よい睡眠が健康のために大切というのは多くの人が知ることですが、睡眠の質が男性の生殖機能、特に精子の状態や妊娠のしやすさにどう影響するのかについては、これまで十分に検討されてきたとは言えませんでした。
今回中国・武漢大学附属中南病院の研究グループは、不妊治療を受けているカップルを対象に、男性の睡眠の質が精液検査の結果やパートナーの妊娠率にどのように関係するのかを調べました。研究期間は2023年10月から2025年2月までで、727組の不妊カップルの男性が対象となりました。
男性の睡眠の質の評価には、「Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)」と呼ばれる質問票が用いられました。これは過去1か月間の睡眠について、睡眠の質、寝つきの良さ、睡眠時間、睡眠効率、夜間の目覚めやすさ、睡眠薬の使用、日中の眠気といった7項目を自己評価するものです。合計点は0〜21点で、点数が高いほど睡眠障害が重いと判断されます。本研究ではPSQIの結果が5点以下を「睡眠の質が良好」、6点以上を「睡眠障害あり」と分類しました。
主要な評価項目は、パートナーが臨床的に妊娠に至ったかどうかでした。あわせて精子濃度や精子運動率、DNA断片化指数、さらに性ホルモン(テストステロンや卵胞刺激ホルモンなど)の値も調べられました。
その結果、参加者の約75%が「睡眠障害あり」に分類されました。睡眠の質が低い男性では精子濃度が有意に低く、前進運動率も明らかに低下していました。一方で、テストステロンを含む性ホルモンの値と睡眠の質との間には、明確な関連は認められませんでした。
特に注目すべきだったのは、パートナーの妊娠率の違いです。睡眠の質が良好な男性のパートナーでは、臨床妊娠率が81.2%だったのに対し、睡眠障害のある男性のパートナーでは49.1%にとどまりました。統計学的に調整した解析でも、男性の睡眠の質が低いほど妊娠しにくい傾向は明確で、PSQIのスコアが1点上がるごとに、妊娠に至らないリスクが約20%ずつ上昇することが示されました。
これらの結果から、睡眠の質の低下は、精子の濃度や運動能力の低下を通じて、妊娠率の低下に関与している可能性が高いと論文では結論づけています。さらに性ホルモン値に大きな変化が見られなかったことから、ホルモン異常よりも、睡眠不足に伴う酸化ストレスなどが精子にダメージを与えることが主要な経路ではないかと推測されています。なかでも、睡眠効率の低下や夜中に何度も目が覚めるといった睡眠障害は、特に影響が大きい項目でした。
コメント
今回の研究は、男性の睡眠の質が精子の状態だけでなく、実際の妊娠の成立とも深く関係していることを示しています。
不妊治療というと、どうしても医療機関での治療が唯一の対処法と思われがちですが、日常生活の中での「睡眠の改善」で精子の状態が改善される可能性が明らかになっています。妊娠を考えるカップルにとって、男性自身の睡眠を見直すことも、決して軽視できない要素なのかもしれません。












