ドクターにインタビュー

vol.06

質のよい卵を育むための生活習慣〜高齢不妊との正しい戦い方

神野正雄 先生(ウィメンズクリニック神野院長)

神野正雄

【4】健康で幸せなカップルに子どもがやってくる

細川)
神野先生は、最近、"老化物質"として注目されつつある、 AGE(終末糖化産物)※が、卵巣機能障害の原因として重要な役割を果たしていて、 AGEの蓄積と高度生殖補助医療の治療成績の悪化には 相関関係があることを確かめられました。
Dr.)
AGEは、新たな卵巣機能障害の指標となり得るもので、 これまで用いられていた指標とは違い、 治療可能な段階での早期診断に使えるという有用性があります。 そして、ベンフォチアミン※やシダグリプチン※を使った治療で、 毒性のあるAGEの生成を阻害したり、食後血糖値を下げたりすることで、 卵巣機能障害を改善することが可能であることを示しました。 このように、AGEの低下は、卵巣機能障害の新しい治療戦略となります。

※AGE(終末糖化産物):老化や高血糖状態が続くことにより、たんぱく質が糖と結びついてできる物質。

※ベンフォチアミン:ビタミンB1、糖の代謝に関わる。

※シダグリプチン:2型糖尿病の治療薬で、血糖値を下げる働きがある。

細川)
私は、以前、神野先生の論文で、「卵巣刺激の極意」と題したイラストを拝見し、 大変印象に残っております。
Dr.)
私は28年間、高度生殖補助医療の臨床と研究に没頭してきました。 そして、不健康な状態で無理やり排卵誘発しても、あまりいい卵は生まれませんが、 不健康な生活習慣を是正し、ストレスを感じず、楽しい状態で、 最適な卵巣刺激を施すと、黄金の卵が生まれるということを悟りました。 つまり、「健康でしあわせなカップルのところに子どもができる」という 誰でも知っている当たり前な真理です。 ところが、そんな当たり前なことを、 多くの患者さんも医者も、無視しています。

人間には個体保存本能と子孫を残すという生殖本能がありますが、 優先順位があって、体調が悪くなると、当然、省エネモードになって、個体保存本能、 すなわち、自分の健康を維持することを優先し、生殖が後回しにされます。 つまり、まずは、自分たちが健康になり、 ハッピーになることが大前提なのです。

よい卵子や精子をつくるには、まずは、 患者さんが健康で幸せな状態になることから始めることです。 これがなければ次のステップはないと言っても決して過言ではありません。 そして、そのことは、近い将来の生活習慣病を予防することにも繋がるのです。 一人でも多くの患者さんがそのことを理解し、 妊娠されることを祈るばかりです。

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