妊娠力を最適化する

2013年11月08日

妊娠する力を左右するものやことはたくさんあります。そして、それについての情報はもっとたくさんあります。要するに、あいまいで、怪しげな情報が多いということです。

なにを信じるべきか、最終的には自分で考え、判断するしかないわけですが、頼りになるのは、やはり、エビデンスと言われている、信頼できる医学論文のデータです。

ドクターも、生活面などのアドバイスは、当然、エビデンスに基づいて、患者さんにアドバイスするわけです。

今回、アメリカ生殖医学会が、ドクター向けに、患者さんに生活習慣についてのアドバイスをするための見解、「Optimizing natural fertility」を学会の委員会から出しました。5年前に最初のものが出て、その際にも妊カラで紹介しましたが、5年もたっているので、今回も取り上げることにしました。

これは、ドクターが患者さんにライフスタイルや性生活についてのカウンセリングやアドバイスを行う際に指針とすべきガイドラインとして、アメリカ生殖医学会の委員会が統一見解としてまとめたものです。

妊娠するまでにかかる期間について

通常、妊娠するために、避妊しないでセックスをはじめた場合、最初の月が妊娠の確率が最も高く、その後、徐々に下がっていきます。

約80%のカップルが最初の6か月で妊娠し、周期あたりの妊娠率は最初の3か月が最も高くなります。

年齢の影響について

年齢が最も妊娠率に影響を及ぼし、30代後半になると20代前半の半分の確率になってしまいます。

年齢の影響は男女ともにありますが、女性のほうが顕著にあらわれ、女性は35歳以上になると妊娠率は著しく低下しますが、男性の場合、35歳以上の精液所見では、データ上は低下するものの、実際、妊娠させる力に影響が及ぶのは50歳以上になってからのことです。

男性の射精の頻度の影響について

男性が5日間以上射精しないと精子数に影響が生じる一方で、2日間の禁欲では精子の数は通常値だったと報告されています。頻繁に射精すると、精液中の精子が少なくなってしまうとよく言われていますがそのようなことはあありません。

実際、精子の数や質、運動能力ともに正常な男性であれば、毎日射精を行っても、およそ、1万匹近くの精子が確認できたとの報告もあります。さらに、乏精子症の男性でさえ、毎日射精をしたときに精子量と運動量が最大になったという報告もあります。

このように男性にとって、頻繁に、たとえば、毎日、セックスであろうと、マスターベーションであろうと、射精したからといって、精子の数が少なくなるわけではありません。

それどころか、最近の研究では、頻繁に射精するほうが、新鮮な(つくられてすぐの)精子が増え、DNAの損傷率が低い精子が多くなることから、数だけでなく、男性の妊娠させる力に決定的に影響を及ぼす精子の質も高くなることがわかっています。

お子さんを望む男性は週に3回は射精するのが望ましいと言えます。

セックスの頻度の影響について

毎日、セックスを行えば、妊娠の確率は最も高くなります。ただし、それにより、かえって、ストレスをため込んでしまう可能性もあるので気をつけたいものです。

妊娠を望む221のカップルを対象に行われた調査では、毎日、セックスを行っているカップルは周期あたりの妊娠率が33%と最も高く、週1回になると、半分以下の15%だったとのことです。

そもそも、なかなか妊娠しないことに悩んだり、焦ったりすることでストレスフルなところに、排卵のタイミングに「スケジュール通り」に行うセックスに努めていると、喜びや満足感よりも苦痛を伴うようになってしまいます。

そして、セックスの回数そのものも少なくなる悪循環に陥ると、皮肉にも、かえって、妊娠しづらくなってしまうのです。

妊娠を切望するカップルへのアドバイスとして、毎日、隔日のセックスは妊娠率が高くなりはしますが、苦痛を感じだしたら、立ち止まって、ペースを見直すことが大切かもしれません。

妊娠しやすいタイミングについて

妊娠の可能性があるのは、通常、排卵までの6日間とされています。中でも、排卵までの3日間のセックスが最も妊娠の確率が高くなります。

221組のカップルを対象にした調査では、排卵の2日前から排卵日にセッを行ったときの妊娠率が最も高いことがわかりました。また、別の調査では、排卵日の前日にセックスを行った時が最も妊娠率が高く、排卵日当日から確率が下がることがわかりました。

まとめとしては、月経サイクルが順調な女性の場合、月経が終わった直後から排卵日までセックスを続けることが望ましいと言えます。

排卵日の予測について

頸管粘液の状態と妊娠率の関係を調べるために、1681組を対象に行われた研究では、頸管粘液の量がもっとも多い日にセックスを行うと、妊娠の確率が38%と最も高く、その前後の日のセックスを行えば妊娠率が約15~20%に低くなったとのこと。

