第67回アメリカ生殖医学会ハイライト

2011年10月31日

さる10月15日から19日まで、フロリダ州オーランドにて、第67回アメリカ生殖医学会が開催されました。

そこで発表された最新の研究報告の中から、読者の皆さんのに役立ててもらえそうな内容のものをピックアップしてみました。

それにしてもです。ちゃんと食事すること、適度な運動習慣、そして、ストレスとうまくつきあうことが妊娠する力や治療成績を左右することがよくわかります。

妊カラの読者の皆さんであれば、既に、「言わずもがな」の内容かもしれません。

ただ、世界の第一線で活躍する研究者による最新の研究で確かめられたわけですから、私たちが取り組んでいること、取り組もうとしていることは、決して、気休めでも、自己満足でも、ましてや、無駄なことでもないという、お墨付きをもらったと受け止め、自信をもっていいのではないでしょうか?と思うのです。

ということで、アメリカ生殖医学会ハイライト、男性編と女性編にわけてお送りします。

まずは、男性編から。

食生活と精子の質

そもそも、私たちの身体は、私たちが食べるもので出来ているわけですから、何をどう食べるのかによって、身体の状態は大きく左右されるはずです。そして、そのことは、男性の「分身」である、精子の状態にも言えるようです。

いや、私たちの身体は若さでカバーできたりしますが、精子のほうが食の影響が、てきめんなのかもしれません。

食生活と精子の質の関係については2つの研究結果が発表されています。

一つ目は、アメリカとスペインの大学の共同研究で、魚中心で、野菜や果物、豆類、精製度の低い穀物をよく食べる食生活の傾向が強い男性ほど、精子の運動率が高いというものです。

どのようにして調べたのかと言いますと、ロチェスター大学で18~22歳に男性、188名を対象に食物摂取頻度調査という、普段の食生活の傾向を調べる調査と精液検査を実施し、それらの関係を分析したとのこと。

その結果、魚や野菜、果物、豆類、精製度の低い穀物の摂取頻度で4段階にグループ分けしたところ、最も摂取頻度の高いグループは、最も低いグループの男性に比べて、平均の精子の運動率が7.3%も高いことがわかったそうです。

肉より魚、精製された(白い)お米やパン、パスタではなく、玄米や全粒粉のパンやパスタ、そして、加工食品やファーストフード、スナック菓子ではなく、新鮮な野菜や果物、豆類をよく食べることが、精子を活発にするようです。

もう一つは、ハーバード大学の研究チームによる発表で、トランス脂肪酸の摂取量が多い男性ほど、精子濃度が低いというものです。

大学病院に不妊治療で通院するカップルの男性パートナー、99名を対象に、食物摂取頻度調査で、主な脂肪酸の摂取量を調べ、精液検査の結果との関係を分析しています。

その結果、トランス脂肪酸の摂取量で4段階にグループ分けしたところ、最も摂取量の多いグループの男性の平均の精子濃度は、最も低いグループの男性に比べて、40%も精子濃度が低かったとのこと。

トランス脂肪酸というのは、本来、天然の植物油にはほとんど存在しない脂肪酸で、植物油を加工する際にできてしまう副産物です。

そもそも、植物油は液体なのですが、水素添加することで半固形になり、安定するので、そのようにして、マーガリンやクッキー、スナック菓子などに使われるショートニングなどをつくったというわけです。

そのため、トランス脂肪酸が多い食品は、マーガリンや菓子パン、コーヒーフレッシュ、ファーストフード、冷凍食品、クッキー、クラッカーインスタント食品などです。

そして、このような食品を頻繁に食べている男性は、精子濃度が低くなりやすいということになります。

現代に特有の食品は、精子をつくる働きを弱め、精液中の精子の数を少なくしてしまうというわけです。

運動と精子の質

次は日常の運動習慣がどのように精子の質に影響するのかについて、福岡の不妊専門クリニック蔵本ウィメンズクリニックの発表です。

クリニックを受診した男性215名を対象に、日頃の運動習慣に関するアンケートを実施し、回答に基づいて運動レベルを「強い」、「適度」、「軽い」の3段階のグループに分け、精液検査の結果との関係を調べました。

その結果、精液量、精子濃度、精子運動率、すべてにおいて、適度な運動習慣のある男性グループが最も良好だったことがわかったとのことです。

要するに、男性の精子の質という観点から言えば、日常の運動は、やり過ぎても、不足してもよくない、あくまで、適度な運動がよいということになるわけです。

その結果が最も顕著だったのは精子の運動率で、平均の運動率は運動強度が強いグループでは、48、3%、適度グループでは53.3%、軽いグループでは49.9%で、基準値の40%を下回った男性の割合では、強い、適度、軽いグループの順に、ぞれぞれ、30.8%、14.3%、27.1%でした。

