さる7月3日から6日まで、スウェーデンのストックホルムにて、第27回ヨーロッパ生殖医学会が開催されました。
学術集会で、口頭やポスターで発表された最新の研究報告から、皆さんのお役に立ちそうなテーマをピックアップして、ご紹介したいと思います。
まずは、歯周病と不妊の関係から。
歯周病があると妊娠するまでに時間がかかる
歯周病がある女性は、そうでない女性に比べて妊娠するまでに時間がかかる。そして、歯周病が妊娠することに及ぼすマイナスの影響のレベルは肥満と同じレベルである。
▼西オーストラリア大学の実施した研究
◎対象者は?
西オーストラリアの3737人の妊婦
◎どんな方法で?
歯周病の有無と妊娠する迄に要した期間の関係を調べた。ただし、不妊治療を受けて妊娠、出産した妊婦は除外した。
◎結果は?
・歯周病のある女性は、妊娠する迄に平均7ヶ月かかっているが、歯周病のない女性のそれは5ヶ月と、歯周病のある女性のほうが平均2ヶ月、妊娠するまでに時間がかかった。
・非白人女性のほうが歯周病の影響をより強く受けており、非白人で妊娠するまでに1年以上かかった女性の割合は、歯周病のある女性では13.9%、歯周病のない女性では6.2%だった。白人で妊娠するまでに1年以上かかった女性の割合は、歯周病のある女性では8.6%、歯周病のない女性では6.2%だった。
・妊娠するまでに1年以上かかった女性の傾向は、より年齢が高く、喫煙習慣があり、肥満度は25以上、そして、歯周病があることだった。
・歯周病の妊娠へのマイナスの影響は肥満のそれと同じレベルだった。
▼コメント
歯周病は、歯の周囲の組織が歯垢(プラーク)の歯周病菌に感染し、歯茎が腫れたり、出血したりする歯の周りの病気の総称です。初期は自覚症状がないことがほとんどなので、気づかないことが多く、日本では成人の約80%がかかっているという説があります。
以前から歯周病は早産や流産のリスクを高めるとの報告がありましたが、歯周病があると、妊娠するまでに時間がかかるということを確かめた報告は初めてのようです。
妊娠を望む女性は、歯の治療を済ませておき、食後は必ず歯を磨いて、口内を清潔に保つことが大切だとアドバイスしています。
次は、食生活の改善について、2つの興味深い報告です。
食生活の改善が顕微授精の治療成績に及ぼす影響
専門家から栄養指導を受けて、食生活を改善した患者は、栄養指導を受けず、食生活の改善に取り組まなかった患者に比べて、顕微授精の妊娠率が高かった。
▼ブラジルのサンパウロの不妊クリニックで実施した試験
◎対象者は?
顕微授精を受けている不妊症患者60名
◎どんな方法で?
胚移植の日に、院内の専門家の食事指導を受けたかどうか、食生活を改善したかどうかについてアンケート調査を実施し、その後の治療成績との関連を調べた。
◎結果は?
・食生活を改善した患者は32名、しなかった患者は28名だった。
・受精率:改善グループ:81.0%、非改善グループ:67.1%
・妊娠率:改善グループ:46.9%、非改善グループ:28.6%
▼コメント
院内の専門家から指導を受け、食生活を改善した患者は、食生活の改善に取り組まなかった患者に比べて、妊娠率が2倍以上だったというのは驚くべき結果です。
主な改善内容は、精製度の低い穀物を食べることや野菜や果物を増やすこと、そして、バランスよく食べることだと言います。
食生活を改善することで、体内の代謝効率が高まることで、卵巣の反応がよくなり、治療効果が高まったのではないかとのことです。
もう1つは、男性の妊娠させる力への影響です。
生活習慣と精子の質や治療成績の関係
喫煙や飲酒の習慣は精子の質の低下を招き、穀物や果物の多い食生活は精子の質をよくする。また、不妊治療の治療成績では、肉を多く食べることや欠食、ダイエットのための貧弱な食生活を送る男性のパートナーの妊娠率が低いことがわかった。
▼ブラジルのサンパウロの不妊クリニックで実施した試験
◎対象者は?
高度生殖補助医療を受けている患者のパートナーの男性250名
◎どんな方法で?
治療のスタート時に、対面式のインタビューで、同一の専門家による食物摂取頻度調査票で、リストアップされた食品や料理について、過去の一定期間における平均的な摂取頻度をたずねて摂取量を推定した。また、運動や喫煙、飲酒の習慣などの生活習慣について尋ねました。その結果と精液検査の結果や治療成績との関連を解析しました。
◎結果は?
・精子濃度は、喫煙習慣や肥満、飲酒によってマイナスの影響を受け、穀物や果物の摂取、欠食しないことによってプラスの影響を受けた。
・男性の飲酒や肉食はパートナーの受精率を低くした。
▼コメント
男性の食生活や生活習慣と精液検査の結果との関連については、いろいろな報告がありましたが、パートナーの治療成績との関連まで調べたものはあまりなかったように思います。
間接的ですが、確実にパートナーの治療成績に影響を及ぼすようです。
次は、不育症についてです。
不育症女性の妊娠、出産についての長期追跡調査結果
3回以上の流産を繰り返した不育症女性は、不育症の専門クリニックに通院後5年後には3分の2が、15年後には70%以上が、少なくとも1人の子どもを出産している。
▼デンマークのコペンハーゲン大学で実施した研究
◎対象者は?
3回以上流産を繰り返し、1986年から2008年に不育症クリニックを訪れた20~46歳の987名の女性
◎どのように
デンマークの出産登録データで出産の記録を照合した。
◎結果は?
不育症クリニックを訪れてから5年後には66.7%の女性が子どもを出産し、15年後には71.1%の女性が出産に至っていた。
▼コメント
たとえ、3回以上の流産を繰り返しても、適切な治療を受けることで、もしくは、原因不明であれば、何の治療を受けなくても、高い割合の女性がお子さんを出産しているということです。
流産を繰り返している女性にはとても心強いデータだと思います。