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VOL.122 不妊治療統計を読む

2005年09月17日

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           妊娠しやすいカラダづくり 
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 2005/9/17 #122
━不妊に悩むカップルを応援します!━━━━━━━━━━━━━━━━━                
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このメールマガジンは、不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、
二人で話し合い、考えるうえでの道筋を整理したり、
自分たちで答えを出すためのヒントになるような、
そんな不妊に関する様々な情報を、出来る限り客観的な視点で提供します。
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みなさん、こんにちは。
いつもお読み下さってありがとうございます。

今週は注目すべきいくつかのニュースが報道されています。

最新ニュースでお伝えしていますが、
北九州市のセントマザー産婦人科医院では、
クラインフェルター症候群という染色体異常の病気で、
精液中に1匹の精子もいない男性の精巣から、
未成熟の精子の細胞を取り出して、顕微受精を実施、
これまでに、4組のカップルが妊娠、5人の子供が生まれたというのです。

また、帝京大学泌尿器科の岡田助教授は、
クラインフェルター症候群の男性でも、
35歳未満であれば、顕微鏡手術によって、
8割の人から精巣内の精子を採取出来ることを明らかにしました。

クラインフェルター症候群は染色体異常によって起こる病気で、
この病気の男性は、先天的に精子を造る機能に障害があり、無精子症です。
要するに、精液中に1匹の精子もいないのです。

男性不妊の原因は、ほとんどが、精子がうまくつくれないことです。
ですから、射精された精液に1匹も精子がいないというのは、
究極の男性不妊と言えます。

ところが、顕微授精という、
1匹の精子を直接卵子に注入する生殖補助技術が確立されてからは、
たとえ、精液中に精子がいなくても、
精巣まで遡って、精子を探し、取り出すことに成功すれば、
妊娠を期待出来るようになった訳です。

今回の2つのニュースは、
精巣内の精子を採取出来る確率が大幅に向上したということ、
そして、精巣内にも精子が見あたらなくて、
採取出来たのが、精子の一歩手前の段階の後期精子細胞でも、
妊娠、出産に成功したというものです。

女性の卵巣からは卵子を取り出して、
男性の精巣からは精子や精子細胞を取り出して、
体外で受精させ、胚盤胞まで培養する、
ここまで、生殖補助医療は進んでいるんですね。

もう1つのニュースは、
2003年度の1年間で、新生児の65人に1人が、
体外受精で生まれているというのです。

これは高度な不妊治療による出生児のみですから、
人工授精や薬でたくさん卵をつくったりといった、
一般不妊治療による出生児まで入れると、
どれくらいの割合になるのでしょうか?

高度な治療が不妊治療全体の3割程度だとすると、
なんと!なんと!新生児の20人に1人は、
何らかの不妊治療を受けて妊娠、出産したということになります。

さらに、この数字は2003年のもので、
現在は、確実に、もっと増えているはずです。
いまや、ここまで、生殖補助医療が広まっているのですね。

いかがですか?

不妊治療がどこまでのレベルに達しているのか、
そして、不妊治療がどれだけ一般化しているのか、
おそらくは、世間の認識は全く現実に追い付いていません。

ただし、冷静にみておかなければならないのは、
不妊治療のレベルが上がっているというのは、
正確に言いますと、治療の成績が向上しているということではなく、
生殖活動において、人為的に"バイパス"する領域が、
拡大しているということです。

そして、不妊治療によって生まれた子供が増えているのは、
決して、妊娠率が上がっているということではなく、
不妊治療を受けるカップルの数や治療周期が増えているということです。

さらには、高度な治療の身体的負担や心理的負担、経済的負担が、
小さくなっているわけではないことも忘れてはなりません。

生殖補助医療に携わる方々の努力に敬意を表し、感謝するとともに、
医療技術は、決して、頼るものではなく、
利用するものと心得ておくことが大切です。

今週の更新内容は以下の通りです。

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            ★今週の更新情報★
  http://www.akanbou.com
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2005年9月17日 最新ニュース
染色体異常の男性不妊症、35歳未満の8割で精子採取
http://www.akanbou.com/news/news.2005091701.html
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2005年9月14日 最新ニュース
新生児の65人に1人が体外受精で誕生
http://www.akanbou.com/news/news.2005091402.html
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2005年9月14日 最新ニュース
未成熟精子で5児が誕生
http://www.akanbou.com/news/news.2005091401.html
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上記の記事についてのご質問等は、下記のアドレス宛お寄せ下さい。
news-master@akanbou.com


━[TOPICS]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     体外受精の治療成績の全国統計を読む
       〜2003年度体外受精・胚移植等の臨床実施成績

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さる9月12日に日本産科婦人科学会は、
平成15年(2003年)度の体外受精・胚移植等の臨床実施成績を発表しました。
http://jsog.or.jp/kaiin/html/Rinri/Rinri_report5710.pdf

