現代の食をとりまく環境について

2011年05月17日

健全な妊娠や出産のために、新鮮な食材をバランスよく食べること、よく身体を動かすこと、ストレスをうまくマネージメントするという、極々、当たり前なこと大切です。

その中でも、基本中の基本は「食べること」です。

卵を育てるように促すホルモンも、卵そのものの材料であるたんぱく質や脂質も、そして、成熟卵をつくる職人である酵素も、職人が使う道具である補酵素も、さらには、成熟卵をつくるためのエネルギーの燃料になる炭水化物やそれをつくる補酵素も、すべて、5大栄養素のどれかで、毎日の食事から取り入れているからです。

もしも、朝、昼、晩の食事をちゃんと食べなくて、それらのうち1つでも足りなくなると、いい卵をつくることが難しくなってしまいます。

だから、ちゃんと食べることが一番大切だというわけです。

ところがです。

たとえ、バランスに気をつかって食べていても、それでも、不足してしまうビタミンやミネラルが出てきかねないというのです。

食事でかかる新型栄養失調

この豊かな日本で栄養失調なんてあり得ない!と思われるでしょう。当然だと思います

ところが、NPO法人「食品と暮らしの安全基金」は「食事でかかる新型栄養失調」という本で、厚生労働省の「食事バランスガイド」の通りの食事をしていても、健康を維持するのに十分な栄養素が摂れるとは限らないことを、実際に検証し、その実態を明らかにしています。

現実というのは、私たちが知らないところで、私たちが想像している以上に早く進行するものなのかもしれません。

コンビニ食だけで1日食べたら・・・

NPO法人「食品と暮らしの安全基金」は、実際に、コンビニやスーパーでお弁当や冷凍食品を購入して、食品衛生協会検査センターに持ち込み、どれくらいのミネラルが含まれているのか、検査を依頼しています。

コンビニや持ち帰り弁当、宅配弁当、冷凍食品など、普段、私たちになじみ深い外食や中食などを調べあげています。

因みに、中食とは調理された食品を購入して持ち帰り、家で食べることです。

その結果は驚くべき内容です。

もしも、それらで1日の食事を済ますと、カルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛、銅といった主要ミネラルが、厚生労働省の2010年版日本人の食事摂取基準の「推定平均必要量」を、到底、満たせないというのです。

そのうえ、基準としている「推定平均必要量」とは、「これだけ摂取したら健康に障害を生じない」という必要量ではないのです。

そうではなくて、その半分の量で、この量だけで1ヶ月過ごすと、半分の人が健康に障害が出る量です。

つまり、摂るべき必要量の半分でさえ、満たしていないのです。

たとえば、朝食は菓子パン、昼食に幕の内弁当、夕食に高菜唐揚弁当と、あるコンビニエンスストアだけで1日食べたらどうでしょう。

なんと、カルシウムは推定平均必要量の23%、マグネシウムは47%、鉄に至っては21%、亜鉛では64%、銅では45%しか摂れないとのこと。

推定平均必要量は20代女性のもので、妊娠を意識する女性では、鉄でその2倍の量と、もっともっと、多い量が必要になるのは言うまでもありません。

現代社会に特有の食をとりまく環境

繰り返し強調しておきますが、例に挙げたような"貧弱な内容"ではなく、厚労省の食事バランスの通りの内容でも、外食や中食では、「推定平均必要量」を、到底、満たしていないのです。

そもそも、加工食品や冷凍食品には、厚労省が"食材に含まれているであろうと考える栄養素の量が含まれていない"ということです。

つまり、問題は"食べ方"ではなく、"現代社会に特有の食をとりまく環境"なのです

なぜこのような事態を招いてしまったのでしょうか?

