40代からの不妊治療方針について考える

2012年11月12日

妊カラの読者アンケートに回答いただいた方の平均年齢が40歳を超えるようになってから3年になります。

そして、どの不妊治療クリニックでも、初診患者さんの平均年齢が、年々、高くなっていて、たいていは30代後半、都市部では限りなく40歳に近づいていると聞きます。

そんな状況を反映して、最近、マスコミでも「卵子の老化」が盛んに取り上げられるようになりました。

ところが、現実の問題として、30代後半、そして、40代になってから子づくりをはじめようとするカップルで、不妊治療で妊娠を目指そうという場合に、助けになる情報があまり発信されていないように思えてなりません。

そこで、今月の特集では、40代以上の女性、中でも不妊原因のない原因不明不妊、すなわち、年齢による卵巣機能低下で妊娠しづらくなっている女性が不妊治療を受けて妊娠を目指す場合の治療方針について考えてみたいと思います。

なぜ、女性の年齢とともに妊娠しづらくなるのか

これは、もう、自然の摂理という他ありません。

一言で言ってしまうと、卵子の数が減り、質も低下してしまうこと。その結果、「妊娠するだけの力が備わった卵子が排卵されてくる頻度が、年齢とともに、少なくなってしまう」からです。

これが主因です。

その背景には、女性の宿命と言うしかないメカニズムが働いています。

毎日、新しい精子をつくり続けている男性と違い、女性は生まれたときには卵巣内にすべての卵子の元がすでに存在し、新たにつくられることはなく、その後は減る一方で、出生時に40万個、月経が始まる頃には20万個、以降は毎月数百個単位で減り続け、閉経時には1000個以下になると考えられています。

一方、残っている卵子も一緒に年をとることになり、その中には染色体異常などによって質が低くなってしまう卵子が増えてくる、このような現象が卵巣内で起こっているわけです。

つまり、卵巣内に残っている卵子の総数が減り、その中で妊娠できるだけの質を維持している卵子の割合も低くなってしまうというわけです。

さらに、それ以外の年齢による老化現象、たとえば、卵管の働きの低下や血流の悪化、酸化ストレスの増加などが、直接的、間接的に、妊娠しづらくさせてしまう頻度が高くなってきます。

このようなメカニズムの進行は、早いか遅いかの個人差こそあれ、避けられないものです。

そして、それは、どの程度なのか

女性の妊娠する力は、20代前半がピークです。それ以降、徐々に低下していきますが、30代後半以降、急激に低下し、40代半ばでほとんど妊娠、出産は困難になってしまいます。

一説によると、40歳時点の妊娠する力は、20代前半の頃のだいたい半分以下になってしまうとされています。

一方、体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療の治療成績はどうでしょうか。

日本産婦人科学会による2009年の年齢別のデータでは、30歳で1回の治療で出産する確率は約20%、35歳になると約17%、それが40歳では8%、41歳で5%、42歳で3.5%、43歳で2.4%、44歳になると1.2%になってしまいます。

このデータは、たとえ、高度な不妊治療を受けても、年齢による妊娠率の低下は免れないということを物語っています。

このように、40代から妊娠を目指すことは、確率的には相当不利であるうえに、妊娠後は高齢出産になり、相応のリスクが伴うようになります。

であればこそ、不妊治療を受けるにあたって、それ相応の作戦を立てて臨む必要があるわけです。

原因不明(卵子の老化)の不妊では不妊治療に何を求めるのか

特別な不妊原因は見当たらないものの、40代という年齢による卵子の老化が原因と考えられる場合、不妊治療に何を求めればいいのでしょうか?

体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療が進歩し、普及したことで、たとえ、40代でも、なんとなく、不妊治療を受ければ、どうにかなるのではないかと、漠然と考えている方は少なくないように思います。

そこで、高齢による不妊に対して、不妊治療に何が期待できて、何が期待できないのか、整理してみたいと思います。

まずは、もう一度、なぜ、女性の年齢が高くなると妊娠しづらくなるのかについて確認します。

それは、卵子の数が減り、質も低下してしまうことによって、「妊娠するだけの力が備わった卵子が排卵されてくる頻度が、年齢とともに、少なくなってしまう」、その上に、年齢を重ねたことによる老化現象によって、「妊娠、出産を支える体内環境が悪くなっていることがある」からでした。

ここで理解しておかなければならないのは、根本的な解決策、すなわち、卵巣内の卵子の数を増やしたり、卵子の質を高めたりすることは、現時点の医療では、もちろん、あらゆる代替医療でも、不可能だということです。老化の進行は逆転できないということです。

この、自然の摂理とも言うべき、大前提を理解しておくことがとても大切だと思います。

つまり、「卵巣内に残っている卵子で妊娠を目指さなければならない」ということになるわけです。

さて、卵巣内には40代と言っても、理論的には、何万個もの卵子が残っている計算になります。

そして、その中には、妊娠するだけの力を備えた卵子もあれば、質が低下している卵子もあります。それらの卵子がどれくらいの割合なのか知る方法はありませんが、これも、理論的には、妊娠するだけの力を備えた卵子のほうが少数派と考えざるを得ません。

