運動と精子の質の関係については今までも多くの研究がなされており、それらの研究では主に精液検査の結果が精子の質の指標として使われてきました。しかし精液検査は同じ人でも結果にばらつきがあったり、生殖医療の治療成績との関連がみられない場合も多くありました。
一方、精子の質の指標として、精子中のDNAの損傷している割合をはかる、精子DNA断片化指数(DNA Fragmentation Index: DFI)検査があります。DFI値の高さは受精率の低下や流産リスクの上昇と関連していることから、DFI検査は精液検査よりも精子の質をより反映していると考えられています。
そこで中国の研究グループは、健康な日本人男性を対象に、身体活動や座位時間と精子の質の関係について、従来の精液検査とDFI検査の結果を使って調べました。
29-39歳の健康な日本人男性323名に、身体活動量と座位時間を、体に装着したセンサーや質問票を使って調査しました。また精液検査と精子DFI検査を実施し、関連について分析しました。
その結果、身体活動量が多く、座位時間が短い男性の方が、よりDFI値が低い(精子のDNAが損傷している割合が少ない)ことがわかりました。一方で精液検査の結果とは関連していないことがわかりました。
具体的には、総身体活動量によって被験者を4グループに分けた場合、最も活動量の少ないグループと比べて、最も活動量の多いグループはDFIが29%も低下し、2番目に活動量の多いグループでも21%低下していました。
特に週に150分以上の中~高強度の運動を行っている男性において、もっとも精子の質が保たれていました。
この研究によって、日本人男性において身体活動量が多いほど精子の質が高く、長時間座り続けることは精子DNAの断片化を悪化させる可能性があることがわかりました。
コメント
精子DNAの損傷率を表す精子DNA断片化率は、精子の質の指標として用いられ、この値が23%以上になると、自然妊娠や人工授精による妊娠が難しくなり、体外受精や顕微授精の成績も悪くなり、流産率が高くなることが知られています。
今回の研究では男性の運動量や座っている時間と精子の質の関連について検証がなされ、より多く動き、より座っている時間が短い男性ほど精子の質が高いという結果になりました。
精子の質を低下させる要因はさまざまありますが、年齢とともに老化している卵子と違い、精子は毎日つくられ続けるため、生活習慣や食習慣を見直すことで改善することが可能です。
精子の質の改善のために男性が取り組める方法を以下にご紹介します。
・バランスの良い食生活を心がける
肉食に偏りがちな方は、野菜や果物、魚も意識して摂るようにし、炭水化物は玄米ごやんやライ麦パンなどの、精製度の低いものに替えてみましょう。
・十分な睡眠と適度な運動を
適度な運動は体の抗酸化力を高め、ホルモンバランスにもよい影響を及ぼしますが、過度な運動はかえって精子の質の低下につながるので注意が必要です。
・適正体重を維持しましょう
やせすぎ、太りすぎ、どちらもパートナーの妊娠率の低下につながることがわかっています。
・タバコやアルコールはほどほどに
精子の質を下げる原因となる、酸化ストレスを増やしてしまうほか、アルコールは男性にとって大切なミネラルである亜鉛の吸収を妨げてしまいます。
・育毛剤はひかえましょう
フィナステリドを主成分とするAGA治療薬には、男性ホルモンの作用を抑えるはたらきがあるため、精子の質の低下につながります。
・高温に注意
精子をつくる精巣は熱に弱い性質があります。長時間のサウナや入浴、ぴっちりとした下着は避けるようにしましょう。
・禁欲期間を短くする
禁欲期間が長くなると、質の低下した精子が増えることがわかっています。