妊娠中の葉酸摂取が赤ちゃんの遺伝子調節に関連する

生活習慣・食事・サプリメント

2025年12月19日

BMC Endocr Disord. 2024 Mar 29;24(1):44.

妊娠中に葉酸サプリメントを摂取しなかった場合、生まれた子供の遺伝子の調節が正常に行われない割合が高く、将来の健康リスクや疾患の発症に関連する可能性が示唆されています。

妊娠中の葉酸摂取は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防するために重要であることがよく知られていますが、近年ではそれだけにとどまらず、将来の長期的な健康にも影響する可能性が明らかになってきています。

今回スペインの研究者らが行った調査では、NELA(早期の栄養が喘息の発症や進行に与える影響を研究しているプロジェクト)出生コホートに参加した325組の母子のデータをもとに、妊娠中に推奨されている量の葉酸サプリメントをきちんと摂取していたかどうかが、生まれてきた赤ちゃんのDNAの状態に影響している可能性があるかを調べました。この研究で着目したのは、「DNAメチル化」と呼ばれる仕組みです。DNAメチル化とは、遺伝子の配列そのものを変えるのではなく、遺伝子の働き方を調節する仕組みで、発育や代謝、将来の病気のなりやすさとも関連すると考えられています。

研究では、母親となる女性が妊娠前から妊娠初期にかけて、1日400μgの葉酸サプリメントを摂取するという推奨に沿っていたかどうかを調査し、その摂取状況によって母親をグループ分けしました。そして出産時に採取した臍帯血を用いて、新生児の全体的なDNAメチル化の状態を解析しています。

分析の結果、推奨量の葉酸サプリメントを十分に摂取していなかった母親から生まれた赤ちゃんでは、葉酸サプリメントを摂取していた母親の赤ちゃんと比較してDNAメチル化の状態が異なっていることが示されました。

具体的な摂取時期では、妊娠前および妊娠前から妊娠12週までの間に推奨量の葉酸サプリメントを摂取していなかった場合にこの傾向がみられました。また反対に、妊娠前から妊娠12週までに、サプリメントの耐容上限量1,000μg/日を超える量を摂取していた場合にも同様にメチル化の低下がみられたとのことです。

またこの研究において、妊娠12週以降の葉酸サプリメントの摂取や、食事からの葉酸の摂取量とは明確な関連はみられませんでした。

コメント

これまで赤ちゃんの二分脊椎等の先天異常の予防を目的として、妊娠前から妊娠初期にかけての葉酸サプリメントの摂取の重要性は広く知られてきました。今回の研究でわかったのは、そうした先天的な異常にとどまらず、出生児の長期的な健康に影響する遺伝子の発現への関連でした。

妊娠前から妊娠12週頃までの時期は、胎児の体の基本的な構造だけでなく、遺伝子の働きを調節する仕組みも集中的に作られる期間と考えられています。

この遺伝子の働きを調節するメチル化が多すぎたり、少なすぎたり、あるいは本来起こるべきでない場所で起こると、遺伝子の働き方のバランスが崩れることがあります。これがいわゆるDNAメチル化の異常で、がんや生活習慣病、発達や代謝の問題との関連が指摘されています。

ただし、DNAメチル化の違いが将来必ず病気につながるわけではなく、DNAメチル化は出生後の栄養や生活環境、成長過程によっても変化し得るもので、あくまで「将来の健康の傾向」に影響する可能性があるものです。

それでも、妊娠を計画している時期から妊娠初期にかけて、葉酸をサプリメントから補充し、充足させておくことは、赤ちゃんの健やかな発育のための大切な準備であることに違いありません。