マカは使えるか?

2011年09月26日

マカは使えるか?
今回のトピックスのテーマは、タイトルそのもので、「マカは使えるか?」です。
そうです、あの"マカ"です。
南米ペルーの海抜4000~5000メートルのアンデス高地で生育するアブラナ科の根野菜で、地元では大昔から、いわゆる、"滋養強壮植物"として、伝承的に食されてきたそうです。

伝統的な食材にはよくあることですが、現地では、長い歴史の中で"精のつく"食べ物として重宝されてきたわけで、体力が落ちているときや元気になりたいときに利用されてきたことから、必然的に"マカ=生殖力を増大する"というイメージが定着したのでしょう。

そんな、南米の最貧国、ペルーの田舎のローカルな伝統食材が、アメリカや日本で知られるようになったのは、あの、フジモリ元大統領が関わっていたことはあまり知られていないかもしれません。

当時、かの地の農家は、左翼ゲリラと結びついた麻薬組織にコカの葉を提供することで生計を立てていたのですが、フジモリ大統領は、自身の地位を脅かす左翼ゲリラを掃討し、麻薬組織の撲滅作戦を実施したのです。

そして、農民にコカに代わる代替作物として、マカの栽培を奨励し、自ら、日本やアメリカに売り込んだわけです。

1990年代後半のことで、日本で初めてマカのサプリメントが発売されたのが1997年ですから、マカは日本ではまだ15年弱の歴史です。

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そんなマカについて、今も昔も、私たちのところには、"本当のところ、マカってどうなんでしょうか?"という類の質問がたくさん寄せられます。

おそらく、マカについて、いろいろな情報が氾濫しているからでしょう。

よくあることですが、途上国原産の健康食品の素材についての情報は、ほとんどは、販売会社が商品の販売を目的に発信されたりするものです。

当然、世間の注目を集めようと、誇張が入ったり、また、それらをコピー&ペーストする度に、"尾ひれはひれ"がついてしまったりします。

その結果、マカで言えば、"不妊に効く"とか、"天然のバイアグラ"とか、"アメリカのNASAが宇宙食に採用した"とか、何でもあり状態になってしまうわけです。

こうなると、"買う気"はそそられるかもしれませんが、"怪しさ"も増し、誤解を招き、正しい使い方がなされなくなってしまいかねません。

前置きが大変長くなってしまいました。

今月のトピックスでは、お子さんを望まれるカップルにとって、マカは使えるのかということについて、購入意欲をあおるための情報ではなく、正しく理解し、適切に使うための情報を提供できればと思います。


マカについて

国立健康・栄養研究所(※1)によると、マカは、南米ペルー原産の多年草で海抜4,000-5,000mの高地で植生するアブラナ科の植物で、カブに似た根茎部分が食材として重宝されているとあります。

そして、俗に男女ともに「強壮作用がある」といわれ、健康な男性では一部に有効性を示唆する情報もあるとしています。

◎含まれる栄養成分からみたマカの特徴とは?

1)必須アミノ酸の含有バランスがよい(アミノ酸スコア80)
乾燥したマカの根に含まれる主な成分は、実際に当社が分析したところ、炭水化物が80%、たんぱく質12%、脂質1%弱という構成です。
根野菜にすればたんぱく質の含有率が高く、そのアミノ酸の構成バランスがよいというのが第一の特徴になると思います。

具体的には、アミノ酸スコアが80と、良質な植物性たんぱく質の代表である大豆の86に迫る高さです。

2)鉄と亜鉛
ビタミンB群や鉄、亜鉛、マンガン、カルシウムの含有が確認されています。
特に、ビタミンB群ではニコチン酸、ミネラルでは鉄や亜鉛が多く含まれているのが特徴です。

3)さまざまな植物性有機化合物
アルカロイド、フラボノイド、テルペノイド、サポニン、グルコシノレートをはじめとして、未知の成分も含めて、さまざまな植物性有機化合物が含まれています。
他のどんな植物とも比べようのない、独特の含有成分構成と量がマカの最大の特徴です。

そして、それらの複合的な働きがマカ特有の働きをもたらすのではないかと考えられています。


マカの働きについてどんな証拠があるのか?

マカの働きや有効性については、以前はマウスなどを使った動物実験に関する文献しか存在せず、その多くはスペイン語でした。

ただ、ペルーカエタノ・エレディア大学のゴンザレス博士の研究チームは、ヒトを対象にした多くの臨床試験を実施していますし、最近では、欧米でヒトを対象とし、かつ、信頼のおける方法で実施された研究報告をみかけることが多くなりました。

そこで、生殖機能とマカの服用についてヒトを対象にした研究報告をピックアップしてみます。

◎男性不妊患者のマカ服用と精液所見

秋田大学産婦人科の研究チームは、原因不明の乏精子症、または、精子無力症と診断された14名の男性不妊患者に、1日に3グラムのマカを服用させたところ、8名の男性で精液所見が改善したと報告、改善がみられなかった6名は、いずれも治療開始時のFSHが10以上の症例であったことから、既に精子をつくる働きが損なわれている、もしくは、低下している男性不妊患者には無効であったとのこと(※2)。

◎健康な男性のマカ服用と精液所見

健康な成人男性9名に、4ヶ月間にわたり1日に1.5グラム、もしくは3グラムのマカを服用させ、マカ摂取前とマカ摂取後の「精液量」、「酸性度」、「精子濃度」、「総精子数」、「精子運動率」、「正常精子率」、また、男性ホルモン分泌量を測定したところ、精液量は平均130%、精子濃度は134%、総精子数が183%、運動精子数は208%、それぞれ増加し、総精子数、運動精子数ともにほぼ2倍に増加したとのこと。尚、男性ホルモン量はマカ摂取前後では大きな変化は見られなかったとのこと(※3)。

