30代後半、40代からの不妊治療を考えるうえで

2014年05月13日

不妊治療をスタートする年齢が、年々、高くなり、通院している患者さんの平均年齢が40歳代になったというクリニックもあるようです。

私たちのところに寄せられるご相談も、30代後半、40代で結婚した、あるいは、子づくりをはじめたのだけれども、「どのタイミングで不妊治療をスタートすべきか」とか、「すぐに体外受精からはじめたほうがいいのか」というような内容が多くなって久しくなります。

従来の「不妊治療の教科書」をみてみると、たいていは、通院は、子づくりをはじめて1年間授からなかった場合と書かれていますし、治療の進め方についても、ステップアップ方式と称して、まずは、タイミング指導を3ヶ月から半年、それでも授からなかれば、人工授精に移行してというような目安が書かれています。

ところが、この世界で「高齢」とされる年齢から治療をはじめるとなると、1回の治療で妊娠できる確率が低くならざるを得ないわけで、ゆっくりはしていられません。

通院をはじめるタイミングとしては、30代後半、具体的には37歳以上になれば、1年待たなくても、半年くらいではじめるのがよいというのが一般に言われているようですが、治療の進め方については、基本検査の結果、女性側にも、男性側にも異常なしということであれば、どれくらい急ぐのがいいのか、なかなか、判断に迷うところだと思います。

そこで、つい最近、そのために参考にしてもらえそうな研究報告が発表されましたので、ご紹介したいと思います。

The Forty and Over Treatment Trial(FORT-T)

アメリカのハーバード大学の関連病院である、ボストンIVF、ブリガムアンドウィメンズホスピタルで、避妊をやめてから半年間妊娠しなかった38歳から42歳の女性154名を対象に実施されました。

対象者はいずれも基本検査の結果、男女とも異常はみられない、原因不明不妊です。

ランダムにクロミフェン(飲み薬の排卵誘発剤)+人工授精、FSH(注射薬の排卵誘発剤)+人工授精、そして、体外受精の3つのグループにわけ、2周期の治療を受けてもらい、それで妊娠に至らなかった場合、最大6周期まで体外受精を受けてもらいました。

要するに、まずは、人工授精からはじめた場合、すぐに、体外受精からはじめた場合、妊娠率や妊娠するまでに要する期間がどれくらい違うのを調べようというものです。人工授精の場合は、妊娠の確率を高めるために、飲み薬と注射薬の排卵誘発剤を服用し、複数(2~3個)の卵を成熟させました。

最初の2周期の妊娠率、出産率比較

最初の2周期の妊娠率は以下の通りです。

→クロミフェン+人工授精:51組のうち11組が妊娠(21.6%)
→FSH+人工授精   :52組のうち9組が妊娠(17.3%)
→体外受精       :51組のうち25組が妊娠(49.0%)

ご覧の通り、人工授精からはじめたカップルでは、だいたい、5組に1組しか妊娠できなかったのに対して、すぐに体外受精からはじめたカップルでは2組に1組が妊娠できています。

もちろん、不妊治療の目的は妊娠ではなく、出産なので、最初の2周期での出産率もみておきましょう。

→クロミフェン+人工授精:51組のうち8組が出産(15.7%)
→FSH+人工授精   :52組のうち7組が出産(13.5%)
→体外受精       :51組のうち16組が出産(31.4%)

このように、最初の2周期の治療成績を比べてみると、体外受精が最も良好な治療成績が得られることがわかります。

一方、人工授精では飲み薬でも、注射薬でも、治療成績に違いがみられません。

全試験期間(2周期+最大6周期の体外受精)の妊娠率と出産率

次に、全試験期間を通じた治療成績です。3つの治療方法で2周期の治療を受けて妊娠に至らなかったカップルは、引き続き、最大6周期の体外受精を受けています。

その結果は以下の通りです。まずは、妊娠に至った割合です。

→クロミフェン+人工授精:トータルで38組が妊娠(74.5%)
→FSH+人工授精   :トータルで34組が妊娠(65.4%)
→体外受精       :トータルで38組が妊娠(74.5%)

次に出産した割合です。

→クロミフェン+人工授精:トータルで25組が出産(49.0%)
→FSH+人工授精   :トータルで22組が出産(42.3%)
→体外受精       :トータルで24組が出産(47.1%)

試験期間を通して、みてみると、様子が変わってきます。こうしてみてみると、人工授精からはじめたか、体外受精からはじめたか、最終的には大きな違いがないことがわかります。

