr.)
そうです。まずは、PCOSがベースにある方。 PCOSの方が治療を繰り返してもうまくいかないのは、 卵子がたくさん出来るのですが、一つ一つのクオリティが低いため、 妊娠に至る力を備えた卵子がなかなか育たないことが原因です。
細川)
よい受精卵が育たないというわけですね。
Dr.)
そうなのです。グレードの低い受精卵しか育たないことが多いのです。 ただし、そのような場合でも、排卵誘発法を工夫しながら回数を重ねていけば、 いつかは、よい受精卵が得られ、 最終的には、ほとんどの患者さんは赤ちゃんを授かることが出来るということを、 私たちは経験的に知っています。 PCOSの方で、8回目、10回目で妊娠、出産に至ることは、日々よく経験することです。
細川)
ふさわしい治療を繰り返せば、ということですね。
Dr.)
そうです。ですから、PCOSの方の場合は、 大きなチャンスが待っていることを信じて頑張っていただきたいと思います。
細川)
はい。
Dr.)
一方、卵巣の機能が低下している場合。 卵巣の機能が低下しているかどうかは、卵巣予備能検査で調べます。 もしも、卵巣予備能が低下して、治療を繰り返してもうまくいかない場合は、 実際のところ難しいというのが現実です。
細川)
これさえやれば大丈夫だという方法がないということですね。
Dr.)
そういうことです。 ですから、それぞれの患者さんに有効だと考えられる方法を いろいろ試すということにならざるを得ません。 このようなケースでは、卵巣を刺激しても成育する卵の数も少なくなりますので、 排卵誘発剤を使わない、すなわち、自然周期で採卵を目指すことが多くなります。 DHEAなどのサプリメントを試してみたりしますが、 最近、私たちが手ごたえを感じているのは、レーザ―治療で血流を改善することです。 このように、いわゆる、妊娠しやすい身体づくりに力を入れていただきながら、 治療を繰り返すことになります。
細川)
生活習慣を見直すことも大切なことですね。
Dr.)
はい。たとえば、ご自身はタバコを吸わなくても、ご主人がタバコを吸うことで、 副流煙による害が卵の質を悪くすることが分かっています。 ご主人も禁煙していただくことが大切です。 気をつけていただきたいですね。

2-4 治療法そのものを見直す

Dr.)
次に、治療を繰り返してもよい結果が得られない方へのアドバイスとして、 さまざまな治療法についてお話ししたいと思います。
細川)
はい。
Dr.)
なかなかグレードのよい受精卵が得られない場合、 ギフト(GIFT)法やジフト(ZIFT)法といった治療法があります。 ギフト法というのは採卵した卵子と精子を卵管膨大部に移植する治療法、 ジフト法は受精卵を卵管に移植する治療法です。 ギフト法は受精させる前に移植し、ジフト法は受精後に移植する方法です。
細川)
受精がおこる場所は、ギフト法では卵管内で、ジフト法では体外ということですね。
Dr.)
そうです。どこのクリニックでも可能な方法ではありませんが、 いずれも、本来の環境を求めることで妊娠の可能性が高まることを期待する治療法です。 治療がうまくいかない場合、医師は、往々にして、 患者さんの年齢や卵子の質のせいにしてしまいがちです。 もちろん、年齢や卵子の質が最も影響を及ぼすことは間違いありません。 ただし、不妊治療に携わるドクターとして、 治療がうまくいかない原因をすべて年齢や卵子の質のせいにしてしまっては、 より適切な治療を施すことを放棄してしまうと言っても過言ではありません。 また、患者さんは救われないでしょう。
細川)
全くおっしゃる通りだと思います。
Dr.)
であれば、常に、私たちに出来ることはないのかということを考え、 可能な限り、工夫し、努力を続けるべきであると、私は思っています。 なぜなら、現在の培養室の培養環境が、 神様が用意された本来の環境である母親の卵管内の環境と同等、 もしくは、それよりも、もっと受精卵にふさわしい環境に達しているとは思っていないからです。 であれば、本来の培養環境を活用させてもらおうというのが、 ギフト法であり、ジフト法なのです。 実際に、学会発表しましたが、 17回目の体外受精で、ギフト法により妊娠、出産できた症例があります。
細川)
はい。
Dr.)
また、揺動培養も選択肢の一つです。 本来の培養環境である母親の卵管内は、静止していることはありません。 そのため、揺動培養とは、ゆりかごのように、 培養皿に一定のゆるやかな振動を加える培養方法です。 これによって始めて受精卵の成長がスムーズになる方もあります。
細川)
これも本来の培養環境に近づけるための工夫ですね。
Dr.)
そうです。 また、IMSI(イムジー)は、顕微授精の際に、超高倍率の顕微鏡を用いて、 より形態の良い精子を選択する方法です。 それによって受精率やその後の受精卵の成育状況が改善されることがあります。
細川)
より質のよい精子を選別するわけですね。
Dr.)
はい。揺動培養にしても、イムジーにしても、 いずれも劇的に治療成績が改善されるわけではありません。 ただし、可能性があることが確かめられている方法であれば、 積極的に取り入れていきましょうということです。
細川)
はい。
Dr.)
また、比較的、グレードの高い受精卵を繰り返し移植しても妊娠に至らない場合、 シート法(SEET)があります。 これは劇的な効果が得られました。 シート法とは、3~5日目まで培養した培養液を凍結保存しておいて、 移植の2~3日前に子宮に注入することで、 子宮内膜が着床しやすくなることを期待する方法です。 培養液に含まれる受精卵から放出された物質による働きではないかと考えられています。 実は、4年ほど前に、受精卵のグレードがよいのにもかかわらず、 なかなか妊娠に至らない患者さんが増えた時期があり、 当院でシート法を開発し、実施したところ、 劇的な効果が得られたということがありました。 それ以来、当院ではシート法は、オプションではなく、標準的な治療法として実施しています。
細川)
ARTの全例にシート法を実施されているということですね。
Dr.)
そうです。はじめから実施することで、より早期に妊娠していただきたいからです。 繰り返してもよい結果がでない患者さんは一人でも少ないほうがいいに決まっていますからね。

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