これは、登録施設を対象として、
治療実施数療数や成績を集計したもので、毎年、実施しています。

この調査報告の数字が日本における唯一の不妊治療統計になります。

ところが、イギリスやアメリカのように、
各施設の治療実施回数や治療成績が公開されているわけではなく、
悲しいかな、全体の合計の数字しか知らされていません。

何度も何度も言い続けていますが、
こんな全体の数字だけを出されても、
高度な不妊治療に対する理解を深めたり、
治療を受ける病院を選ぶための情報には到底なり得ません。

ここでは、今回発表されたデータを、
不妊治療を受ける側の視点から見ていきたいと思います。

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       高度な不妊治療を行っている病院について
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日本では、体外受精等の高度な生殖補助医療を行う施設は、
日本産科婦人科学会に登録しなければなりません。

2003年度登録施設数 590
2002年度登録施設数 578
2000年度登録施設数 511

毎年、どんどん、登録施設が増えています。

因みに、人口が日本の2倍以上のアメリカの登録施設の数はと言いますと、
2001年度で、なんと、421です。

日本は人口当たりの登録施設数が、
アメリカと比べると、かなり多いようです。

それでは、施設の治療実績はどのようになっているのでしょう。

新鮮胚を用いた体外受精の治療周期数ですが、
医師の感覚や技術の維持のために必要とされる、
年間実施数300を超える施設は、なんと、19施設しかありません。

それに対して、年間50以下の施設が、306施設もあります。

施設による実績のバラツキがかなり大きいようです。

---[ポイント]-----------------------------------------------------

日本では、不妊治療の看板を掲げている病院やクリニックが大変多い。
ところが、実際の治療実績や技術のバラツキが大きいため、
慎重に病院を選ぶ必要がある。

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       高度な不妊治療の患者数・治療周期数について
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高度な不妊治療を受けた患者数は、

2003年度 67,861
2002年度 59,692
2000年度 48,022

この3年間で141.3%、10年間でみると376.2%も増加しています。

高度な不妊治療の治療周期数は、

2003年度 101,905
2002年度  85,664
2000年度  69,556

この3年間で146.5%、10年間でみると414.7%も増加しています。

また、治療の内訳でみると、体外受精は毎年、微増なのに対して、
顕微授精の増加分が全体の増加分のほとんどを占めています。

---[ポイント]----------------------------------------------------

高度な不妊治療を受ける患者数も治療周期数も、年々、増え続けている。
治療別の伸び率は、顕微授精や凍結融解胚移植の伸びが大きい。

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      高度な不妊治療で生まれている子供の数について
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高度な不妊治療によって生まれた子供も数は、

2003年度 17,400
2002年度 15,223
2000年度 12,272

この3年間で141.8%、10年間でみると489.6%も増加しています。

---[ポイント]-----------------------------------------------------

高度な不妊治療で生まれている子供の数は、年々、増え続けている。
2003年度には、新生児の65人に1人の割合になった。

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             治療成績について
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新鮮な胚を用いた体外受精の治療成績は、

          2003   2002 2000
移植当たり妊娠率 28.9% 29.8% 24.7%
採卵当たり妊娠率 19.9% 23.0% 19.7%
妊娠当たり流産率  23.4% 22.4% 22.1%
妊娠当たり多胎率 15.8% 18.0% 16.9%
移植当たり生産率 17.2% 19.8% 16.8%

それぞれの治療成績は、さほど変化はみられないようです。

---[ポイント]-----------------------------------------------------

治療成績には、さほどの変化はみられない。

---[患者の視点から知っておきたいこととして]-----------------------

妊娠率のカラクリを知っておく必要がある。

★治療成績の指標にもいろいろある。

ところで、一口に治療成績といっても、
上記のように、5つの指標で算出していますので、
どの指標でもって、治療成績とするかを知っておく必要があります。

妊娠したものの、どれだけの割合で流産しているのか、
そして、妊娠した中で、どれだけの割合で多胎だったのかについては、
すぐに理解出来ます。

ところが、妊娠率と言っても、
分母を移植した回数にするのか、採卵した回数にするのかによって、
妊娠率が変わってきます。

要するに、治療のどの段階を分母にするのか、です。
治療を受けた(刺激を開始した)周期数、採卵した回数、
そして、移植した回数と、
ステップを踏むほど、数字は小さくなっていきます。

たとえ、刺激を開始しても、採卵できないこともあったり、
同様に、採卵できたとしても、
卵が育たなくて、移植出来ないケースもある訳ですから、
移植した回数を分母にもってきたほうが妊娠率が高くなるということです。
逆に、分母を治療周期回数にすると、
今度は、大変低い妊娠率になってしまうのです。

さらに、移植当たり生産率というのは、
分母は移植した回数なのですが、分子は妊娠ではなくて、
無事、出産にまで至った数です。

当然、妊娠しても、流産がある訳ですから、
分子は小さくなって、率は低くなります。

★何をもって妊娠とするかにもいろいろある。

さらに、です。

何をもって、妊娠とカウントしているのかも大切なポイントです。

日本産科婦人科学会では、
「妊娠とは、胎嚢が確認できたもの」としています。

ところが、妊娠を「妊娠反応が陽性になったもの」とすると妊娠数は増え、
「胎児の心拍が確認できたもの」とすると妊娠数は減ることになります。

★妊娠率のカラクリ

いかがですか?