また、2832サイクルを対象に行った研究では、粘液の変化と基礎体温の関係は密接で、妊娠しやすい時期をより正確に割り出すことができることがわかりました。

排卵日検査薬については、実際の排卵は検査薬で検出された日ではなくその翌日や2日後に起きることがあり、誤った検査結果が出る確率は約7%との報告があります。

やむを得ない事情により、セックスをあまり多くの回数出来ないカップルにとって、排卵検査薬は助けとなっているが、ある研究では、基礎体温、あるいは、排卵検査薬と同様、もしくはそれら以上に、粘液状態の変化を観察する方が、より正確に妊娠しやすいタイミングを知ることが出来るとのこと。

セックスの方法について

性行為の後にあおむけになって精子の移動を促し、また体外に精子が漏れるのを防ごうとするのは科学的根拠がありません。

なぜなら、膣内に射精された精子はすみやかに子宮頸管から子宮に向かうからです。

もちろん、精子が泳いでいくわけですが、女性の子宮や卵管は精子を運ぶ働きがあることが知られています。

そのことを確かめる研究があります。精子に見立てた小さな粒子を卵胞期の女性の膣の奥に置いて、その後の動きを追跡したところ、小粒子はたった2分で、卵管に移動したというのです。

さらに、驚くべきことに、小粒子は成熟卵胞のある卵巣がある側の卵管のみにみられたことです。そして、主席卵胞が育つにつれて移送される粒子の量が増えていったとのこと。つまり、子宮や卵管は、卵胞が成熟している卵巣の方に引き寄せるような働きがあるというわけです。

食生活とライフスタイル

痩せ過ぎと太り過ぎは妊娠しにくくります。そして、健康的なライフスタイルによって、排卵障害のある女性の妊娠率は向上する可能性があります。ただし、ベジタリアンや低脂肪ダイエット、ビタミンを多く摂る食生活、アンチオキシダント、漢方などが妊娠率や産まれてくる子の性に影響する根拠は今のところまだ乏しい。

妊娠を望む女性は、葉酸(一日400mcg)を摂ることで先天的な神経管異常のリスクを低下させることになります。

◎喫煙

喫煙は妊娠、出産に悪影響を及ぼします。10,928名の喫煙する女性と19,128名の喫わない女性を対象に行われた大規模な調査では、喫煙する女性の方が明らかに不妊症のリスクが高いことが確かめられています。

喫煙する女性はしない女性に比べて、卵胞が早く減少します。そのため、喫煙する女性は、そうでない女性より、1から4年も早く更年期が訪れることが知られています。

また、喫煙は流産のリスクを高めます。

男性でも、喫煙により精子の濃度や運動量が低下し、DNAの断片化率を高め、精子の質を悪化させます、

◎アルコール

女性にとって、飲酒の妊娠への影響ははっきりとしていません。幾つかの研究では、女性のアルコール摂取が妊娠に悪影響を及ぼすとしているが、また別の研究では、むしろ妊娠を促進するとの報告があります。

ストックホルムで行われた、7,393名を対象とした調査によると、1日2杯のアルコール飲料を摂取する女性の不妊リスクは非常に高く、1日1杯以下しか飲まない女性のリスクは低いことを確かめています。その他研究での最近のトレンドとしても、やはりアルコールの過度な摂取は妊娠率を下げるとの報告がなされています。

◎カフェイン

過度のカフェイン摂取(一日5杯のコーヒーまたはそれに準じるもの)は妊娠を妨げます。

妊娠中は一日200-300mg(一日2、3杯のコーヒー)のカフェイン摂取が流産のリスクを高めるものの、先天異常のリスクとは無関係である。

◎その他

サウナについては、女性の受精に対して悪影響は無く、また合併症のない妊婦についても安全である。

その一方で、男性に対してのアドバイスとしては睾丸を熱に晒さないことです。

環境汚染や毒物も受精に影響する可能性がある。情報はまだ限られているものの報告は増えています。ドライクリーニングや印刷業で用いられる溶剤などが要因で女性の妊娠率が下がることがあります。重金属の類は精子の数値に異常をきたすこともあり、農業従事者が使う農薬や殺虫剤なども懸念されています。

まとめとして

・妊娠しやすい時期は排卵日より6日前から排卵日までで、それは粘液の質と量に関連がある。
・妊娠しやすい時期に頻繁に性行為を行う(毎日か一日おき)と妊娠率は上がるが、それより頻度が低くても(週に2、3回)でも確率はそれほど変わらない。
・性行為の体位や行為後の体勢などは妊娠率に明らかな影響はない。
・それほど頻繁に性行為を行わないカップルにとって、排卵日検査薬は時に有用である
・少量のアルコール摂取(1日1、2杯)や少量のカフェイン摂取でも受精に影響がある可能性がある。

アドバイスとして

・年齢と共に妊娠に至るまでの時間は長期化する。35歳以上の女性が妊娠を試みてから受精せずに6か月が経過した場合は、専門家へ相談するべき。
・正常な月経サイクルの女性は月経後からを毎日か、一日おきに性行為行うと、妊娠率の向上につながる。
・喫煙、過度の飲酒(1日2杯以上)は、妊娠を希望するカップルが避けるべきである。

[文献]

Optimizing natural fertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2013;100:631-7

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