子宮内膜症と不妊治療

2011年06月06日

なかなか思うように授からない時、なぜ授からないのか、その原因がはっきりしている場合とはっきりしない場合があります。

たとえば、排卵がない(無排卵)とか、両側の卵管が働いていない(両側卵管閉塞、欠損)、そして、ご主人の精液中に精子がまったくいない(無精子症)、はたまた、セックスレスの場合は、それによって妊娠できないことがはっきりしているので、どんな治療を受けるべきかについて迷うことはないでしょう。

ところが、それ以外、たとえば、排卵しづらい(排卵障害)とか、片側の卵管が働いていない(片側卵管閉塞、欠損)、黄体ホルモンの分泌が悪いとか、ポリープや筋腫がある(着床障害)、そして、ご主人の精液中の精子の数が少ない(乏精子症)とか、運動率が低い(精子無力症)というような場合、どんな治療を、どれくらい繰り返せばいいのかについて、迷うことが多いのではないでしょうか。

それらの原因らしきものが、果たして、どの程度、妊娠の妨げになっているのか、よくわかりませんからね。

ですから、そんな場合には、医師のアドバイス(エビデンス)や不妊の期間、女性の年齢、そして、ふたりの治療に対する考え方や希望に照らして、治療の方針を決めることが大切です。

そして、子宮内膜症の場合も、まさにそういうことが言えます。

そこで、今週の妊カラでは、子宮内膜症と不妊治療について、知っておいたほうがよいと思われることをまとめてみました。

子宮内膜症について

◎子宮内膜症とは?

子宮内膜症とは子宮内膜以外のところに、子宮内膜ができてしまう病気です。

そもそも、子宮内膜というのは、その名前の通り、子宮の「内」側に、エストロゲン(女性ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用によって、育てられる「膜」のことです。

月経が終わった後、エストロゲンが増えるに従って、徐々に厚くなり、排卵の後、プロゲステロンが加わると、受精卵の着床しやすくなるように、ふかふかになり、妊娠の準備が整います。もしも、妊娠しなかった場合には、これらのホルモンが少なくなり、子宮内膜が一気にはがれ落ちてしまい、出血(月経)がおこります。

これが、子宮の内側以外、たとえば、卵巣や卵管、そして、子宮の周囲の組織にできて、同じように厚くなり、はがれ落ちて、出血します。

そして、それが毎月繰り返されることで、炎症が起こったり、その周りの組織同士が癒着して、ひどい場合は臓器が変形することもあります。

もしも、卵巣にできると、毎月の出血で、吸収しきれなくなった血液が徐々に溜まり、それが古くなると、茶色いドロドロになり、チョコレートのようになることから、チョコレート嚢胞と呼ばれています。

このように「子宮内膜が子宮以外のところにできる」という、メカニズムの根本は単純ですが、できる場所やその程度はさまざまで、それによる影響は完全には把握できないくらい複雑です。

自覚症状がない場合もあれば、強い生理痛や性交痛がある場合もあります。

生殖年齢にある女性の約10%がかかっていると言われています。

原因については諸説ありますが、よく分かっていません。

◎子宮内膜症と不妊症

子宮内膜症と不妊の関係についてですが、子宮内膜症だからといって、必ずしも不妊症になるわけではありません。

一説によると、子宮内膜症で、不妊症を合併するのはおよそ半数くらいとされています。

つまり、子宮内膜症でも、半数は何の問題もなく自然妊娠することが出来る一方、半数は不妊症を引き起こすというわけです。

さて、子宮内膜症によって不妊の原因になると考えられているものは多岐に渡ります。

子宮内膜症による炎症や癒着によって、組織が変形してしまい、物理的に妊娠が妨げられる場合もあれば、子宮内膜症に伴って分泌されるさまざまな物質によって周囲の化学的な環境が変化し、妊娠を妨げる場合もあるからです。

具体的には、排卵しづらくなったり、卵子の質が低下したり、卵管の通りが悪くなったり、排卵された卵子を卵管に取り込むことができなくなったり、着床しづらくなったり、はたまた、卵子に向かって泳いでいる精子の邪魔をしたりといったものです。

◎子宮内膜症の診断

厳密に言えば、子宮内膜症かどうかは、直接、観察して調べてみかければ分かりません。

ただし、たとえば、月経痛や性交痛などの自覚症状がある場合やある程度症状が進行している場合は不妊検査で、チョコレート嚢胞がある場合には超音波検査で診断されます。

また、原因不明不妊の場合、腹腔鏡検査を受けると、だいたい半数くらいに子宮内膜症が確認できると言われています。

子宮内膜症と不妊治療

この病気がなぜ起こるのかはっきりとした原因が分かっていないことから、子宮内膜症を根本的に治療することは困難です。

子宮内膜症によって強い月経痛がある場合、痛みを緩和するための治療は薬物療法で、月経を止めることになります。そのため、その間、妊娠できなくなってしまい、また、治療後の妊娠率の改善も見込めないので、痛みに対する治療は不妊治療にはなり得ません。

