卵管障害と不妊治療

2011年09月15日

今月の特集のテーマは、卵管が働きづらくなったり、働かなくなってしまったりして、妊娠しづらくなってしまったり、妊娠できなくなったりしてしまう卵管性不妊症です。

妊娠しづらくなったり、妊娠できなくなったりする原因は、それこそ、多岐に渡ります。

ところが、不妊症の原因には、明らかな自覚を伴わないケースが多いこと、また、不妊治療をスタートする時点で、不妊原因とその程度についての正確な診断が簡単ではないことが、不妊治療を受ける際の悩ましさの一つになっ
ていると思います。

卵管性不妊も例外ではありません。

そこで、納得のいく治療を受けるために、卵管性不妊症の診断や治療法について、知っておきたいポイントをまとめてみたいと思います。


卵管障害について

まずは、卵管の役割、次に卵管がその役割を果たすのを阻害する原因を説明します。

◎卵管の役割

卵管は、片側の長さが約12センチ、内側の直径が約1ミリの卵巣と子宮をつなぐパイプの役割を果たす器官です。

妊娠に至るプロセスで卵管が関わっているのは以下の通りです。

・卵巣から排卵された卵子をキャッチし、卵管に取り込む(ピックアップ)。
・膣内に射精され、卵子を目指して子宮から移動してくる精子を受け入れる。
・卵管膨大部で出会った卵子と精子を受精させる。
・受精卵を発育させる。
・受精卵を着床場所である子宮へ運ぶ。

要するに、精子と卵子が出会い、受精し、受精卵が成育するところが卵管であり、受精卵を運ぶのが、卵管の仕事なのです。

そのため、卵管が狭く(内径が小さく)なったり、塞がってしまったり、そして、働かなくなってしまったりすると、排卵された卵子が取り込まれなくなったり、精子と卵子が出会えなくなったり、受精卵が子宮まで到達できなくなってしまったりして、妊娠が妨げられたり、妊娠しても子宮外妊娠になりやすくなってしまうのです。

◎卵管障害の原因

卵管が狭くなったり、塞がってしまったり、働かなくなってしまったりする原因として考えられているのは、主に以下の3つです。

・感染による炎症。
・子宮内膜症による癒着。
・過去の手術による癒着。

感染による炎症で最も多いのは、クラミジア(性感染症)です。

これらの炎症や癒着によって、卵管が狭くなったり、塞がったりすると精子と卵子が出会えなくなってしまいます。

また、卵管周囲の癒着によって、卵管の形が変わったり、卵管と卵巣の位置関係が変わってしまったりすると、排卵された卵子が取り込まれなくなったり、受精卵を運ぶ働きが阻害されてしまうようになります。

ただし、クラミジア感染にかかったからと言って、子宮内膜症であるからと行って、過去に卵管や子宮の手術を受けたことがあるからと言って、必ず、卵管障害になるわけではありません。


卵管障害の診断について

卵管障害の診断、すなわち、卵管が通っているかどうか、卵管や卵管周囲に癒着がないかどうかを調べる方法について説明します。

◎診断の意義

卵管障害のほとんどは自覚症状がありません。

また、卵管障害は、自然妊娠や人工授精による妊娠の可能性をゼロ、もしくは、著しく低くしてしまいます。

そのため、卵管障害があるかどうかを調べる検査は、必ず受けるべき検査であるだけでなく、不妊治療を始めると同時に受け、その結果に基づいて治療方針や計画を立てるべきです。

◎卵管障害の検査

・子宮卵管造影検査

卵管が通っているか、子宮の形、お腹や卵管周囲に癒着がないかを調べる検査です。

子宮内に造影剤を注入し、造影剤が子宮から卵管を通って、お腹の中に流れ出す様子をレントゲンで観察します。

この検査には治療効果もあります。

注入した造影剤が卵管を通るときに卵管を広げる作用があるため、軽い詰まりや癒着の影響を取り除くため、この検査の後は妊娠しやすくなるからです。

・卵管通気、通水検査

卵管が通っているかどうかを調べる検査です。

子宮内に炭酸ガスや水を注入し、それに要する圧力の変化で卵管の通りぐあいを確認します。

片側卵管閉塞の診断は不可能で、子宮卵管造影検査に比べれば、精度が低くなります。

◎診断の精度

子宮卵管造影検査は大変有用な検査ですが、造影剤の影をレントゲンで観察するわけですから、その精度は完全であるとは言えません。

たとえば、子宮卵管造影検査で卵管が通っていないと診断されても、より精度の高い腹腔鏡検査を実施してみると、約4分の1は、通っていることが確認されたとの報告があります。

