子宮内の細菌環境がART治療成績に及ぼす影響

不妊原因になる病気

2026年02月13日

Hum Reprod 2026 Feb 3:deaf252.

ART治療(生殖補助医療)で妊娠に至らなかった女性患者の子宮内膜では、細菌の種類が多様で、特にPrevotella属(プレボテラ属)などの酪酸を作り出す菌が存在すると、局所的な炎症や子宮内膜上皮のバリア機能の低下を引き起こし、着床を妨げている可能性があることが示されました。

受精卵の着床には、子宮内膜が着床を受け入れられる状態に整っていることと胚移植や着床に最も適したタイミング(Window of Implantation: WOI)が合うことが不可欠です。また、子宮内膜で起こる炎症に関わるシグナルも着床に関与していることが知られています。特にIL-17という炎症関連経路を介した子宮内膜炎症の調整不全は不妊と関連しており、原因不明不妊でARTが成功しなかった女性ではその調節異常が確認されています。

一方、腸内細菌叢の重要性は確立されていますが、子宮内膜細菌叢の着床や妊娠継続における役割はよくわかっていません。ART治療周期では細菌叢の多様化が見られることもあり、その構成や細菌からつくられる代謝産物(乳酸や短鎖脂肪酸など)が着床環境に影響を与える可能性が指摘されています。

そこで、アイルランドの国立大学トリニティ・カレッジ・ダブリン(Trinity College Dublin)のGiangraziらは、ART(生殖補助医療)を受ける女性患者を対象に、子宮内膜のマイクロバイオーム(微生物の集まり)を解析しました。
本研究では、細菌が産生する代謝産物が、子宮内膜の免疫応答*や着床受容能にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的として、前向き縦断研究が行われました。
*体の中に細菌やウイルスなどの異物が入ってきたときに、それを排除しようとして起こる体の防御反応のこと

【試験1】
原因不明不妊と診断されたART女性患者29名の治療前の黄体中期(LH+7 排卵からおよそ7日後)に子宮内膜生検を実施し、採取した検体について、マイクロバイオーム解析と子宮内膜遺伝子発現解析(着床に最適な時期を特定する検査:主にERA検査)をそれぞれ実施しました。さらに、その後の胚移植の結果に基づき、妊娠に至った症例と妊娠に至らなかった症例を比較検討しました。

【試験2】
上記の患者群とは別に、生殖年齢にあり、かつ、妊孕能のある女性を対象として、腹腔鏡下手術の際にを子宮内膜生検標本を採取しました。その子宮内膜細胞株および採取した子宮内膜から分離した間質細胞を用いて、着床のin vitro(試験管内)モデルを構築しました。このモデルを用いて細菌由来の代謝産物である酪酸、酢酸、乳酸が着床過程に及ぼす影響を評価しました。

主な結果は以下の通りでした。
【試験1】細菌叢の乱れ:
妊娠に至らなかった女性の子宮内膜は、妊娠した女性の子宮内膜微生物叢に比べて微生物の多様性が有意に高く、健康な状態とされるLactobacillus属(ラクトバチルス属)の割合が低いことが明らかになりました。反対に、Prevotella属(プレボテラ属)やCorynebacterium属(コリネバクテリウム属)などの病原性との関連が示唆されている細菌が多く検出されました。

【試験2】代謝産物(酪酸)の影響:
Prevotella属(プレボテラ属)などが産生する短鎖脂肪酸である酪酸を添加した実験では、子宮内膜上皮細胞のバリア機能が低下が認められ、あわせて炎症マーカーや抗菌ペプチドの発現亢進が確認され、局所性炎症環境の誘導が示唆されました。さらに酪酸は、妊娠しなかった女性の組織で見られたような、受容能マーカーや脱落膜化マーカーの過剰な発現パターンを誘導しました。

ARTで妊娠に至らなかった女性の子宮内膜では、細菌叢の多様性が増し、酪酸産生菌が存在する傾向があり、この微生物由来の酪酸が、局所的な炎症を引き起こし、子宮内膜上皮のバリア機能を損なうことで、妊娠の成立を阻害している可能性が示され、細菌叢の乱れが免疫応答を介して不妊に寄与していることが示唆されました。

コメント

ART治療で妊娠に至らなかった女性患者の子宮内膜でLactobacillus属(ラクトバチルス属)が少なく、細菌叢の多様性の増加が認められました。また、酪酸などの代謝産物が増え、子宮内膜に「炎症+バリア機能の破綻+受容能マーカー過剰発現」という不適切に活性化された状態を引き起こす可能性が示されました。このことはERA検査(着床しやすい時期を遺伝子レベルで特定する検査)で測定される受容能マーカーが高いにもかかわらず妊娠しないという臨床的矛盾を説明しうるかもしれません。子宮内膜は受容能が高ければよいわけではなく、炎症、免疫、バリア機能との精密なバランスが重要なのかもしれません。