反対に、妊娠することで月経がストップしますから、早く妊娠することが、結果として、子宮内膜症の緩和につながります。

子宮内膜症によって妊娠しづらくなった場合の不妊治療の基本は手術療法、そして、体外受精になります。

以下に状況に応じた不妊治療の選択肢を整理してみます。

◎軽度であれば自然妊娠を目指すことができる

たとえ、子宮内膜症と診断されても自然妊娠の可能性は十分にあるので、その程度が軽度であれば、まずは、タイミング指導から自然妊娠を目指すことが可能です。

要するに、卵管の検査で異常がなく、その他の不妊原因もなければ、通常のステップアップ法で妊娠を目指すことが出来るということです。

◎自然に近い方法で妊娠を目指す場合の手術療法

そして、タイミング指導や人工授精を繰り返しても妊娠に至らない場合、腹腔鏡手術による治療で自然妊娠を目指すという選択肢もあります。

軽度の子宮内膜症の場合、腹腔鏡手術で病変を焼いて治療したり、癒着をはがしたりすることで、妊娠率が高くなるとの報告があります。

◎早めに体外受精へのステップアップを検討する

子宮内膜症が進行し、癒着による卵管閉塞がある場合、もしくは、軽度の場合でも、タイミング指導や人工授精を繰り返しても妊娠に至らない場合、また、不妊期間が2~3年を超える場合や男性不妊などの他の不妊原因がある場合には、体外受精を検討するのが得策です。

その場合でも、子宮内膜症があるために卵巣の機能や卵の質が低下し、体外受精の治療成績に影響を及ぼすとの報告があるため、いずれは体外受精を受けることを考えているのであれば、女性の年齢が高齢でなくても、早めにステップアップすることを考えるべきです。

◎チョコレート嚢胞がある場合の選択肢

日本産婦人科学会では、3~4センチ以上のチョコレート嚢胞がある場合は、腹腔鏡手術で嚢胞を摘出することを推奨しています。

3センチ以上のチョコレート嚢胞を摘出することで、術後の自然妊娠の妊娠率が高くなるとの報告があります。

ただし、自然妊娠を希望する場合には有効な選択肢になり得ますが、体外受精で妊娠を目指す場合には、その前にチョコレート嚢胞を摘出することは慎重に検討する必要があります。

なぜなら、チョコレート嚢胞を摘出をしたからといって、その後の体外受精の成績が高くなるとのエビデンスがないからです。

反対にチョコレート嚢胞の摘出手術によって、卵巣刺激に対する反応が悪くなるとの報告があります。

いずれにしても、チョコレート嚢胞への治療については明確なガイドラインが存在しませんので、それぞれの状況に応じた適切な治療方針を検討することが大切です。

子宮内膜症に対するセルフケア

子宮内膜症そのものへの根治的な治療は難しいとのことでしたが、生活習慣を見直すなどのセルフケアによって、その進行を遅らせたり、影響を軽くすることが出来る可能性があります。

◎月経不順を改善する

子宮内膜症はエストロゲンによってその症状が悪化します。月経周期が短い場合、月経の期間が長い場合は、子宮内膜症が発症しやすくなります。

そのため、規則正しい生活リズムを心がけることで、正常な月経サイクルを目指すことが大切です。

◎食生活を改善する

肉や加工肉、乳製品、動物性脂肪をを多く摂る女性ほど子宮内膜症を発症しやすく、野菜や果物を多く摂る女性ほど発症しにくいとの報告があります。

特に、ブロッコリーなどのアブラカ科の野菜や大豆食品、食物繊維を多く摂ることで、過剰なエストロゲンの影響を軽減し、反対にカフェインの過剰摂取や肥満はその影響を増大します。

また、脂肪の摂取について、オメガ3脂肪酸を多く、トランス脂肪酸を少なくすることで、炎症しにくい体質になり、子宮内膜症の影響を軽減できる可能性が高くなります。

◎運動習慣

適度な運動習慣は子宮内膜症の発症リスクを低くしてくれます。

さいごに

子宮内膜症があっても、普通に妊娠、出産する女性も少なくありません。

ところが、子宮内膜症による強い痛みに悩まされたり、その影響でなかなか妊娠に至らず、有効な治療法の選択に迷うケースも、また、珍しいことではありません。

このように、子宮内膜症は場合によっては一筋縄ではいかない病気であり、治療ガイドラインが確立されていません。

生活習慣の改善を心がけ、経験豊かなドクターの診断と治療を受け、後悔しない治療を受けることが大切です。