近年、子宮内や腟の細菌環境と不妊治療成績との関連を示す報告が増えています。そのため、プロバイオティクス(乳酸菌)やプレバイオティクス(ラクトフェリン等)の治療の補助としてしての利用にも関心が高まっています。
婦人科の領域においても細菌性腟症やカンジダ症に対する抗菌薬治療の補助として、腟内の細菌環境の改善や再発予防に有用であるかもしれないとの報告がなされていますが、不妊症女性の子宮内環境の改善が治療成績に関連するかについてはわかっていません。
そこで日本の研究グループは、ラクトフェリンサプリメントの摂取が子宮や腟内の細菌環境を改善するか、またラクトフェリン摂取後の治療成績との関連について調査しました。
関西の不妊クリニックに通院する女性で、反復着床不全でラクトバチルス率が90%未満、また慢性子宮内膜炎ではない女性37名に腸溶性ラクトフェリン1日700mgを28日以上飲んでもらいました。そして、ラクトフェリン服用後に細菌環境が改善されたグループと改善しなかったグループで、胚移植後の治療成績を比較しました。
その結果、腸溶性ラクトフェリンの服用後、43.2%で女性器内の細菌環境が改善されました。胚移植後の妊娠率、出産率は、細菌環境が改善したグループでは71.4%と57.1%、改善されなかったグループでは22.2%と11.1%となり、どちらも細菌環境が改善したグループで有意に高く、流産率は20.0%と50.0%と、改善したグループの方が有意に低いことがわかりました。
以上のことから、腸溶性ラクトフェリンは生殖器の細菌環境が不良で反復着床不全の女性に対して有用な治療の選択肢となる可能性が示されました。
*この研究では40歳未満の不妊症女性で5回以上の良好胚盤胞移植が連続して不成功だった症例を反復着床不全としました。
コメント
ラクトフェリンは、鉄と結合する性質をもつ糖タンパク質で、涙や唾液、汗、子宮頸管粘液などに含まれています。
ラクトフェリンが最も多く含まれるのは初乳(分娩後数日間の母乳)であることから、このラクトフェリンは、赤ちゃんの栄養源としてだけでなく、子どもを長期間守る仕組みやからだを健やかに成長させる成分が完璧に揃っている食品であると考えられています。
実際、これまでの数多くの研究で、ラクトフェリンには感染防御機能や免疫を調節する機能が備わっていることがわかっています。また、それだけでなく、痛みや不安を調節し、睡眠も調整していることもわかってきました。
子宮や腟内の細菌叢には「プレバイオティクス」として作用することが知られています。
具体的には、生殖器官内で悪玉菌が増え、ラクトバチルス(善玉)菌が少なくなっているような場合、悪玉菌の増殖に必要な鉄と結合し(奪い取って)、悪玉菌の増殖を抑制したり、免疫調節作用によって炎症を抑制し、ラクトバチルスが増殖し、常在しやすい環境を整えます。
生殖器の細菌環境と腸内の細菌環境は密接に関係していることがわかってきています。
お子さんを望む方、生殖器の細菌環境が気になる方は、腸内の環境を整えることから意識すると良いかもしれません。