▼製造過程で栄養素が失われている

商品を、低いコストで、効率よく、そして、安全につくることを追求した結果、肝心の栄養素が失われることになってしまったようです。

たとえば、中国やベトナムで安く食材を調達し、安い人件費でカットし、水煮を繰り返し、食品添加物を入れ、パックして冷凍しる過程で、そして、冷凍食品では、徹底した水洗いをし、下ゆでする過程で、また、揚げ物は純度の高い精製された植物油で揚げる過程で、相当な栄養素が失われるとのこと。

おまけに、リン酸塩というポピュラーな食品添加物は、ミネラルと結合することによって、ミネラルの体内への吸収を阻害すると言いますから、ダブルパンチです。

▼食材そのものに含まれる栄養素が減っている

全ての食材を海外から調達しているわけではありません。ところが、国内産は、国内産で、今度は、野菜や果物に含まれる栄養素の量が、年々、減っています。

文部科学省の「日本食品標準成分表」をみてみると、激減しています。

たとえば、ニンジン100グラムあたりに含まれるビタミンAは、1950年には13500IUだったのが、1982年には4100IUに、2005年には2590IUへと、55年で80%も減っています。

ほうれん草100グラムあたりに含まれる鉄は、1950年には13mgだったのが、1982年には3.7mg、2005年には2.0mgへと、55年で85%の減少です。

国の調査では?

それでは、国は国民の栄養素摂取の状況をどうとらえて、どのような情報発信をしているのでしょうか?

厚労省の「平成20年国民健康・栄養調査」の30代女性のビタミンやミネラルの平均摂取量と、同じく厚労省の「日本人の食事摂取基準・2010年版」の妊婦の1日のビタミンやミネラルの推奨摂取量を見比べてみましょう。

その結果、ビタミンB6の30代女性の平均摂取量は、妊婦の推奨摂取量の85%、同様に、葉酸では52%、カルシウムでは69%、マグネシウムでは63%、亜鉛では66%、そして、鉄に至っては35%です。

そして、妊娠前から葉酸のサプリメント摂取を推奨したり、カルシウムやマグネシウム、鉄は不足しがちで、かつ、妊婦には必要量が増えるので意識して摂るように勧めています。

自分で自分の環境を守るということ

いかがでしょうか?

厚労省は、決して、ビタミンやミネラルが十分に摂れているとはみていませんし、不足しがちな栄養素があることを指摘していますし、妊娠前には葉酸のサプリメント摂取を推奨しています。

ただし、あくまで平均的な指標をベースにしており、そもそも、調査データがどれだけ実態を反映しているのか、定かではない面があることを指摘する専門家も少なくありません。

要するに、誰かが決めたことを盲目的に守っていればそれでよし!という世界はないということでしょう。

自分で必要な情報を収集し、知識を身に付け、そして、自分で考え、判断することが絶対に必要だということでしょう。

野菜や果物に含まれている栄養素の量が減っているといっても、輸入ものやハウスものと、旬で、近場で露地栽培のものとでは相当違うはずです。

食材を厳選し、自ら調理することで、守れるものは大きいと思います。

また、栄養素が不足しているからと言って、サプリメントで補充しさえすれば、それでよいというわけでもありません。

なぜなら、サプリメントも加工食品であり、品質の問題や相互作用の問題もあるからです。

食は生活や嗜好に密着しています。人それぞれ、年齢や体質もあります。

良質な情報に接し、自分で考え、判断し、自分たちにとってベストな方法を実行すること、これに尽きると思います。

赤ちゃん待ち期間が長いほうが有利かもしれない

子どもの心身の健康は母親になる女性や父親になる男性の、妊娠前の栄養状態の影響を強く受けることが、最近の研究で次第に明らかになってきました。

そして、それは生まれた直後だけでなく、成人後の生活習慣病のリスクにまで影響が及ぶこともわかってきました。

考えてみれば、"できちゃった"とか、"予期せぬ"妊娠よりも、いろいろなことを"予期して"、"準備して"、迎えられるほうが、いろいろな意味で有利なことが多いのかもしれません。

つまり、赤ちゃん待ちの期間が長いということは、決して、辛いことばかりではないと言えるわけです。

ある意味で、大変な時代なのです。

ただし、ある意味で、いろいろなやりようがある時代であり、また、そのことが大きな差になる時代であるように思えてなりません。