妊娠率のカラクリがイメージできましたでしょうか?

それぞれの施設で、自主的に治療成績を公表していますが、
実は、その指標は全く統一されていないのです。

うがった見方をすれば、
クリニックの宣伝ということを意識して、
要するに、恣意的に、妊娠率を高くみせることも可能な訳です。

分子を大きくして(妊娠反応の陽性をもって妊娠として)、
分母を小さくすれば(移植回数にすれば)、
妊娠率は大きくなります。

あと、(母親となる女性)患者の年齢とか、
不妊期間とか、その他、妊娠率に影響を及す要因も考慮に入れると、
一口に妊娠率とか、治療成績といっても、
一筋縄ではいかないことがお分かりいただけると思います。

最後に、心情的な"成功率"という観点から言わせてもらいますと、
やはり、分母は刺激を開始した周期数で、
分子と考えたい数字というのは、
元気な赤ちゃんを出産できた数、ですね。

治療の成功とは、
ひとえに、元気な子供を抱くことにあるはずです。


━[不妊体験者を支援するNPO法人「Fine」より]━━━━━━━━━━

     夫婦のささえあいアンケート協力者募集

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現在・過去・未来の不妊体験者を支援する不妊当事者の会、Fineと、
広島HARTクリニックが共同でアンケート調査を実施しています。

私たちは、アンケート調査の目的である、
"夫婦のささえあいのためのサポート"という主旨に賛同します。

アンケートの回答者にはもれなくプレゼントもあるようです。

皆さんのご協力をお願いいたします。

以下、Fineからのアンケート調査の説明です。

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Fineでは、ご夫婦でアンケートに協力してくださる方を大募集します!
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私たち不妊当事者は日ごろからさまざまな精神的負担を抱えることが多く、
なかでも不妊治療に関する悩みは少なくありません。

また不妊治療は、それを行なっている最中だけでなく、
行なう前や行なった後も多くの悩みが伴ってくるものです。

不妊治療は夫婦ふたりで協力しなければできない治療です。

だからそれを行なううえで一番大切なのは、
夫婦ふたりの気持ちがしっかりとひとつに寄り添っていられること。

けれども意思の疎通がなかなかうまくいかなかったり、
互いに悩みを素直に打ち明けられなかったりする場合、
治療に関する悩みだけでなく、
さらに別の悩みにまで発展してしまうことがあります。

また頻繁に通院しなくてはならない女性はもちろんですが、
男性の悩みも深刻で、
むしろ通院が少ないぶん愚痴を言い合える仲間を見つける機会も少なく、
悩みを一人で抱え込みがちになるようです。

私たちはそういった"夫婦の悩み"を別々ではなく、
ひとつのものとしてとらえ、
"夫婦のささえあいのためのサポート"をするべく、
心理士で広島HARTクリニックのカウンセラー・中田史子先生と共同で、
アンケート調査を実施することにしました。

この調査結果を通して、
不妊当事者の『夫婦のこころのケア』について考え、
複合的なサポートのために役立てたいと思っています。

ぜひ、ご夫婦おふたりそろってのご協力をお願いいたします。

★アンケート調査の詳細は以下のページを参照下さい
http://j-fine.jp/top/anke/anketo-fu-fu.htm

★不妊体験者を支援するNPO法人「Fine」のサイト
http://j-fine.jp/


━[不妊に関するご相談は]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人には聞けない不妊の悩み 専門家がお答します
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http://www.akanbou.com/qa/main.html

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あなたに相応しいサプリメントとその使い方をご提案します
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http://www.nature-g.com/funin/supple.html
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━[妊娠報告をお願いします]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さんからの妊娠報告をお待ちしています
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
http://www.akanbou.com/houhoku/main.html

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■編集後記 
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配信が日曜日になったことをお詫び申し上げます。

男性不妊が増えていることは、
世界中で繰り返し、報道されています。

精子の数が半減しているとか、
環境ホルモンの影響であるとか、
いろいろ言われていますが、
本当のところは、よく分からないみたいです。

いかんせん、確かめようがないところがあるためです。

動物実験であれば、まだしも、人間で実験できるテーマではありません。

ですから、不必要に心配を大きくしかねない憶測よりも、
不妊は夫婦の問題として、とらえて、
夫婦で同時に検査をスタートすること、
そして、状況を客観的に把握して、
ふたりで支えあって対処していくことだと思います。

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妊娠しやすいカラダづくり No.122
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【発 行】 株式会社ライフケアマネジメント内
      [妊娠しやすいカラダづくりプロジェクト]
【発行責任者】細川忠宏(不妊カウンセリング学会所属)
【編 集】 酒井奈緒
【監 修】  荻田浩司(内科医・医学博士)
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