妊娠するまでに要した平均期間の比較

今度は違う角度から治療効果を比較してみます。それは、全試験期間を通して、妊娠するまでにかかった平均の期間を比べてみようというものです。

→クロミフェン+人工授精:9.1±0.6ヶ月
→FSH+人工授精   :12.4±1.0ヶ月
→体外受精       :8.7±0.5ヶ月

人工授精でまとめてみると、

→人工授精からはじめた場合:12.2±0.7ヶ月
→体外受精からはじめた場合:8.7±0.5ヶ月

このように、すぐに体外受精ではじめたカップルのほうが平均で3ヶ月半、早く妊娠に至っていたことがわかります。

高齢で不妊治療をはじめる際の参考として

◎早く妊娠することを最優先するのであれば体外受精からはじめる

とにかく、早く妊娠することを最優先するのであれば、すぐに体外受精からはじめるのが得策です。

その理由を整理してみます。

対象カップルは、いずれも基本検査で女性側、男性側、ともに問題がありませんでした。ですから、もしも、なんらかの原因が特定された場合は、当然、その原因に対する治療が施されることになります。

30代後半、40代で、原因不明というのは、すなわち、年齢による妊娠率の低下が主な原因であると考えられます。

いわゆる、卵子の老化です。もちろん、卵子の老化に対しては有効な治療は存在しません。ただし、女性が高齢になるほど、さまざまな理由で卵管の機能低下のリスクが高まります。そのため、検査では問題ないという結果が出ていても、常に、もしくは、何周期に1回は卵管が働かないために卵子と精子が確実に出会えていない可能性が出てきたりします。

体外受精は、そのような高齢女性で想定され得るリスクを回避できます。

また、体外受精では採卵の前に排卵誘発剤で卵巣を刺激し、複数の卵胞を成熟させ、たくさんの卵を採卵し、妊娠するだけの力を備えた卵子と出会う確率を高めようとします。

◎いきなり体外受精からはじめるのに抵抗があれば人工授精からはじめる

いくら、早く妊娠できる確率が高いからといって、すぐに体外受精からはじめるのは抵抗があるというカップルも少なくないと思います。

そのような場合は、まずは、人工授精からスタートしても、大きく妊娠の機会が損なわれるようなことはないこともおわかりいただいたと思います。

人工授精を何回か繰り返し、それでも妊娠に至らなかったら、先生やパートナーと相談し、適切と考えられるタイミングでステップアップされればよいと思います。

また、その場合、排卵誘発を併用されるのであれば、高価で身体に負担のかかる注射薬でなく、飲み薬で十分なのかもしれません。

◎タイミングでしばらく様子をみてみるという選択肢も有り

今回の試験では、人工授精ではじめた場合と体外受精ではじめた場合を比較しているのですが、興味深いことに、治療外による妊娠が相当数あるのです。

全試験期間を通して、出産に至った数の20%は治療外、すなわち、それぞれの治療の合間に自然妊娠しているのです!

そして、その数は、クロミフェン+人工授精で出産に至った数よりも多いのですね。

このことは、高齢と言えども、自然妊娠の可能性は十分にあるということを物語っています。

ですから、30代後半、40代から不妊治療をはじめる場合でも、まずは、一定の期間、自然妊娠を目指して、タイミングで様子をみてみるという選択肢も、また、十分にあり得るというわけです。

高齢で妊娠、出産を目指すうえで大切なこととして

今回の研究報告は、38~42歳で子づくりをはじめて半年たっても妊娠しなかった女性を、ランダムに、かつ、妊娠する力が同じレベルに、3つのグループにわけ、治療成績を比較したものです。

信頼の高い方法で実施されていますので、得られたデータは貴重だと思います。

最後に、もう一つ、大切なことを確認しておきたいと思います。それは、この試験の対象者は、いずれも卵巣機能が正常であるということです。

30代後半、40代で、検査で問題がなければ、妊娠する力は、ほとんど、卵巣機能に左右されます。年齢によって、卵巣が老化し、若い頃のように、毎周期、卵胞を育て、排卵させる力が衰えてきたり、排卵誘発剤への反応しなくなったりすると、さまざまな治療も効果も低くなり、妊娠が難しくなってしまいます。

卵巣機能は個人差が大きいものです。現在、アンチミューラリアンホルモン(AMH)が卵巣機能を知る目安になる検査とされています。30代後半、40代で不妊治療をはじめる場合、卵巣機能は治療の進め方を検討するうえで参考にすべき大切な指標になることも知っておきたいことです。

さて、高齢になれば、なるほど、妊娠できるかどうかは、卵巣内に残っているよい卵子に巡り会えるかどうかにかかってきます。

よい卵子から順番に排卵されるわけではなく、あくまで、ランダムですから、偶然が支配する世界になります。

大切なことは、治療内容や治療の有無は別として、毎周期、チャレンジするということ。そして、ふたりが、あとあと、後悔しないように納得感のある赤ちゃん待ち期間を過ごすことだと思います。

[文献]

A randomized clinical trial to determine optimal infertility treatment in older couples: the Forty and Over Treatment Trial (FORT-T)
Fertility and Sterility ARTICLE IN PRESS.