ドクターにインタビュー

vol.12

【2】「生活習慣病胎児期発症説」とは?

福岡 秀興 先生(早稲田大学総合研究機構研究院教授)

福岡 秀興

【2】「生活習慣病胎児期発症説」とは?

細川)
お母さんのお腹の中にいるときに、胎児に生活習慣病の素因が形成されるというのはどういうことでしょうか?
福岡先生)
糖尿病や高血圧症などは、生活習慣が招く病として「生活習慣病」といわれていますが、遺伝子に原因があって発症するのは30%ほどであることがわかってきました。残りの70%の原因は、胎児期の栄養不足によるものではないかといわれはじめています。

この「生活習慣病(成人病)胎児期発症起源説」は、英国・サウザンプトン大学医学部教授のデイヴィッド・バーカー教授が1980年代に提唱したものです。出生体重と生まれた子どもの疾病リスクの関係について詳細な調査が行われた結果、「小さく生まれた赤ちゃんは、大人になって心筋梗塞や心臓病のリスクが高い」ことがわかったのです。
細川)
「小さく産んで大きく育てる」というのは誤りなのですか?
福岡先生)
ええ、正しくはない考えです。低出生体重児は、虚血性心疾患、高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病を発症するリスクが高いのです。出生体重の低下は、胎児期、つまり、子宮内の低栄養環境で発育したことで起こるのです。
細川)
「低栄養なのに生活習慣病?」と不思議な気もしますが・・・。
福岡先生)
妊娠中に低栄養状態だと、胎児は「少ない栄養でも生きていける」体になって発育します。また、血液の老廃物を濾過する腎臓の糸球体という組織の数を調べたところ、2600gで生まれた赤ちゃんは、3200gで生まれた赤ちゃんより約30%も少なかったのです。腎臓糸球体が少ないと腎機能障害が起こりやすく、高血圧症になりやすいと考えられます。この腎臓糸球体の数は胎児期に決まり、出生後は増えません。このように、低栄養で胎児が発育すると、さまざまな変化が起こります。
細川)
おなかの中にいるときに「低栄養でも生きていける」という体質ができてしまうのですね。その体質で生まれてくると・・・。
福岡先生)
生まれた後も、発育した子宮内と同じような栄養状態が続けば問題ないのですが、栄養豊富な現代では、普通に食事をしていても、その体には必要以上の栄養を摂ることとなり、肥満につながっていきます。現在、高血圧症や糖尿病を発症する子どもが増えているのも、そんな背景があるといわれています。
細川)
同じような食生活や生活環境でも、太りやすい人と太りにくい人がいたり、やせていても生活習慣病になる人もいます。それが、生まれる前の体質だったと考えれば、うなずけます。

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