EPAやDHAが化学物質による害を軽減させる可能性

生活習慣・食事・サプリメント

2025年09月12日

Environ Health Perspect . 2025 May 6. doi: 10.1289/EHP15942. Online ahead of print.

EPAやDHAの摂取量が多い女性では、フタル酸エステル類が生殖機能にあたえる有害な影響を軽減されることがわかりました。

フタル酸エステル類とは、フタル酸という物質とアルコールが結合した化合物を総称したもので、プラスチック製品を柔らかくしたり、加工をしやすくしたりする素材として幅広く使用されています。

しかし、一部のフタル酸エステルは体内のホルモンのはたらきに悪影響をあたえる可能性があるとされています。生殖機能への影響については、精子の質の低下、採卵数の低下、ART(生殖補助医療)治療での出産にまで至る率の低下、早産や流産リスクの上昇などが報告されています。

一方、EPAやDHAといったオメガ3系脂肪酸は生殖機能に良い影響を与えることが知られています。

フタル酸エステルの代謝物とオメガ3系脂肪酸は、どちらもPPARsという受容体(胎盤形成や胚・胎児の発育に関与することが知られている)に結合することができるため、体内のオメガ3系脂肪酸が少ない場合にフタル酸エステルの害を多く受けることが考えられます。

そこで中国の研究グループは、EPAやDHAがフタル酸エステルによるマイナスの影響を打ち消すのではないかという仮説を検証すべく、不妊治療中の女性患者を対象に研究を行いました。

2004-2017年にEARTH研究*に参加したART女性患者351人を対象に、尿に含まれるフタル酸エステル類の濃度と血液中のEPAやDHAの濃度を計測し、それらが不妊治療の結果と関連しているかについて調べました。
年齢や体型、喫煙歴、不妊の原因、治療年などの影響は調整して解析しました。

その結果、血中EPA+DHA濃度が低い女性では、フタル酸エステル類の濃度が高いほど流産率が高く、生児獲得率(治療を経て最終的に出産に至った割合)が低いことがわかりました。血中EPA+DHA濃度が中程度や高い女性ではその関連は見られませんでした。

具体的には、EPAやDHAが少ない女性の中でフタル酸エステルがもっとも少ないグループでは流産率は5%だったのに対し、フタル酸エステルが最も多いグループでは流産率は44%でした。
一方でEPAやDHAが多い女性では、フタル酸エステルが多い場合でも流産率は11%と、大きな上昇はありませんでした。

この研究により、フタル酸エステルによる流産や生児獲得への悪影響が、EPAやDHAといったオメガ3系脂肪酸を摂取することによって軽減することができることが示唆されました。

*マサチューセッツ総合病院で不妊治療を受けているカップルを対象に、治療成績に影響する要因について調査が行われている現在進行中の研究

コメント

フタル酸エステルは、プラスチックなどを柔らかくするために、床材や壁紙、ホース、シャワーカーテンなどのビニール製品、医療機器、おもちゃ、文房具、香水、化粧品、接着剤、塗料、農業用フィルムなどに広く使われてきた化学物質です。

ところが、利便性は高いものの、健康や環境へのリスク、さらには生殖機能への悪影響も懸念されています。

フタル酸エステル以外にもDDTやビスフェノールA(BPA)、大気中の汚染物質ではPM10やPM2.5といった化学物質も、妊娠や出産にマイナスの影響を及ぼす可能性が指摘されていますが、現代社会では、さまざまな化学物質が私たちの生活のあらゆる面で、なくてはならないものになっています。

これらの化学物質にまったく触れることなく過ごすことは不可能に近いですが、3食バランスよく食べ、魚類からEPAやDHAをしっかり摂取できていれば、この害を低減できるかもしれません。