であれば、妊娠を確実にするためには質のよい卵子が排卵されるように働きかければいいのではないか、そう思います。

ところが、これも悲しいかな、質のよい卵子だけを成熟させ、排卵させることも不可能なのです。もっと言えば、毎月、1個の卵子(主席卵胞)が成熟し、排卵するわけですが、そんな自然なプロセスにおいても、質のよい卵子が選ばれて成熟し、排卵されるわけではないのです。

ランダムで、何の法則性も、規則性もないのです。

質のよい卵子、すなわち、妊娠するだけの力が備わった卵子が成熟し、排卵されるかどうかは、たまたまで、私たちにはコントロールできないということ。

これが、もう1つの理解しておくべき、大切な大前提です。

つまり、「運命の巡り合わせ」なわけで、ひたすら、「待つ」しかないのです。

それでは、不妊治療は全く無力なのでしょうか?

そんなことはありません。根本的な治療、すなわち、卵巣内の卵子の数を増やしたり、卵子の質をよくしたり、質のよい卵子だけを選別して成熟させることは出来ませんが、妊娠の確率を高めることは出来ます。

それは、自然なプロセスでは毎月1個の卵子が成熟し、排卵されるのですが、過排卵と言って、排卵誘発剤で複数の卵子を成熟させることによって、妊娠するだけの力の備わった卵子に出会う確率を高くするという方法です。

排卵誘発剤を使って、タイミング法や人工授精では複数の卵子を排卵させ、体外受精では複数の卵子を採卵し、質のよい卵子との「出会いの確率」を高くします。

ただし、高齢不妊女性では、そもそも、卵巣機能が低下しているケースが多いわけですから、排卵誘発剤を使っても複数の卵子が育たない場合もあり、ここは個人差が大きいことも理解しておく必要はあります。

そうは言うものの、たとえ、卵巣機能が低下している場合でも、排卵誘発方法を工夫することで、複数の卵子を排卵させたり、採卵したりすることが可能なケースも少なくありません。

ここは、ズバリ、「ドクターの腕」です。高齢女性への不妊治療の経験が豊富で、最新の生殖医療技術を駆使できるドクターにかかることです。

もう1つは、体外受精や顕微授精です。

もしも、妊娠できるだけの卵子に出会えた時に、たまたま、その周期に限って、卵管の通りが悪かったり、卵管采がピックアップに失敗したり、さらには、精子の状態が悪かったりして、精子と卵子が出会えなくなったり、出会えても受精しなかったり、受精後の受精卵が子宮まで到達出来なかったりすれば、泣くに泣けません。

カップルが高齢になるほど、身体の機能も低下して、妊娠に至るプロセスの環境が悪化しやすくなるからです。

ただ、これらのことって、女性のお腹の中で起こっていることなので、確かめようがありません。

ですから、質のよい卵子が排卵されるという、とても貴重な機会に、確実に妊娠できるように、可能なところまでは医療技術で補助しておきましょうということです。

体外受精や顕微授精は、本来は卵管障害や男性不妊を治療するための生殖補助ですから、本当は必要のない補助なのかもしれませんが、念には念を入れるというか、保険をかけるという意味での補助と言えるかもしれません。

このように、原因不明の高齢不妊に対しては、卵巣内に残っている卵子で妊娠できる確実性を高めるための生殖医療になります。

1つは、排卵誘発剤で複数の卵子を排卵させたり、採卵したりして、質のよい卵子に巡り会う確率を高めること、そして、もう1つは、もしも、質のよい卵子に巡り会えた時に確実に妊娠できるように、体外受精や顕微授精で卵子と精子を確実に出会わせて、受精卵(胚)を子宮内に戻し、もしかしたら、起こりえるかもしれないであろう障害を取り除くということです。

40代からの不妊治療の治療方針

原因不明不妊の場合、女性の年齢が比較的若ければ、原因がないのではなく、原因をみつけることが出来ないと考えられることから、出来るだけ負担の軽い治療で妊娠を目指す目的で、ステップアップ方式で治療を進めていくのが一般的です。

40代と言えども、身体にかかる負担の軽い治療で妊娠するに越したことはないわけですから、基本的にはステップアップ方式になるわけですが、ただし、妊娠率の推移をみると、40代の1年は30代前半の数年くらいに相当します。

ですから、残された時間を大切にする意味で、効果があまり期待できない治療は避けるべきですし、同じ治療の回数も30代前半で勧められる回数の半分か、3分の1くらいにし、早めにステップアップしたほうが得策です。

