ビタミンDと妊娠する力、育む力

2015年05月28日

ビタミンDがあらゆる分野で注目されるようになって久しくなりますが、妊娠や出産に際しても大変重要な役割を担っていることを明らかにする研究報告が相次いで発表されています。

ビタミンDとは?

ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、キノコ類などの植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と魚介類や卵などの動物由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)があります。

主にカルシウムとリンの吸収を促進し、骨をつくり、丈夫にすることが知られていますが、近年、細胞の増殖(細胞が増えること)や分化(新たな役割をもつこと)にも深く関わっていることがわかってきたことから、妊娠や出産時のビタミンDの働きについても注目されるようになってきました。

ビタミンDはホルモンである

ビタミンDは、その名の通りビタミンとされてはいますが、ビタミンDは体内で合成されています。そのため、供給源は「食品摂取」と「体内合成」の2通りあり、食品からの摂取は20%未満とされています。

本来、ビタミンは体内でつくられていない微量栄養素とされていますが、ビタミンDは体内で合成され、細胞の核内受容体への結合や遺伝子発現を介してその作用を発揮することから、「ビタミン」ではなく、「ホルモン」だとする専門家もいます。

ビタミンDはこうしてつくられる

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日光にあたると、紫外線の働きによって皮膚でコレステロールからプレビタミンD3が生成されます。

その後、体温によってビタミンD3に変換され、肝臓に運ばれてビタミンD濃度の指標とされている25(OH)D3に、そして、腎臓で活性型ビタミンDの1,25(OH)2D3となり、効果が発揮されるようになります。

一方、食事から摂取したビタミンDは小腸で吸収され、同様に肝臓に運ばれ、腎臓で活性化されるようになります。






ビタミンDと妊娠する力、育む力

近年ビタミンDが生殖機能や妊娠・出産に深く関わっていることを教えてくれる研究報告が相次いでいます。ビタミンDと生殖機能との関連については以下のような報告がなされています。

・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性はビタミンD濃度が低い
・PCOSによる排卵障害の女性はビタミンD補充によって排卵率が上がる
・卵胞液中のビタミンD濃度が高い女性ほど体外受精の妊娠率が高い
・30歳以上ではビタミンD濃度が高い女性ほどAMHが高い。
・ビタミンD濃度が高い女性は、子宮筋腫になりにくい。
・ビタミンD濃度が高い男性ほど精子の質が高い

また、ビタミンDと妊娠や出産のリスクとの関連については以下のような報告があります。

・妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症にかかりやすい。
・小さな赤ちゃん(低出生体重児)が生まれやすくなる。
・小児ぜんそくにかかるリスクが高くなる。

以上のように男女の生殖活動、すなわち新しい命を育む力を支えるのに直接、間接的に深く関わっていることは間違いありません。

ビタミンD濃度の目安と不足について

ビタミンDが不足しているかどうかは、血中のビタミンD濃度25(OH)Dより判断でき、この濃度が20ng/ml未満で不足、そして、10ng/ml以下は潜在性ビタミンD欠乏症とされています。

そして、最適な濃度は30~50ng/mlとされていますが、最低でも20~30ng/mlは確保すべきとする専門家の意見が多いようです。

ビタミンDは、1日に30分程度、週に2,3回、日光に当たっていれば不足することはないとされていますが、あくまで紫外線防止しないことが前提です。

日本人女性の半数以上はビタミンDが不足しているとの調査報告がありますが、それは、日焼け止めの使用などによって紫外線を避けるライフスタイルの影響が大きいのではないかと専門家の間で考えられています。

そもそも、どれくらい日光を浴びればいいのでしょうか?

国立環境研究所と東京家政大学の研究チームは、健康な生活を送るのに必要不可欠な成人の1日の量をつくるのに必要な日光浴の時間を日本の3地点(札幌、つくば、那覇)で調べています。

その結果、両手と顔を晴天日の太陽光に露出したと仮定した場合、紫外線の弱い冬の12月の正午では那覇で8分、つくばでは22分、そして、緯度の高い札幌では76分の日光浴が必要であることがわかったとのことです。

ただし、実際のところ女性にとってこれだけの時間、両手と顔を日光にさらすのは難しいかもしれません。

ビタミンDを効率よく摂取するために

ビタミンDを効率よく摂取するには、まず紫外線対策をせずに日光にあたるのが望ましいのですが、シミやシワが気になる女性にとっては難しいかと思いますので、まずは、毎日の食事でキノコ類や魚を意識して食べるようにすること、その上で、サプリメントで補うのが確実です。その場合、ビタミンDは、毎日15~25μgを補充することで必要とされる血中濃度は確実に保たれるとの試験結果があります。

妊娠を望まれている女性にとっては、鉄と同様に妊娠前にクリニックでビタミンD濃度の指標とされている血中の25(OH)Dを測定してもらい、低値の場合には積極的に補うことが大切です。ただし、ビタミンDの重要性について認識されている医療機関は、まだまだ、一部のようです。もしも、測定が難しい場合は、1日に25〜50マイクログラムであれば、自己判断でビタミンDのサプリメントを摂取しても過剰にはなりません。

妊娠前から妊娠中全期間を通して補充する価値があると思います。

また、ビタミンDのサプリメントを摂取する場合でも、空腹時や朝食、昼食後に摂取するよりも、夕食後に摂取するほうが体内に吸収される割合が最も大きくなるとの研究報告があります。

アメリカのクリーブランドクリニックでビタミンDサプリメントを摂取する患者を対象に朝食や昼食後の摂取から夕食後の摂取に切り替えてもらったとこと血中濃度が平均57%も増加したと言います。

せっかくサプリメントで補充するのであれば効率的に体内に吸収されるようにすべきです。

[文献]

1)イラストレイティッド ハーパー・生化学(原書28版)
2)VitaminD physiology. Prog Biophys Mol Biol 2006; 92: 4-8.
3)The 2011 Report on Dietary Reference Intakes for Calcium and Vitamin D from the Institute of Medicine: What Clinicians Need to Know. J Clini Endocrinol Metab. 2011; 96: 53-58.
4)High prevalence of hypovitaminosis D in pregnant Japanese women with threatened premature delivery. Bone Miner Metab. 2011; 29: 615-20.
5)Circulating vitamin D correlates with serum antimüllerian hormone levels in late-reproductive-aged women: Women's Interagency HIV Study. Fertil Steril. 2012 Jul; 98: 228-34.
6)Vitamin D in the aetiology and management of polystic ovary syndrome. Clin Endocrin.2012; 77: 343-350
7) Replete vitamin D stores predict reproductive success following in vitro fertilization. Fertil Steril. 2010; 94: 1314-9.
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9)Vitamin D inhibits proliferation of human uterine leiomyoma cells via catechol-O-methyltransferase. Fertil Steril. 2011; 95: 247-53.
10) Vitamin D and the Risk of Uterine Fibroids. Epidemiology.2013: 24: 447-453.
11)Association between maternal serum 25-hydroxyvitamin D level and pregnancy and neonatal outcomes: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ 2013;346:f1169.

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