PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断されたら

2011年03月30日

PCOSの治療方針は、不妊の原因になる病気ではベスト3に入るテーマです。PCOSに伴う排卵障害による不妊は、"よくある"反面、"難しい面"があります。

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは?

小さな卵胞がたくさんみられる状態の卵巣のことを多嚢胞性卵巣といい、超音波検査で確認できます。

ただ、多嚢胞性卵巣であるだけでは、多嚢胞性卵巣症候群とは診断されません。

多嚢胞性卵巣であることに加えて、排卵しづらい、あるいは、排卵しないという月経異常を伴うこと、そして、血中男性ホルモン値が高い、または、LH(黄体化ホルモン)値が高いこと、この3つをすべて満たすことが、最新の多嚢胞性卵巣症候群の診断基準とされています。

ごく簡単に言えば、男性ホルモンの値が高いため、卵胞は発育するものの途中で成熟が阻害されてしまい、排卵障害や無排卵を招くことで、不妊の原因になるのが多嚢胞性卵巣症候群というわけです。

ただ、症候群なわけですから、その症状は、決して、一様ではなく、肥満や内臓脂肪過剰、また、毛深くなるなどの男性化傾向がみられることがあったり、インスリン抵抗性といって、インスリンの効き目が悪くなって、糖や脂質の代謝に異常をきたす状態が、男性ホルモン値が高い背景にあることがあり、そのメカニズムはとても複雑なようです。

PCOSの発症頻度は?、その原因は?

諸説あるようですが、生殖年齢にある女性の5%くらいにみられ、また、増加傾向にあり、不妊原因の20%くらいを占めるとの報告もあります。

それにもかかわらず、多嚢胞性卵巣症候群の原因はよく分かっていません。

遺伝的な要因によるものと考えられているようですが、インスリン抵抗性を伴う場合があることから、食生活や運動などの環境的な要因が関与していることも考えられます。

PCOSと診断されたら

多嚢胞性卵巣症候群が不妊の原因になるのは、排卵障害や無排卵によってです。ただし、どの程度、妊娠の妨げになっているのか、その程度は、さまざまです。たとえ、PCOSと診断されても、自力で排卵があれば、自然妊娠が可能です。ところが、排卵しづらく、排卵日の特定が困難だったり、排卵の回数が少ないために妊娠しづらくなっていたり、無排卵の場合は治療が必要になります。

PCOSそのものを治療することは困難なため、治療は対症療法になります。ライフスタイルの改善やホルモン療法、或いは、手術療法で、正常な排卵を目指します。

ライフスタイルの改善

日本人の場合、PCOSの約3分の1に、肥満(BMI≧25)が伴うと言われています。

もしも、肥満を伴うPCOSであれば、ダイエットが大変有効であるとの報告が多数あります。

ただし、単に体重を落とせばいいわけではありません。短期間に急激に減量することは逆効果になりかねないからです。

そもそもPCOSは、太りやすい体質にあることが多いため、ダイエットが簡単でないことが予測されます。

そのため、1~2ヶ月かけて、5~10%を減量するというペースを目指します。

なぜなら、たとえ、BMIが正常レベルにならなくても、5~10%程度の減量でも、止まっていた排卵が再開するとの報告があるからです。

いずれにしても、減量が目的ではなく、食生活を改善し、運動習慣を身につけることで、ホルモン環境を整えることで、正常に排卵がおこり、妊娠することが目的だということです。

また、PCOSの3分の2は肥満を伴うわけではありませんが、その中に内臓脂肪過剰な"隠れ肥満"が少なくなかったり、インスリン抵抗があるとの報告もあります。

そのため、肥満でなくても、食生活を改善し、血糖値を上げない食べ方を心がけること、適度な運動習慣を身につけることが大切です。

ホルモン療法

(1)クロミフェン

ライフスタイルの改善に取り組んでも、依然として排卵障害が改善されなければ排卵誘発剤を使います。

まずは、最長6周期を目処に、クロミフェンを服用します。

6周期までに妊娠に至らない場合は、その後の妊娠率は低いとされているからです。

これにより、75~80%の症例で排卵がおこり、周期あたりの妊娠率は22%、
6周期までの使用で、50~60%の確率で妊娠、出産に至るとの報告があります。

(2)クロミフェン+メトホルミン

クロミフェンを使っても排卵がおこらない場合、糖尿病のお薬であるメトホルミンを併用することで、排卵が期待できることがあります。

クロミフェンが無効だったPCOSに、メトホルミンを併用したところ、56%の排卵率が得られたとの報告があります。

(3)ゴナドトロピン

飲み薬が無効な場合、より強力な排卵誘発作用を有する注射薬によって、排卵がおこる確率が高まります。

この方法では、約70%の排卵率、周期あたりの妊娠率は20%、6周期までの使用で、50~60%の確率で妊娠、出産に至るとの報告があります。

ただし、PCOSの場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症しやすいため、少量からはじめて徐々に投与量を増やしていきます。