◎健康な男性のマカ服用と性欲

健康な成人男性57名を二つのグループに分け、一方にマカ(1.5g~3g)、他方に偽薬を1年間飲ませた二重盲験法による調査。4ヶ月、8ヶ月、12ヶ月目に性欲を測るテストを実施したところ、マカを服用したグループでは、2ヶ月目からは性欲アップ効果が出てきて、8ヶ月後には性欲の指数が実験開始時の2.5倍を示した(※4)。

◎マカの服用と軽度のED(勃起障害)

50名の軽度のEDの男性に3ヶ月間に渡り、マカ(2.4g)と偽薬を服用させ、二重盲検法による試験を実施したところ、マカ服用グループでは勃起指標と満足度において改善がみられた(※5)。

◎マカの服用と抗うつ剤による性機能障害

アメリカのマサチューセッツ総合病院で抗うつ剤(SSRI)服用の副作用で性機能障害を感じている20名の外来患者(17名は女性)にマカを1.5g、または、3g与えたところ、3g服用した患者は性機能の指標が大きく改善されたとのこと(※6)。

これまで生殖に関してヒトを対象とした試験でマカの効果が示されているのは、原因不明の軽度の男性不妊(乏精子症や精子無力症)の改善、健康な男性の性欲増大、軽度のEDの改善、そして、抗うつ剤の副作用による性機能障害の改善などです。

ただし、いずれの試験でも被験者数は少なく、エビデンスとして確立されているわけではありません。

そして、いずれのマカの服用によって男性ホルモンの分泌量の変化は確認されていません。

また、女性のホルモンバランスを整えたり、排卵障害を改善するとの証拠はありません。


マカは使えるか?

これまでの研究報告内容から、お子さんを望まれるカップルにとって、適切な使い方を考えてみましょう。

◎軽度の男性不妊(乏精子症や精子無力症)の補助治療として

精液検査の結果、精子濃度や精子運動率が基準値を下回り、軽度の乏精子症や精子無力症と診断された場合、明らかな原因が見当たらない場合、マカを試してみる価値はありそうです。

ただし、決して主たる治療法にはなり得ませんので、あくまで、補助的なものと考え、パートナーの女性が高齢の場合は、マカに頼ることで、人工授精や高度生殖医療に移行するタイミングを遅らせることにならないようにすることが大切です。

また、FSHが高く、造精機能が低下している場合には効果は期待できません。

一方、EDの場合には、バイアグラなどのED治療薬の代わりになる得るものでもありません。

◎性生活を充実させるために

妊娠の確率に最も大きな影響を及ぼすのは性交の回数で、性交の回数が多ければ多いほど、妊娠しやすくなります。

一方で、結婚歴が長くなればなるほど、そして、年齢が高くなればなるほど、また、不妊治療をはじめたカップルは、性交の回数や頻度が少なくなる傾向が明らかです。

ところが、妊娠を目指して、性交の回数を増やそうとすると、性交が義務化し、かえって、逆効果になってしまいかねません。

マカには、男性にとっても、女性にとっても、性欲を高める働きが確認されていますので、そんなカップルにはマカを試す価値があると思います。

◎元気になるために

マカは他の植物には決してみられないくらいの高い栄養価の植物です。古来より滋養強壮植物として重宝されてきたゆえんでしょう。

食が細く、妊娠、出産に耐えられるだけの体力に自信がないという女性は、試してみる価値があるかもしれません。


マカ製品について

日本では、乾燥マカのサプリメントとして販売されています。

さまざまな色(種類)のマカがあるようですが、種類によって、マカに含まれる栄養成分の構成や量が大きく異なることはないとの報告が圧倒的です。

品質という観点から言えば、マカの品種よりも、どこで栽培されたかのほうが大切なようで、やはり、特有の気候風土によるところが大きいのでしょう。

また、マカの働きは、特定の成分によるものというよりも、マカに含まれるさまざまな成分の相乗作用によるものと考えられているため、抽出エキスではなく、そのままの乾燥マカを選択すべきです。


最後に

マカは、確かに、そのアミノ酸の構成とバランス、ミネラルや植物性生理活性成分など、たぐいまれな植物であることは間違いありません。

また、その力は、長い間、滋養強壮植物として珍重され続けてきたという歴史が証明するところなのでしょう。

ただし、ホルモン様物質が含まれているわけでがありませんし、不妊治療薬やホルモン療法の代わりになるものではありません。

一方、たとえば、マレーシアのトンカットアリや南の島々のノニ、カバカバなど、伝承的にさまざまな薬効が期待できる植物には、たいてい、副作用が伴うことも覚悟しなければなりませんが、マカには、そのようなレベルの副作用の報告はありません。

ですから、お子さんを望まれるカップルにとっては、上記に挙げた目的で、食生活やライフスタイルの改善の一環として、"マカは使える"と言えるのではないでしょうか?

[文献]

1)国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性
2)日本産科婦人科学会誌63巻2号651ページ
  男性不妊症例に対するMacaの有効性について
3)Asian J.of Andrology (3)301-303,2001
Lepidium meyenii (Maca) improved semen parameters in adult men
4)Andrologia (34)367-372,2002
Effect of Lepidium meyenii (MACA) on sexual desire and its absent relationship with serum testosterone levels in adult healthy men
5)Andrologia 41(2)95-99 2009
Subjective effects of Lepidium meyenii (Maca) extract on well-being and sexual performances in patients with mild erectile dysfunction: a randomised, double-blind clinical trial.
6)CNS Neuroscience & Therapeutics 14 (2008) 182-191
A Double-Blind, Randomized, Pilot Dose-Finding Study of Maca Root (L. Meyenii) for the Management of SSRI-Induced Sexual Dysfunction

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