それでは、これまでの文献を参考にして、「原因不明で年齢による卵子の老化が原因の40代女性で、不妊治療で妊娠を目指す場合」の治療方針を考えましょう。

まずは、大前提として、この場合に妊娠できるかどうかを左右する最大の要因は、質のよい卵子が排卵されることです。そして、そのことはコントロールできない、すなわち、どの周期になるか予測できないわけですから、治療を受けていても、受けていなくても、いい卵子が排卵される可能性があるわけで、常に、タイミングを意識して性交することがとても大切です。

さて、治療ですが、一般的には、飲み薬の排卵誘発剤、クロミフェンを服用し、タイミング指導や人工授精を受けることからスタートすることが多いと思いますが、原因不明の40代の女性に対する効果はそれほど高くありません。反対に、年齢の影響で、妊娠を支える環境が悪化しやすくなっている上に、頸管粘液が悪くなったり、子宮内膜が薄くなるという副作用が伴うと、余計に不利になります。

そのためクロミフェン服用はそれほどの効果が期待できないため、避けるのが無難です。

一方、注射薬の排卵誘発剤であるゴナドトロピン(HMG)で、しっかりと卵巣を刺激し、複数(3~4個)の卵子を成熟、排卵させ、質のよい卵子が排卵させる確率を高め、そして、より、確実を期して、人工授精を行います。

周期あたりの妊娠率は10%前後、出産率は5%前後と言ったところです。

この治療で、3周期を目安に、チャレンジします。

そして、これで妊娠に至らなければ、排卵誘発を伴う体外受精に移行します。

体外受精では、排卵誘発剤で卵巣刺激を行い、複数の卵子が採卵できれば、質のよい卵子を出会える確率を高め、そして、1個か2個の受精卵を新鮮胚移植し、余った受精卵を凍結し、子宮内膜の状態を整えたうえで、胚移植することで、より妊娠のための環境を整えることが可能になります。

繰り返しますが、いずれの治療でも、卵巣機能(卵巣予備能)が低下している中、卵巣を刺激しても1個の卵しか成熟しなかったり、また、卵の成熟も困難であったり、強い卵巣刺激が困難なケースもあるでしょう。

その場合は、1個の卵子でチャレンジせざるを得なくなるわけで、質のよい卵子に巡り会える確率を高めることは望めなくなり、治療効果は、もしも質のよい卵子が採卵出来たときに、確実を期すことのみになってしまいます。

さいごに

高齢による卵子の老化が原因の40代女性にとっては、HMG+人工授精を3回、それでも妊娠に至らなければ、しっかりと卵巣刺激をし、複数の卵子を採卵し、体外受精、もしくは、顕微授精に臨むというのが基本になりそうです。

もしも、43、44歳であれば、すぐに体外受精を受けてもいいかもしれません。

卵子の老化に対する治療は、未だ、確立されていません。また、アメリカなどの海外では、若い女性から卵子の提供を受けるという方法が現実的な選択肢としてあります。

そのため、この治療方針は、あくまで、40代で、体外受精や顕微授精などの高度治療の助けを借りてでも、妊娠を目指したいというカップルのためのものです。

そして、最後の大前提として確認しておきたいことは、高度生殖医療を繰り返したからといって、必ずしも、全てのカップルが妊娠、出産出来るわけではないということです。

これまでの治療成績をみれば、5回繰り返しても、出産に至ることは出来るカップルは半分に届かない確率です。

それに要する、肉体的、経済的負担と治療効果や確率を天秤にかけると、自然妊娠の可能性もゼロではないわけですから、治療を受けずに、それにかける費用を旅行などに使って、楽しみながら、表現は本当によくありませんが、「駄目もと」で待つという考え方も、当然、あると思います。

そういう意味では、治療を受ける場合でも、予め、回数を決めておいて臨むことが大切なように思います。

高度治療と言えども、根本治療ではありません。そして、精神的には、「これだけやった」という納得感を得るためのものという意味合いも大きいのではないでしょうか。

決して、頼るべき手段ではありません。

だからこそ、信頼のできるドクターやスタッフとの出会いも大切でしょう。

この先生だったらどういう結果に終わろうともふたりが納得できると思えるような先生に出会えれば、それこそ、理想的ではないでしょうか。

妊娠の成立を左右する最大の要因は「運」です。

そして、運よく、妊娠できるだけの卵子と出会うことが出来れば、その障害になるものは取り除いておくべきだし、さらに、新しい生命が健康に成育するための体内の環境を整えておくことがとても大切でしょう。

これは自分たちの意志と行動力でどうにかなることです。

そのために、バランスのよい食生活を心がけ、不足しがちな必須栄養素をサプリメントで補い栄養環境を整え、適度な運動と規則正しい生活リズムで血流をよくすることです。

20代のカップルでも、40代のカップルでも、妊娠がゴールではなく、健康なお子さんを出産し、育てることを見据えておくこと、そして、家族の幸福な生活を見据えておくことが、一番、大切なことだと、私たちは思います。

[文献]

What should be the first-line treatment for unexplained infertility in women over 40 years of age - ovulation induction and IUI, or IVF?
Reproductive BioMedicine Online 2009;19(4):4334-4347