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VOL.448 最近の不妊治療に関する報道について

2012年01月15日

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 妊娠しやすいカラダづくり 第448号  2012年1月15日発行

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 お子さんを望まれるカップルを応援します。

 なかなかお子さんが授からないことに悩むカップルが、悩みを克服する
 ために、"二人で話し合い、考えを整理"して、"自分たちにふさわし
 い答えを出す"上でのヒントになるような情報を、出来る限り客観的な
 視点で、毎週末、配信しています。


━[今週のテーマ]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▼最新ニュース解説


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 最 新 ニ ュ ー ス 解 説
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年末年始にかけて不妊治療に関してのいくつかの気になる報道がなされまし
た。その内容について、読者の皆さんからたくさんのメールをいただきまし
た。

今回、まとめてご紹介します。

■体外受精児を追跡調査へ 人工操作加えるほど体重増(asahi.com)
http://www.asahi.com/science/update/1223/TKY201112230592.html

体外受精で生まれた子どもの出生時の体重は、胚盤胞培養や凍結保存などの
人工的な操作を加えるほど重くなるとが、厚生労働省研究班の調査でわかっ
たとのこと。

2007年から2008年に体外受精で正常な妊娠期間で生まれた子ども、
約27000人の出生時の体重を調べたそうです。

その結果、新鮮な初期胚を移植した場合は平均3003グラム、胚盤胞まで
培養して移植した場合は3025グラム、初期胚を凍結保存して融解胚移植
した場合は3070グラム、胚盤胞まで培養して凍結保存し、融解胚移植し
た場合は3108グラムと、体外で長く培養したり、凍結保存したりするほ
ど、出生時の体重が重かったというのです。

今後、遺伝子の働きを調整する仕組みになんらかの異常がおこっていないか、
15年間に渡って、数千人を対象とした調査が実査されるとのこと。

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凍結融解胚移植で新鮮胚移植後の出生児の出生時体重を比較した研究は、こ
れまでも報告されています。
http://www.akanbou.com/news/news.2009090101.html

まず、今回の報道内容は、体外受精の後、胚を長く培養したり、凍結保存し
たりすることで、子どもに何らかの障害が出たというものでは、決して、あ
りません。

平均体重が約100グラム重かったということです。

ただ、統計学的には意味のある差なので、このことが、子どもの健康上、ど
のような影響があるのかを、今後、15年間に渡って調べることになったと
いうことです。

ですから、今すぐにどうこうとあわてる必要はないと思いますが、私たちも
今後の調査結果に注目するとともに、関連する研究報告なども、随時、お知
らせしたいと思います。

敢えて言えば、胚盤胞移植も凍結保存も、近年、急激に増えている体外受精
のオプションの治療法ですが、自分たちに必要かどうか、シビアに検討する
に越したことはないと思います。

凍結保存は、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)を回避したり、ベターな着床
環境を選んで移植することで成功率も高くなり、メリットがきわめて大きく、
現在の高度生殖医療では、もはや、なくてはならない治療法になっています。

一方、胚盤胞移植では、体外受精後、2、3日目の初期胚を移植するよりも
5、6日目の胚盤胞という、着床直前の段階まで体外で培養し、移植したほ
うが、妊娠率が高くなるとされています。

ただし、すべての胚が胚盤胞まで到達できるわけではなく、よくて半分くら
いで、途中で成育が止まってしまう胚もあります。

そのため、結果として、妊娠するだけの力のある胚を選別したことになるの
ですが、培養環境という観点でみると、体外で長く培養することで、成育で
きなかった胚の中には、母親のお腹の中という本来の環境に早く戻してあげ
ていれば、成育できていたかもしれないとも考えられるわけです。

また、移植あたりの妊娠率は胚盤胞移植によって高くなっても、採卵あたり
でみると、それほど変わらないということもあり、胚盤胞移植は、必ずしも、
すべての人にベストな治療法というわけではありません。


■体外受精培養液に化学物質 妊婦血液の最大100倍(日経新聞)
http://p.tl/g5IR

プラスティックを加工しやすくする化学物質「フタル酸エステル類」が、体
外受精で使う培養液に高い濃度で含まれていたことが、厚生労働省研究班の
調査でわかったとのこと。

妊婦の血液から検出される濃度の最大で約100倍に相当、動物の胎児の生
殖機能に影響を与える濃度の1000分の1ほどだが、マウスの細胞の遺伝
子には異常が起きるレベルで、受精卵や胎児への影響が懸念されるとしてい
ます。