このように数値で出されると説得力がありますね。

男性不妊の抗酸化サプリメント療法

精液検査の結果が思わしくなかった場合、男性側に原因があるにもかかわらず、その程度によって、人工授精や体外受精、顕微授精など、女性に対して治療が施されるのが現実です。

ただし、男性側の状態を少しでも改善することが出来れば、女性側へは、より負担の軽い治療で済んだり、より少ない回数の治療で済んだりする可能性が高くなるはずです。

そして、その方法として抗酸化サプリメントが有効だという発表です。

インド工科大学カラブクル校の研究チームは、男性不妊患者を、精液中に運動精子がいないの男性40名(グループA)、精液中の精子の90%以上が奇形の男性50名(グループB)、精液中の精子の50%以上が頭部に空胞がある男性18名(グループC)の3つのグループに分け、最低でも3ヶ月間、抗酸化サプリメントによる治療を実施しました。

抗酸化サプリメントの配合内容は、ビタミンB12、ビタミンC、葉酸、亜鉛、Lカルニチン、コエンザイムQ10、リコピンでした。

その結果、グループAでは、32.5%の13名の男性に、ゆるやかで、狭い範囲ではありますが、運動精子が出現し、グループBでは、奇形精子が顕著に減少し、たとえば、頭部が巨大な精子は平均87.7%から79.1%に、尾部が短い精子は平均91.8%から84.2%に、それぞれ減少しました。そして、グループCでは、頭部に空胞がある精子が平均56.1%から49.7%に減少しました。

また、顕微授精における受精率は、平均23.4%から66.2%と著しく改善され、妊娠率も20.3%から29%に改善されました。

これらの結果から、男性不妊患者への抗酸化サプリメント療法は、精子に質を改善し、顕微授精の治療成績を向上することが期待できると結論づけています。

男性不妊のほとんどは、原因不明の造精機能障害であるため、特効薬が存在しないのが現実です。

ところが、最近、抗酸化サプリメントで治療成績は改善されたとの研究報告が相次いで発表されています。

つまり、ストレスや睡眠不足、食生活の乱れなどによる酸化ストレスが精子にダメージを与え、その結果、精液中の精子の質が低下し、男性不妊を招いているのではないかと考えられるわけです。

このことは、食生活のパターンや脂肪酸、運動習慣によって、精子の質が左右されることにも密接に関係するのでしょう。

いずれも、日常の工夫次第で、改善することが可能なことばかりで、やりようがあるということです。

次に女性編です。

まずは、高齢女性の原因不明不妊で、自分たちにあった治療法を選択する際の目安になり得る発表からです。

高齢の原因不明不妊に対する治療法別妊娠率比較

検査の結果、特に異常がみつからず、原因不明の不妊症と診断された場合、ステップアップ治療という方針を採用するのが一般的でしょう。

ステップアップ治療とは、身体にかかる負担が小さい治療からスタートして、一定期間繰り返しても結果が得られない場合には、妊娠の確率を上げるために、より強い治療に、徐々に、移行していくという方法です。

具体的には、タイミング指導からスタートして、人工授精、そして、体外受精にステップアップしていきます。

ところが、高齢(40歳以上)で原因不明不妊と診断された場合、タイムリミットを意識すると、どのように治療を進めればいいのか、悩むところです。

すなわち、人工授精から始めるべきなのか、それとも、すぐに体外受精を受けるべきなのかということです。

それぞれの治療成績を比較した報告がなされています。

38~42歳の女性を対象に、人工授精でスタートした場合とすぐに体外受精を受けた場合の2周期の治療成績を比較したものです。

アメリカの不妊専門クリニックで通院をはじめた38~42歳の154名の女性を、クロミフェンによる卵巣刺激を伴う人工授精を受けるグループ(51名)、FSH注射よる卵巣刺激を伴う人工授精受けるグループ(52名)、そして、すぐに体外受精を受けるグループ(51名)に分け、2周期の治療成績を比較しました。

ただし、それぞれのグループの女性の男性パートナーの年齢やBMI、過去の妊娠歴、喫煙習慣など、治療成績に影響を及ぼす可能性のある要因は同じレベルにしています。

その結果、それぞれのグループにおける周期あたりの妊娠率は、クロミフェン服用の人工授精では87周期中妊娠が6例で6.9%、FSH注射の人工授精では91周期中妊娠が7例で7.7%、体外受精では85周期中妊娠が21例で24.7%でした。

また、人工授精と体外受精の周期あたりの妊娠率は、それぞれ、7.3%、24.7%で、出産に至った確率は、人工授精で5.1%、体外受精で15.3%でした。

このように、人工授精でスタートするか、すぐに体外受精を受けるのか、2周期の治療成績を比較すると、妊娠率、出産率ともに体外受精は人工授精の約3倍になるということが言えます。

