胚移植後の生活や性交が妊娠率に及ぼす影響

2014年02月24日

体外受精で胚移植を受けてから判定日までの「過ごし方」については、治療を受けている方であれば、一度は、思案したり、悩んだりすることかもしれません。

体外受精を受ける前の日常の運動や胚移植後の身体活動とその後の妊娠率、そして、胚移植後の性交と妊娠率との関係についての研究ではどのような結果が報告されているのでしょうか。

アメリカのノースカロライナ大学チャペルヒル校の医科大学院の研究グループが関連病院で体外受精を受けている間者さんを対象に実施した研究結果をご紹介します。

日常の運動習慣と妊娠率の関係

体外受精に臨む121名の女性に過去1年間の身体活動についてのアンケートを行いました。

アンケートでは、家事や介護や仕事、日常の身体活動、そして、スポーツやエクササイズの4つの領域で、どの程度、活発に身体を動かしているのか、それぞれ、5段階で答えてもらい、トータルの身体活動レベルを4〜20のスコアにしたところ、身体活動が活発な女性ほど妊娠率が高い傾向がみられたとのこと。

特筆すべきは、散歩やサイクリング、移動などで、よく身体を動かす人は、妊娠率、出産率の全体を通して、治療成績が良好だった一方で、何らかのスポーツに取り組んでいる人は、妊娠率は高いものの、出産率は関連しないという結果だったことです。

胚移植後の身体活動と妊娠率の関係

また、同じ対象者に胚移植の終了から妊娠判定日まで、加速度センサーを身体に装着してもらい、その期間の身体活動と妊娠率や出産率との関係も調べています。

その結果、胚移植後から妊娠判定迄は、普段通りの生活でも、静かに過ごしていても、治療成績とは関連しませんでした。

このことから胚移植後、着床、妊娠のために「大事をとって」静かに過ごす必要はないと結論づけています。

胚移植後の性交と妊娠率の関係

体外受精を受けている女性125名に胚移植後の性交の記録をつけてもらい、その後の妊娠や流産、出産に及ぼす影響を調べました。

その結果、子宮内膜が胚を受け入れる状態にある時期(インプランテーションウィンドウ)に、性交のあったカップルは性交のなかったカップルに比べて流産のリスクが統計学的に有意に高く、性交の回数が高いほどリスクも高くなる傾向がみられたといいます。

特に、受精後10日の性交が最も出産率の低下のリスクに関連したとのこと。

このことから、今回の研究規模が小さいことからさらなる大規模な試験が望まれるが、明確なエビデンスが確定するまでは胚移植後の性交は控えたほうが無難ではないかとしています。

日常の運動と胚移植後の生活について

これまでに発表されている研究報告も、日常的に身体を動かすことは女性にとっても、男性にとっても、妊娠や出産によい影響を及ぼすとされています。

ただし、それはウォーキングや水泳など、マイペースで楽しる穏やかな運動習慣で、過激な運動は女性にとっても、男性にとっても、マイナスの影響を及ぼしますので、「やり過ぎ」には注意が必要で、「過ぎたるは及ばざるがごとし」の教訓はここでも言えるようです。

また、胚移植後の生活については、通常と全く同じ生活でよいということもほとんどのドクターのコンセンサスを得ているくらい精度の高い試験結果が蓄積されているようです。

ですから、特別、静かにしても、しなくても、妊娠や出産にはさほど影響しないということです。

胚移植後の性交について

その一方、胚移植後の性交については、今回の研究では胚移植後、特に、インプランテーションウィンドウと呼ばれる「着床可能期間」、人によって多少の違いがあって、受精後5日〜10日の間であると著者は言っていますが、この時期に性交すると、流産のリスクが高くなる傾向がみられたという結果だったようです。

これまでも性交による子宮の収縮は着床や妊娠のスタートにマイナスに働くのではないかと考え、胚移植後は性交を控えるように指導されるドクターが多いようです。

ところが、胚移植後の性交については、日常の運動や胚移植後の安静ほどには研究結果が蓄積されていませんので、あくまで、よくわからないから避けるのが無難だからということのようです。

そもそも、体外受精だからこそ、着床可能期間を自覚しているわけで、これが自然妊娠であれば、無自覚に性交していることも多いはずです。

また、リプロダクティブクリニック大阪院長の松林先生のブログでは、「体外受精のあとにも性交を!」というタイトルで、「胚移植前後の性交は妊娠率には変化がなく、妊娠継続率がよい(=流産率が少ない)ことを示しており、性交による胚発生率の改善の可能性を指摘した」論文を紹介されています。

ただ、「しかし、本研究は多施設といっても2施設であり、また妊娠率が若干低いため、さらなる大規模な調査が必要だと考えます。」とのお考えを最後に示していらっしゃいます。

本当のところは「神のみぞ知る」ところなのですが

このように本当のことは「神のみぞ知る」ところですが、いずれにしても、日常の運動習慣にしろ、胚移植後の生活や性交にしろ、妊娠や出産にプラスになるにしても、マイナスに働くにしても、決定的な要素ではないということです。

つまり、これまで運動習慣がなかったからといって妊娠できないというわけでもないし、胚移植後に性交したからといって必ずしも流産するというわけでもないということです。
あくまで、確率論であり、全体の傾向であり、個人の答えを示してくれているわけではないわけです。

そのため、極論すれば、「やりたいように」やっても、大きな差はない、正解はない、そういうことだと思います。

ですから、そんな中で、正解を求めすぎて、神経質になったり、疑心暗鬼になるのは「損」だと思います。

あれこれ、「心配する」よりも、治療中のことですから、主治医の先生にアドアイスをいただき、その言葉と新しい命の生命力を「信じて」過ごすのがいいのではないか、そう思います。

[文献]

文献1)
Association of physical activity in the past year and immediately after in vitro fertilization on pregnancy.
Fertility and Sterility Article in Press

文献2)
Intercourse after Embryo Transfer and Pregnancy Outcomes.
Fertility and Sterility. 2014;101;e28.