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「体外受精培養液が汚染」という見出しを使っていたメディアもあったよう
で、このニュースは衝撃的でした。

前号でもこの報道についてお話しましたが、その後も、心配された読者の皆
さんから多くのメールが寄せられました。

培養液というのは、体外受精を受けた人や受けている人たちにとって、中に
は本当に苦労して育てた、そして、誰にとっても、大切な胚の成育環境です。

そこが汚染されていると聞くと、怖くて、気が気ではありませんし、"漠然
とした"不安や心配がつのるばかりです。

この報道内容をどのように受け止めればいいのか、再度、整理してみたいと
思います。

まずは、培養液中に検出された化学物質ですが、「フタル酸エステル類」で、
プラスティック製品を軟らかくする化学化合物として広く使われているもの
です。

現代の私たちの生活には、プラスティックで出来たもので溢れています。家
具から、電化製品、食品や化粧品を含むあらゆる容器、建材などなどなど、
家中、ほとんど、プラスティック製品です。

そのプラスティックを柔らかくする働きのあるフタル酸エステルは、それら
の製品の形をつくる際に、当然、必須です。

つまり、あらゆる生活環境に、フタル酸エステルが存在しているというわけ
です。

当然、大気中にも、室内の空気中にも、水道水にも存在するため、私たちは
常に、呼吸から、食事からフタル酸エステルを取り込んでいます。

そのため、私たちの体内のあらゆるところ、血液中にも、そして、母乳中に
まで、フタル酸エステルは存在するのです。

"体外"受精ではなく、"体内"受精、すなわち、自然妊娠でも、受精卵は、
少なからず、フタル酸エステルにさらされていることになります(もちろん、
確かめられているわけではありませんので、あくまで、推測です)。

そして、体外受精の培養液には、必ず、ヒトの血清が使われています。

その培養液中に、存在していても決して不思議ではない、フタル酸エステル
類が検出されたというのが今回の報道なのです。

そして、その濃度は、妊婦の血液中に存在するレベルか、高くてその100
倍のレベルとのことで、100倍と言っても、そもそもがナノグラム単位の
超微量です。

もうお分かりですね。

体外受精の培養液が汚染されたとのメディアの視点には違和感を抱かざるを
得ません。

人間が作り出し、年間200万トンも作って、あらゆるところに使い、その
結果、体内のあらゆるところに存在するようになった化学物質なのです。

汚染されたという言い方をするのであれば、既に、人類、少なくとも、先進
国は完全に汚染されているわけです(犯人も人類ですけど)。

そんな社会に、私たちは、既に暮らしているわけです。

そのため、フタル酸エステルは、その有害性について、世界で最も調査され
てきた物質で、これまで、あらゆるところで、あらゆる疑いをかけられてい
ますが、ヒトに健康問題を引き起こした事例はありません。

その結果、環境省はフタル酸エステルは環境ホルモンからは除外しています
し、独立行政法人産業技術総合研究所の化学物質リスク管理研究センターの
リスク評価書では、ヒト及び生態に対して「現状においてリスクは懸念され
るレベルではない」と結論づけています。

これによって、日本では、フタル酸エステル類のひとつ、DEHPは、脂肪
性食品の容器包装材やおもちゃへの使用が禁止されていますが、これ以上の
規制強化は必要なく、また法規制等についてもこれ以上の追加は必要ないと
考えるようになっています。

繰り返しますが、培養液中にフタル酸エステル類が存在することは、十分に
ある得ることであり、これまでの研究では、そのリスクは懸念されるレベル
ではないとのことですので、現時点で、あわてる必要は全くありません。

くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、フタル酸エステル類が安全な化
学物質だと考えるべきだとか、全く問題ないと言っているわけではありませ
んし、体外受精で使われている培養液には有害な物質が全く含まれていない
ので安全だと言いたいわけでもありません。

そもそも、人間の体内には、あたらしい生命の発育を促すさまざまな物質だ
けでなく、このような人類が生活を豊かにするためにつくりだした化学物質
や活性酸素など、新しい生命の発育を阻害する可能性のあるものも存在する
ものです。

ヒト由来の材料でつくられた培養液中にも、同様に、フタル酸エステル類が
検出されたからといって、当然、起こり得ることであり、何ら科学的に確定
的な有害性が確かめられていない段階で、センセーショナルな報道をするこ
とに憤りを覚えているだけです。


■30代後半不妊治療 妊娠率 採卵方法で大きな差(読売新聞)