高齢の原因不明不妊の治療方針を検討する際の参考になるかもしれません。

次は、笑うことが不妊のストレスを軽減するとの報告です。

笑いと不妊のストレス

"笑い"が免疫力高めることが検証されていますが、不妊のストレスをも軽減してくれるというのです。

韓国のソウルの不妊クリニックの看護チームは、体外受精を受けている患者40名を対象に、20名ずつ2つのグループに分け、一方のグループには、笑い療法を施し、治療の前後にストレスや不安に感じるレベルを測定しました。

その結果、笑い療法を施されたグループのストレスレベルは、施されなかったグループに比べて、著しく軽減され、不安に感じるレベルも同様に低下したとのことです。

笑い療法というのはどのようなものなのかは分かりませんが、笑うことは不妊や不妊治療で感じるストレスを軽減し、不妊治療を通して、その時々で不安に感じる情緒状態を安定させる効果があるようです。

次は、水銀などの有害な重金属は不妊の原因になり得ると考えられていますが、毛髪中の水銀レベルと体外受精の治療成績の関係を調べた試験が実施されています。

★毛髪中の水銀レベルと体外受精の治療成績

ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、主に魚を食べることで体内に取り込まれる水銀の影響を調べるために、体外受精を受けている女性の毛髪中の水銀濃度と治療成績の関係を分析しています。

体外受精に臨む女性を対象に、治療に入る前に毛髪中の水銀を測定し、年齢や卵巣刺激法などの影響を排除して、水銀濃度と採卵数や受精率、胚の質、着床率などの治療成績との関連を調べました。

また、一部の女性には食物摂取頻度調査で魚の摂取頻度も調べました。

その結果、水銀濃度は魚の摂取頻度の高い女性ほど高いことがわかりました。

そして、195名の女性の271治療周期で、水銀濃度で4つのグループに分けたところ、水銀濃度が最も高いグループの着床しなかった確率は、最も低いグループのそれに比べて65%、その次のグループでは51%、その次は20%、それぞれ低く、水銀の濃度の高い女性ほど、着床率が高いことが判明しました。

この予期せぬ結果の原因として考えられるのは、魚を多く食べることのプラス面が、水銀のマイナス面を上回ったのではないかとのこと。

妊娠や出産に重要な働きを担うオメガ3脂肪酸は魚の脂肪に豊富に含まれるからです。

魚を多く食べることで、体内に入った水銀は、体外受精の治療成績にはマイナスの影響を及ぼすことはないようです。

水銀汚染を心配し過ぎて、魚を敬遠することは、魚に豊富に含まれ、妊娠や出産に不可欠な働きを担うオメガ3脂肪酸の摂取する機会を失うことになってしまいかねません。

そのため、厚生労働省は、妊娠前の女性に向けて、食べる魚の種類と量についての目安を決めています。
こちらに詳細が説明されています。

そのオメガ3脂肪酸と卵巣機能の関係です。

オメガ3脂肪酸と卵巣機能や癒着の発生の関係

オメガ3脂肪酸は私たちの健康にとても大切な役割を担っていることが、最近の研究でどんどん明らかになってきています。

生殖においても全く例外ではありません。

アメリカのニューヨーク州立バッファロー大学の研究者らは、18~44歳の259名の健康な閉経前の女性を対象に、2周期に渡って、月経周期中の生殖ホルモンの推移と排卵の状況を、1つの周期に8回のホルモン測定を実施することで調べ、同時に食事内容をも調べました。

その結果、オメガ3脂肪酸の摂取量が多い女性ほど、月経周期中の卵胞刺激ホルモン濃度のピークが早い一方で、エストロゲンやプロゲステロン濃度のピークが遅いことがわかりました。

オメガ3脂肪酸の摂取量と平均の生殖ホルモン濃度とは関連性は見られませんでしたが、オメガ3脂肪酸の摂取量で4つのグループに分けたところ、最も多い女性のグループは、最も少ないグループの女性に比べて、無排卵のリスクが64%低く、オメガ3脂肪酸の摂取が低い女性ほど排卵のないリスクが高かったと言います。

また、カリフォルニア州立大学サクラメント校の大学病院の産婦人科の研究チームは、マウスを使った実験を実施し、オメガ3脂肪酸を多く摂取することで、子宮内膜症の増殖が抑制されたり、子宮内膜症や手術後の炎症による癒着の発生が抑制されることを確かめています。

オメガ3脂肪酸の抗炎症作用によるものと考えられています。

オメガ3脂肪酸は前述のように魚の脂肪や亜麻仁油、しそ油、エゴマ油に豊富です。

現代に特有の食生活では、不飽和脂肪酸のうち、オメガ6脂肪酸が過剰で、オメガ3脂肪酸が不足しがちになると言われています。

オメガ6系脂肪酸の摂取を減らすために、炒め物や揚げ物などの加熱料理に使う油をオリーブオイルやバターに変えること、反対に、オメガ3系脂肪酸の摂取を増やすために、イワシ、アジ、サバ、さんま、かつお、サケ、まぐろ等の魚を週に2回以上は食べたり、サラダのドレッシングにはフラックスオイル(亜麻仁油)を使うとよいでしょう。