優先すべきは子宮筋腫の治療か不妊治療か

2012年02月07日

いつ頃からか、子宮筋腫と不妊治療について相談されることが増えました。おそらく、不妊治療を受けている女性の年齢が、年々、高くなっていること、また、子宮筋腫の多くは自覚症状がないため、不妊検査を受けて初めてわかるということが多いということもあるのだと思います。

相談内容のほとんどは、子宮筋腫の治療(手術)を優先すべきか、それとも、不妊治療を優先すべきかというものです。

おそらく、筋腫が本当に妊娠の邪魔になっているのか、もしも、邪魔になっているのであれば、どのように、どの程度、邪魔になっているのかが、時として、分かりづらいからでしょう。

子宮筋腫は着床の環境を悪化させてしまう可能性があるので、たとえ、体外受精でもクリアできません。

そのため、もしも、筋腫が着床を妨げているのであれば、いくら、高度な治療を繰り返しても無駄になってしまいます。

だからと言って、標準的な治療である、筋腫だけをくり抜く手術は、それほど手軽なものではなく、さまざまなリスクも伴うことから、安易に選択できるような治療法でもありません。

もちろん、どちらを優先すべきか、主治医の先生が適切にアドバイスしてくれので、主治医の先生の判断を仰ぐのが現実的です。

ただし、ドクターでさえ、判断が難しく、迷ってしまうケースも珍しくありません。

そんな場合、たとえ、セカンドオピニオンを求めるにしても、最後に決めるのは自分たちです。

そこで、今週の妊カラでは、子宮筋腫と不妊治療について、知っておきたいことを整理しておきたいと思います。

子宮筋腫がどのように妊娠の妨げになるのか

子宮筋腫は、子宮の筋肉からできる良性のできもの(腫瘍)で、30歳以上の女性の20~30%、40歳以上になると40%と、年齢が高くなるほど頻度が高くなる、とてもポピュラーな婦人科の病気の一つです。

卵巣から分泌される女性ホルモンの作用で大きくなりますが、なぜ子宮筋腫ができるのか、その原因はよくわかっていません。

ほとんどの子宮筋腫には自覚症状がありませんが、場所や大きさによっては、月経量が増え、貧血を伴うことがあります。

さて、この子宮筋腫が不妊の原因になることがあります。

◎着床しづらくなる

子宮筋腫によって、子宮内膜が異常に薄くなったり、萎縮したり、反対に厚くなったり、また、子宮の内側が凸凹に変形したり、炎症を起こしたりして、着床しづらくなったり、初期流産しやすくなったりするのではないかと考えられています。

◎精子や受精卵の正常な動きが妨げられる

卵管の根元付近に子宮筋腫があると、精子や受精卵を運ぶ働きが低下するのではないかと考えられています。

◎卵管の正常な働きが妨げられる

子宮筋腫による圧迫で、卵管が閉塞されたり、位置が変わってしまい、卵を運んだり、排卵後の卵子を取りこんだりする働き(ピックアップ機能)が低下してしまうのではないかと考えられています。

以上のように、子宮筋腫の影響で子宮が変形したり、卵管が圧迫されるような「物理的影響」以外でも、子宮の血流障害などの子宮内環境の悪化による着床障害や胚の発育障害の可能性も報告されています。

さらには、子宮筋腫をもったまま妊娠した場合、早産のリスクが高まります。

このように、子宮筋腫による妊娠へのマイナスの影響は、主に着床障害ですが、それ以外にもさまざまなパターンが考えられ、単純ではありません。

子宮筋腫の治療法

子宮筋腫の治療法として、薬物(ホルモン)療法と手術療法がありますが、妊娠を目指す場合は、子宮筋腫(筋腫核)だけをくり抜く、子宮筋腫核出術が標準的な治療法です。

手術の方法は、開腹手術と腹腔鏡下手術や子宮鏡下手術などの内視鏡手術がありますが、身体への負担や術後の癒着の発生頻度などから、内視鏡手術が優先され、その適応範囲から腹腔鏡下手術が一般的です。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術の場合、全身麻酔下で行われ、普通は数日間の入院が必要になります。

そして、子宮筋腫核出術後の妊娠出産の場合、分娩時に頻度が大変低いものの子宮が破裂することがあるため、帝王切開が勧められる場合があります。

また、ホルモン療法以外で"切らない"子宮筋腫の治療法として、子宮動脈塞栓術(UAE)や集束超音波治療(FUS)などがあります。

ただし、これらの治療法は、不妊治療としての子宮筋腫治療としては、歴史が浅いことや治療を実施する施設が限られていることもあって、未だ一般的な治療法にはなっていないようです。