人工授精

クロミフェンの副作用で頸管粘液が少なくなったり、また、排卵誘発によって得られた貴重な排卵の機会を大切にするため、人工授精を施すことで妊娠の可能性を高めることは有効です。

手術療法

腹腔鏡手術によって、両側の卵巣に小さな穴をあけることで、自然排卵率が74%、クロミフェンによる排卵率がほぼ100%に回復し、手術後、60%の妊娠率が得られたとの報告があります。

ただし、腹腔鏡手術は、決して、手軽なものではなく、全身麻酔で入院が必要な治療であること、また、効果の持続期間が1年程度であるという欠点があります。

体外受精

そもそも、PCOSは排卵障害が不妊の原因なわけですから、基本的には、体外受精は、相応しい治療方法にはなり得ません。

ホルモン療法や人工授精などの治療でも妊娠しない場合、体外受精にステップアップすることを検討します。

知っておきたいこと

1)見通し

スウェーデンの大学の研究チームが、PCOSと診断された35歳以上の女性の追跡調査を実施した結果、86.7%が、一人以上の子を出産し、その73.6%は、自然妊娠によるものだったと報告されています。

PCOSの場合、ホルモン異常による排卵障害や無排卵が妊娠の障害になるわけで、決して、卵巣の力そのものが低下しているわけではなく、適切な方法で排卵が回復すれば、高い確率で妊娠、出産が可能だと言えます。

2)血糖値を上げない食べ方

PCOSの女性には少なからず、インスリンの効き目が悪化しており、インスリン量が増えてしまう傾向がみられるとのこと。

そして、そのことが男性ホルモン高値を招き、卵胞の発育の障害になるだけでなく、卵子の質を低下させたり、流産率を高めることがあるとの報告もあります。

そのため、血糖値を安定させるような食生活を心がけることが大切です。

血糖値の急激な上昇、下降を繰り返すような食べ方は、インスリン抵抗性を悪化させかねないからです。

現代に特有の食生活は、血糖値の乱高下を招きやすいことから、意識して、食べるものや食べ方を考える必要があります。

大切なのは"血糖値を上げない食べ方"です。

どんなものをどのように食べるのかで、血糖値の上がり方は随分と違ってくるようです。

それぞれのポイントを列挙しました。

◎食べ方

・一度にたくさん食べない。
・ゆっくりとよく噛んで食べる。
・朝食を抜かない。
・朝食に血糖値の上がりにくい食事をする。
・空腹時に砂糖入りの甘いものを食べたり、飲んだりしない。
・糖質は先に食べない(野菜→たんぱく質→脂質→糖質)。
・ネバネバしたもの、酢の物、食物繊維を一緒の食べる。
・甘いものは食前ではなく、食後に食べる。
・アルコールは飲み過ぎない。
・食事と食事の間隔はあけすぎない。

◎食品

・精製度の低い穀物(玄米、全粒粉パン、全粒粉パスタ)を食べる。
・ファーストフードはあまり食べない。
・砂糖は極力摂らない。
・清涼飲料水は飲まない。
・豆、野菜、果物、キノコ、海藻、を毎日食べる。
・砂糖の代わりに、ハチミツやメープルシロップを。

3)経験豊富なドクターにかかる

PCOSは、適切な方法で排卵を回復させることに尽きます。

そのためには、セルフケアによるライフスタイルの改善、そして、それぞれの状況を見極め、それに応じたホルモン療法を採用することが必須です。

どんな排卵誘発剤や糖尿病薬を、どんなタイミングでどのくらいの量を投与するのか、それを間違えると、排卵が回復するどころか、より排卵が困難になってしまいかねません。
また、OHSSや多胎などの副作用をいかに回避するのか、医師の腕の見せどころです。
PCOSと診断されても、なんの治療も受けなくても、すぐに自然妊娠できるケースもあれば、ホルモン療法を繰り返しても、なかなか、排卵しない、また、排卵が回復しても、なかなか、妊娠に至らないケースも、少なくありません。

その場合、PCOSの治療経験の豊富な先生に、適切な方法の治療を施してもらうことがとても大切になってきます。

もしも、結果が出ないまま、漫然と同じ治療を繰り返していたり、治療方針について、質問しても、要領を得ない場合には、転院を検討すべきと思います。