不育症を正しく知り、理解する

2010年12月17日

不育症とは、妊娠しても、流産を繰り返す病気のこと。流産だけでなく、子宮内で胎児が亡くなることや早産、死産を繰り返すことも不育症に含まるそうです。

なかなか妊娠できないために子どもがもてないのが不妊症で、妊娠はできるけれども、赤ちゃんが育たないために子どもがもてないのが不育症というわけです。

流産は、女性にとって最も心を打ちのめされる経験の一つでしょう。喜びから一転、その落差はあまりに大きいものです。ましてや、ようやく授かったという経緯があれば尚更のことだと思います。

流産の後、心の落ち込みから徐々に立ち直っても、不安感は1年以上たってもなかなか拭えない傾向があるとの研究報告があり、心の痛手は次の妊娠に影響を及ぼさないとも限りません。

不育症は、そんな経験が繰り返されるわけです。その辛さがどれほどのものなのか、経験した人でないと分からないものでしょう。

ただ、現実の問題として、不育症や流産のことについては、間違った情報が飛び交っています。そのために、誤解や思い込みがとても多いように思います。

妊カラにも、流産のことや不育症のことについてのご相談を寄せられることが増えています。

まずは、不育症について正しく知り、理解することから始めなければなりません。

先月、厚生労働省の不育症研究班は、「Fuiku-Labo(フイク‐ラボ)」という不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究についてのサイトを開設しました。

そこで、今週の妊カラでは、このサイトの内容をベースに、不育症についてのトピックスをお送りしたいと思います。

■まずは、流産のことから

まずは、流産になってしまう頻度のことから始めます。

★流産率は15%、妊娠した女性の40%が流産の経験があります

流産とは、妊娠21週までに妊娠が終わってしまうことを言います。

すべての妊娠の約15%の頻度でおこっていて、そのほとんどは、妊娠11週までの妊娠初期におこっています。

また、妊娠したことのある女性の40%が流産を経験しているとの調査報告もあります。

★女性の年齢が高くなると流産しやすくなります

女性の年齢が高くなるほど、流産もおこりやすくなります。

年齢と流産率の関係をみてみると、10代から30代前半まではほぼ横ばいで、35歳になると20%、そして、それ以降急上昇し、40歳で40%、42歳で50%に達し、42歳超えると80~90%と言われています。

これは、女性の年齢が高くなるほど、流産の主な原因である染色体に異常のある卵子が排卵される割合が高くなるからだと考えられています。

★100人に4人が流産を2回、1人が3回繰り返します

35歳の女性の場合、流産率は約20%とされていますので、流産を2回繰り返す確率は、4%ということになります。35歳の女性の場合、100人に4人の割合で流産を繰り返してしまうというわけです。

3回繰り返す確率は同様に0.8%ですから、ほぼ1%で、100人に1人の割合で3回流産を繰り返すことになります。

■不育症とは?

次に、不育症のことなんですが、冒頭でお話しした通り、不育症とは、『妊娠しても、流産を繰り返す病気のこと』です。

一方、病気(異常)がないのにもかかわらず、不運にも流産を繰り返してしまうことだってあるわけです。

ここを正確に理解しておくことがとても大切だと思います。

なぜなら、それらを混同してしまうと、過度の不安を抱え込んでしまったり、不要な検査や治療を受けてしまうことになりかねないからです。

★流産には2種類あります。

流産には2つの種類があります。

1つは、流産を引き起こす病気があり、そのために本来ならば生まれてくるはずの赤ちゃんが妊娠の途中で失われてしまうというケース。

もう1つは、おこるべくしておこる流産です。つまり、染色体異常などの問題が胎児側にあって、妊娠の途中で"淘汰"されてしまうケースです。

前者の"病気が原因で"流産が繰り返されるケースが不育症なわけです。その原因を突き止め、しかるべき治療を施す必要があります。

もしも、後者の"起こるべくして起こってしまう"流産であれば、たとえ、繰り返しおこったとしても、治療の施しようがなく、防ぎようがありませんし、防ぐ必要もないと言えます。

多くの自然流産は自然淘汰によるものです。

そこで、気になるのはそれぞれの割合です。

その割合についてのだいたいの感覚をつかむことのできるデータがあります。

★流産を繰り返した後、検査や治療なしで次の妊娠で出産できる確率

2回流産した人が、何の検査も治療も受けないで、次の妊娠で、80~90%は流産しないで、出産に至っており、同様に、3回の流産を繰り返した人は、次の妊娠で、50~60%は出産に成功しているとの報告があります。

2回、3回と流産を繰り返せば、もはや、次の妊娠も流産になるだろうと思う方は少なくないでしょう。

ところが、実際にはそんなことはないのです。

要するに、2回流産を繰り返しても、その8~9割は不育症ではなく、たまたま、流産が続いただけで、たとえ、3回繰り返しても、半分以上は、たまたまだというわけです。

このことから不育症の頻度は、2回流産が続いた場合で10~20%以下、3回続いた場合でも40~50%以下と考えられるのです。

いいかがでしょうか?

たとえ、流産が2回、3回と続いたとしても、必ずしも、不育症であるとは限らないというわけです。

■不育症の検査について

次に不育症の検査について考えてみます。

★不育症検査を受けるタイミングについて

一般的には、2回続いたら、検査を受けるように勧められています。

ただ、実際には、流産が2回続いたとしても、不育症であるケース、すなわち、何らかの異常が隠れているケースのほうが圧倒的に少ないわけです。

ですから、年齢的に35歳以下で、膠原病などの自己免疫疾患など、流産を引き起こす可能性のある病気などがなければ、それほど神経質に考えなくてもよいのかもしれません。

もしも、3回流産が続いても、不育症である確率はそれほど高いものではありませんが、やはり、信頼のおける不育症専門の先生に相談しておくのが安心だと思います。

★不育症検査の結果の受け止め方について

実際のところ、不育症の検査を受けても、必ずしも原因が判明するとは限りません。厚生労働研究班による不育症のリスク因子別の頻度では、原因不明が64.2%とされています。

このように、検査を受けても、何も異常が見つかれない場合、どのように受け止めればいいのでしょうか?