子宮筋腫の妊娠や流産、出産への影響を測る目安

大前提として、たとえ、子宮筋腫があると診断されても、必ずしも不妊の原因になるとは限りません。

子宮筋腫があっても、普通に妊娠、出産されている女性は多くいます。

そのため、まずは、子宮筋腫が不妊の原因になっているのかどうかを見極めることになります。

◎どこにあって、どの方向に発育しているか

・粘膜下筋腫

子宮内腔に向かって筋腫が発育し、子宮の内側に筋腫が突き出ているもの。

・筋層内筋腫

子宮の筋肉内で発育するもので、子宮の内側の変形はないもの。

・漿膜下筋腫

子宮の外側に向かって発育し、子宮の外側に筋腫が突き出ているもの。

これらの子宮筋腫のうち、子宮の内側に突き出ている粘膜下筋腫は着床率低下や流産率上昇の原因になることが知られています。

また、漿膜下筋腫は不妊の原因になることはなく、筋腫核出術を行っても妊娠する力が高まることはないとされています。

ところが、筋層内筋腫については、不妊の原因になるかどうかはいずれの考え方もあります。

たとえば、子宮の内側に突出していなくても、体外受精や顕微授精の治療成績が低下するとの報告があったり、着床時期に子宮の異常な蠕動運動が増加し、妊娠率が低下するとの報告もあったりします。

◎大きさや数

当然、子宮筋腫の大きさが大きいほど、数が多いほど、妊娠を妨げるリスクが高くなります。

ただし、その程度の大きさや数になれば、妊娠率を下げ、流産率を高め、分娩時のトラブルになり得るのか、明確な基準があるわけではありません。

2~6センチまでは影響がないとする報告もあれば、4センチを超えると影響があるとの報告もあります。

このように子宮筋腫が妊娠や流産、出産にどの程度の影響を及ぼすのかは、筋腫のできている場所や発育の方向、大きさ、数によって異なりますが、その影響の有無について明らかなケースもあれば、グレイゾーンにあるケースも少なくありません。

不妊治療の前に子宮筋腫の治療を行う必要があるか

子宮筋腫の治療を優先すべきか、それとも、不妊治療を優先すべきかを考える場合、考慮に入れるべきポイントは、「年齢」、「筋腫の場所や大きさ、数」、「症状の有無」、「他の不妊原因の有無と高度生殖補助医療の適応の有無」の4つです。

1)年齢

女性の年齢が35歳未満であれば、待機療法、すなわち、子宮筋腫の影響の有無やその程度をしばらく様子をみて、判断するのがいいかもしれません。

2)筋腫の場所や発育の方向、大きさ、数

子宮の内側に筋腫が突き出て、子宮内腔が凸凹になっていて、明らかに着床を妨げているケースでは筋腫の治療を優先するのが得策かもしれません。

3)症状の有無

月経過多などの症状がある場合は筋腫の治療を優先するのが得策かもしれません。

4)他の不妊原因の有無と高度生殖補助医療の適応の有無

他の不妊原因を治療して、なおかつ、妊娠に至らない場合には子宮筋腫の影響を疑います。

後悔しない治療を選択するために

子宮筋腫に限らず、不妊原因になっているかどうかが定かでない場合には、とにかく、一定期間様子をみることで判断するしかないのですが、もしも、女性の年齢が高齢になれば、なるほど、その期間に妊娠率が低下してしまうというジレンマに陥ってしまいます。

最も悩ましいケースです。

その場合は、信頼のおけるドクターに相談すること、場合によっては、セカンドオピニオンを求め、また、それぞれの選択肢のメリット、デメリットを比べること、そして、ふたりでよく話し合い、選択することが大切です。

また、腹腔鏡下子宮筋腫核出術を受ける場合でも、ドクターの技量の差が影響を及ぼすケースもありますので慎重を期したいものです。

[文献]

女性の医学(佐藤孝道先生)

子宮筋腫と不妊(不妊予防のためのマニュアル)NPO法人日本不妊予防協会編

Fibroids and female reproduction:a critical analysis of evidence
 Somigliana at.el Human Reproduction Update.13(5)465-476 2007

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