精子の成熟に関わる分子を発見

基礎知識

2004年09月18日

BBC NEWS 2004/09/15

イギリスのガンの研究チームは、腫瘍の周辺に新たに血管を形成する「JAM-C」という分子の働きを研究していたところ、この分子の正常な働きを阻害する遺伝的欠陥が、精子細胞の成熟をも阻害し、男性不妊の原因になるのではないかと考えられるとの研究結果を科学雑誌「ネイチャー」に発表しました。

精子細胞は精巣で成長し、成熟して生殖能力を獲得するようになります。
精子細胞は最初は円形で、成熟するにしたがって、細長くなっていき、尾が形成されます。
この精子形成のどのプロセスに障害があっても、成熟が阻害され、生殖能力を持つことが出来なくなります。

研究チームは、マウスにおける「JAM-C」の産生を司る遺伝子の働きを阻害しました。
「JAM-C」が産生されなくなったマウスは、精子細胞は円形のままで、生殖能力を獲得出来ないことを突き止めました。

研究チームのリーダーは、これまでは「JAM-C」の役割はほとんど知られていなかったが、最近の研究によって、腫瘍の周辺の新しい血管の形成になくてはならない分子であることが、示唆されてきたとし、「JAM-C」分子の本来の役割を突き止めるために、この分子の産生にかかわる遺伝子の働きを止め「JAM-C」が作られなくしたところ、驚いたことに生殖能力が損なわれてしまうことが分かったのだと話しています。

研究チームは、「JAM-C」レベルによって、精子細胞の成熟度合いを調べたところ、円形細胞の周辺、特に細胞の一方の側面に多く存在することを確認しました。そして、細胞が成熟するにしたがって、細長くなった精子の頭の部分にしか存在しませんでした。
これによって、「JAM-C」分子は、精子のどちらの端が頭にするかを決めていることが判明しました。

そして、人間でも同様のことが言えるのかどうかを調査したところ、まさに「JAM-C」分子は人間でも同じ働きをしていることが確認されました。
これにより、「JAM-C」分子が遺伝的に欠損していることが、男性不妊の原因であると考えられ、さらに調査研究する必要があります。

コメント

男性不妊のほとんどは、精巣で精子がうまく作られないことによる障害です。
これまで、精子の数や運動率、奇形率に異常が見られる場合、それがなぜ起こるのかのメカニズムはよく分かっていませんでした。
そのために、根治的かつ決定的な治療法がないのが現実で、症状の程度が軽い場合は、ホルモン投与や漢方薬、ビタミン剤の服用、そして、重症の場合は、顕微授精という高度な生殖医療に頼らざるを得ない状況でした。

今回の研究結果はとても重要なのではないかと考えられるのは、精子の造成障害の根治の可能性が感じられることではないでしょうか。

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