体外受精時の移植する胚の数について

不妊治療のリスク

2004年12月03日

N Engl J Med 351:2440-2442

アメリカの「the New England Journal of Medicine」の12月2日号に掲載されたスウェーデンの研究によると、移植する胚の数を1つにすることで、妊娠の確率をさほど下げずに、多胎妊娠を防ぐことができたとしています。

体外受精では、自然妊娠に比べて双子以上の多胎妊娠する確率が上がることで、早産や流産、母子の健康リスクが高まるという問題点があります。
多胎妊娠が多くなる原因は、妊娠の可能性を高めるために複数の胚を移植するからです。

研究では、移植する胚の数を1つとした場合と、同時に 2つを移植する場合でどのように妊娠率が変わるのかを確かめました。
ただし、移植する胚の数を1つとする場合は、最初の移植で着床しなかった際には次の周期に再度、1つの胚が移植されました。
その結果、1つの胚移植で39%が妊娠したのに対して、2つの胚移植では、43%の妊娠率でした。ところが、双子の妊娠妊娠は、2つの胚移植では33%であったのに対して、1つの胚移植では、0.8%と 大きく異なりました。

研究者は、35歳以下で、状態の良い受精卵が得られる初めて体外受精を受ける患者は、移植する胚を1つにするべきであると結論づけています。

この研究結果に対しては以下の異論も出ているようです。

まずは、アメリカ生殖医学会の代表である不妊専門医は、妊孕性の高い患者は体外受精時の移植する胚を1つにするべきであることはその通りであるが、患者にそのような選択をさせるのは大変難しいのではないかとしています。
なぜなら、体外受精は保険の利かない自由診療で高額な費用を負担することが強いられ、1回の移植の成功率をできるだけ高めたいとの人情が働くことや、それまで、子供ができないことに長期間、悩んでいた夫婦にとって、子供を授かることができるのならば、双子でも構わないとの思いが強いことを挙げています。

それでも、アメリカ生殖医学会において、最近、培養5日目の胚盤胞移植の場合、単独の移植で61%の妊娠率が得られることを発表しています。

さらに、別の専門家は、スウェーデンの研究で対象とした女性の平均年齢が30歳であること、それまで、他の一般不妊治療を受けていないことから、 現実的ではないと指摘しています。というのは、通常、体外受精を受ける患者は、それまで、一般的な不妊治療、それは、薬や注射による卵巣刺激や人工授精等の治療を受けたにもかかわらず妊娠できずに、体外受精を最後の砦としていること、患者の平均的な年齢は、30歳を超えていることからです。

コメント

不妊治療においては、常に、何をもって、"成功"とするかを考慮に入れておかなければなりません。
要するに、"妊娠"しさえすれば、あとは、どうなっても良しとするということではなく、流産や早産、子供や母親の健康のリスクを冷静にチェックする必要があるということです。
そのような観点からみた場合の体外受精の最大の合併症は多胎妊娠であり、その原因は、移植する胚を複数にすることです。

複数の胚を移植することは、妊娠の確率を高めると同時に、多胎妊娠のリスクも高めるという、"痛し痒し"のテーマであるということです。

日本産婦人科学会では、移植する胚の数は、3つまでとしています。
実際にいくつの胚を移植するかについては、個別の状況に応じたベターな判断が求められるところではないでしょうか。