それは、「原因不明の不育症」ではなく、「偶発的に流産が繰り返された」、すなわち、たまたま、避けることの出来ない自然淘汰が、不運にも続いただけと受け止めるべきではないでしょうか。

もしも、不育症の検査で原因が見つからなければ、自信をもって、次の妊娠にチャレンジすべきでしょう。

■不育症の治療について

不育症の原因にはどんなものがあるのでしょうか。

主な原因は、夫婦のどちらかに染色体異常があることや子宮の形が悪いこと、そして、自己免疫異常により、抗リン脂質抗体という自己抗体をもっていることとされています。

もちろん、不育症が起こるメカニズムは、決して、単純なものではありませんから、リスクになる因子は多岐に渡るはずです。

ただ、頻度が高く、適切な治療や対策を講じることで、明らかに妊娠成功率が高くなるのは、これらの3つに集約されるようです。

以下にそれらの治療法をごく簡単にまとめてみます。

★夫婦側の染色体異常によるもの

夫婦のどちらかに染色体異常があれば、流産しやすくなると言われています。転座といって、染色体の一部が他の染色体の一部と入れ替わった異常です。

流産を2回繰り返すカップルの約4%、3回のカップルの約7%に、染色体異常がみつかるとされています。

[治療法]

染色体異常に対しての根本的な治療法はありません。

ただ、夫婦側に染色体異常があれば、100%流産になるわけではありません。夫婦のどちらかに染色体異常があったとしても、健康なお子さんをもつ可能性が半分以下になることはありません。

たとえば、3回の流産を繰り返し、夫婦のどちらかに染色体異常があるカップルが、次の妊娠で出産に至る確率は63%と言われています。

染色体異常のないカップルに比べれば低いものの、決して、悲観すべき確率ではありません。

★子宮奇形によるもの

不育症全体の約15%くらいとされています。

女性の子宮の形は顔と同じで、多かれ少なかれ、異なるようです。ただし、奇形だからといって、必ずしも、流産するとは限りません。子宮奇形と診断されても、治療を受けなくても、8割弱は出産に至っているとの報告があります。

[治療法]

治療は手術によります。

★抗リン脂質抗体

不育症全体の20%くらいとされています。

抗リン脂質抗体をはじめとする、自分の身体の一部を間違って異物として認識してしまう抗体(自己抗体)をつくることで、血液が固まりやすくなってしまいます。

血液が固まりやすいと、胎盤に血栓が出来て、胎児に血液の供給が不十分になり、流産を引き起こしてしまうのではないかと考えられています。

[治療法]

アスピリンやヘパリンといった薬物療法です。

★不育症治療の治療成績

不育症の治療でどれくらい出産に至ることが出来るのでしょうか。厚生労働省の不育症研究班の発表の各治療法の治療成績は以下の通りです。

※染色体異常を除いた妊娠成功率(妊娠数)

・アスピリン 80.2%(241)
・へパリン+アスピリン 84.9%(236)
・へパリン+アスピリン+ステロイド 53.8%(19)
・アスピリン+ステロイド 80.0%(27)
・カウンセリング 79.2%(55)

妊娠数からみると、ほとんどの治療は、アスピリンやアスピリン+へパリンであり、その成功率は80%、85%と、ほとんどが出産に成功しています。

また、特筆すべきは、カウンセリングで80%が流産を克服されていることです。

このデータは、もしも、不育症と診断されても、適切な治療を受ければ、高い確率で出産に至ることが可能なこと、そして、流産を繰り返しても、異常のない「偶発的に流産が繰り返される」ケースが多いことを物語っているのではないでしょうか。

■最後に、テンダー・ラビング・ケアについて

ヨーロッパ生殖医学会の専門誌に、掲載されている不育症の検査や治療についてのガイドラインには、不育症に対する確立された治療法は、テンダー・ラビング・ケア(Tender Loving Care)、略してTLCだけだという記述があります。

それは、英語の意味するとおりで、"優しく、愛情をもって、接し、いたわる"とでも訳せるでしょうか。

私たちはこの記述に大変驚きました。

このことは、何を意味するのでしょうか?

まずは、たとえ、流産を繰り返しても、治療を受けなければ出産に至れないケースは小数派であること。

また、流産を繰り返すことは、当事者には相当なストレスになるということ。

そして、流産が繰り返し、おこってしまったら、適切な治療を受けることもさることながら、最も大切なのは、メンタル面のケアだということではないでしょうか。

いかがでしょうか?

流産を繰り返しても、その内の多くのケースは異常はなく、たまたま、流産が続いただけで、次の妊娠で高い確率で出産に至っています。

また、たとえ、不育症と診断されても、適切な治療を受けることで、80%以上は出産することが出来ているのです。

大切なことは、流産を繰り返したことで、次の妊娠でも同じことがおこるのではないかという、当事者でないと分からない「えも言われぬ不安や心配といかに闘うか」ではないでしょうか?

そのためには、流産や不育症について正しく知り、理解すること、そして、それ以上にパートナーや周囲の支えが必要なのではないかと、つくづく、思います。