30代後半の女性に対する高度生殖補助医療で、採卵の方法で妊娠率に3倍
以上の差が出ることが、全国25施設の不妊治療クリニックでつくる「日本
生殖補助医療標準化機関(JISART)」の調査でわかったとのこと。

2010年12月~2011年11月にJISARTの25施設で、35~
39歳の女性に行われた高度生殖補助医療385例のを対象に、採卵の際に
主に飲み薬の排卵誘発剤を使う「低刺激法」と、注射で卵巣を刺激して複数
の卵胞を育てる「調節刺激法」で妊娠率を比較した。

その結果、「低刺激法」の周期あたりの妊娠率は10%だったのに対して、
「調節刺激法」では34%で、凍結胚移植では、「低刺激法」では20%、
「調節刺激法」では43%だったとのこと。

いずれも、卵巣を刺激する調節刺激法のほうが妊娠率が高いのは、良質な卵
子を一度に多く採れるためだといいます。

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体外受精や顕微授精で妊娠できるかどうかは、妊娠するだけの力を備えた卵
に巡り合えるかどうかにかかっています。

自然周期では、質のよい卵が選ばれて成熟するわけではなく、あくまで、ラ
ンダムですから、結局は、卵巣を刺激して、多くの卵を成熟させ、質のよい
卵を採卵できる確率を高めることが最も有効な方法になります。

自然周期では、注射をしないので身体にかかる負担や費用は軽くなり、毎月、
治療ができ、かつ、周期あたりの妊娠率も高いというメリットがある一方で、
採卵できなかったり、採卵しても卵がとれなかったり、受精しなかったりと、
キャンセルになる確率が高くなります。

自然周期は「体に優しい」と言われたりしますが、それは、HMG注射をし
ないだけで、現実には、採卵回数が増えてしまうことが多く、そういう意味
では、「体に優しい」とは言い切れません。

刺激周期では、排卵をコントロールし、HMG注射で卵巣を刺激するために、
キャンセルにかる確率は低くなり、自己注射も可能になって通院の負担も軽
くなりました。複数の卵が採卵できて、受精卵が得られれば、余った胚を凍
結保存すれば、採卵回数が少なくて済みます。

そのため、周期あたりの妊娠率は刺激周期が大きく上回ることになるのです。

ただし、高齢で卵巣機能が低下している場合は注射で刺激しても卵巣が反応
しないため、マイルドな刺激方法を採用せざるを得ません。

いずれにしても卵巣刺激法、そのものの優劣はなく、それぞれにあった卵巣
刺激法を選択して採用することは治療の成功のポイントになります。

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 ヤングが勇気づけられた記事
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「妊カラ」ほっこり担当のヤングです。

私の昨年と言いますと、ある薬酒のコマーシャルで「女性は7の倍数の年に
体に変化が訪れる」と流れていますが、今まさにその年齢で、変化をヒシヒ
シと感じた年でもありました。

その1つ、卵胞刺激ホルモンFSH値が初めて10を超えてしま いました。
(通院している病院では、10以下を正常範囲値としています。)

病院を変え、転院先の病院で、さぁ体外受精を始めようとした矢先に10越
え。

その前の月までは問題なかったのに・・・。

1ヶ月でこうも変化してしまうの?という信じられない思いと、卵巣機能が
低下しつつあるのかと落胆。

今までホルモン値で特に問題がなかったので、さすがに凹みました。

その時にこの記事と出会い、励まされたのを忘れられません。

私と同じように、いや、私以上にFSH値が高くて悩んでいられる方、一度
この記事を読んで見てはいかがでしょうか?

感じ方は状況によって人それぞれかもしれませんが、私にとっては心が救わ
れた内容でした。


皆さんも「妊カラ」との出会いや私と同じようにこの記事を読んで救われた
というのがありました ら、教えて下さいね。

皆さんからの声をお待ちしています。

こんな私ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

■自分のカラダに備わった自然のメカ ニズムを信じたい!
http://www.akanbou.com/column/henshuuchou/20060226.html


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→「男性不妊 ~ ふたりで知っておきたいオトコのこと」
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 編 集 後 記
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年末から年始にかけての報道について、多くのメールをいただきました。

漠然とした不安や心配は、時として、とてつもなく大きくなってしまうこと
があります。

私たちには、想像力が備わっているので、過度な不安を抱いてしまうことも
あれば、根拠のない希望に満ちることもあります。

リスクをどう受け止めればいいのか、単に情報があればいいというわけでは
ないようです。

どう考えるべきかが大切だと思います。

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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.448
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
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