痛みや緊張で卵管が収縮したり、検査や診断の技量などによるものと考えられますが、子宮卵管造影検査で異常があれば、再検査を受けたり、検査の際に鎮痛剤を服用したり、また、年齢にもよりますが、一定の期間、タイミング指導や人工授精で妊娠を目指してもいいかもしれません。

一方、検査の精度ではありませんが、片側卵管閉塞と診断されても、もう一方の卵管が正常であれば、自然妊娠は可能であり、その妊娠率も半分になるわけではなく、約20%低くなる程度であるとの報告があります。

さらに、排卵された卵子を卵管に取り込む働きである、卵管采のピックアップ機能や卵管の受精卵を運ぶ機能そのものが、正常かどうかを調べる検査法は、現在までのところありません。

そのため、不妊期間や治療期間の長さから推測するしかありません。


卵管性不妊症の治療

卵管の狭窄や閉塞、卵管や卵管周囲の癒着の状況や場所、患者の意向従って治療方針を立てることになります。

卵管障害に対しては、高度生殖補助医療が最も有効な治療法です。

▼高度生殖補助医療(体外受精)

体外受精は、元々は、両側の卵管がない不妊症に対して、卵子と精子を体外に採り出し、受精、培養した後、子宮に戻す治療法として開発されたものです。

現在では、男性不妊や原因不妊、高齢による卵巣低下に対しても広く実施されるようになりましたが、やはり、卵管因子が最も妊娠率が高くなるとの報告があります。

また、次に紹介する卵管障害の治療が困難な場合に体外受精が実施されます。

一方、卵管障害を治療して、自然妊娠を目指す方法には、卵管鏡下卵管形成術や腹腔鏡下手術があります。

▼卵管鏡下卵管形成術(FT)

先端に内視鏡のついたカテーテルを子宮から卵管に近づけ、風船(バルーン)を膨らませて、卵管のなかにバルーンを進め、内視鏡で卵管内を直接観察し、詰まっているとこをを広げ、術後に自然妊娠を目指します。

卵管の狭窄や閉塞が卵管の子宮側に近い場所にある場合に効果的で、卵管鏡下卵管形成術を単独で行える場合には、身体への負担も軽く、日帰りで受けることが可能で、保険も適用されます。

FTによる卵管の開通率は約80%以上、その後の妊娠率は約30%前後との報告がありますが、術後に再発してしまうこともあるようです。

※卵管鏡下卵管形成術(FT)が説明されたサイト


▼腹腔鏡手術

お腹に小さな穴をあけて、内視鏡を挿入し、卵管周囲の癒着をはがしたり、卵管形成術を施したりして、自然妊娠を目指します。

全身麻酔下で行われ、入院が必要になります。

FTでも、腹腔鏡手術でも、卵管障害の状況や程度によっては、回復が困難な場合もあり、また、回復したとしても、1年以上妊娠に至らない場合は、体外受精で妊娠を目指すことになります。


最後に ~ 納得のいく治療を受けるために

卵管障害に対して適切な治療を施したうえで自然妊娠を目指すのか、体外受精を受けるのか、いずれかを選択するのが基本的な考え方ではありますが、高度生殖補助医療が進歩、普及した現在、すぐに体外受精を行うのが、より一般的になっているようです。

ただし、納得のいく治療を受けるという観点から言えば、不妊治療は100%の妊娠が保障されているわけでなく、さまざまなリスクを伴う治療ですので、どんな治療を受ける場合でも、すべての選択肢を比較、検討したうえで、自分たちにふさわしい方針や治療法を選択するというステップを踏んでおくことは、とても大切なことだと思います。

また、子宮卵管造影検査の精度には限界があります。

また、両側の卵管がない(切除した)場合は、絶対的な不妊で、自然妊娠の可能性がゼロになりますが、卵管狭窄や閉塞、癒着などによる卵管障害は、相対的な不妊で、自然妊娠の可能性を全く否定することは出来ません。

そのため、繰り返しになりますが、年齢が35歳未満で、自然に近い方法で妊娠を希望されるのであれば、一定期間、タイミング指導や人工授精で妊娠を目指す選択肢もあり得ます。