今年の6月に京都で開催された抗加齢医学会で、東京女子医科大学産婦人科と慶應義塾大学医学部産婦人科の研究チームは、不妊外来に通院している夫婦170組と、自然妊娠でお子さんを授かった夫婦170組、合計340組の夫婦をを対象に、性生活について調査した結果を報告しています。
それによると、妊娠を希望していても、交際期間や結婚期間、年齢が高くなるほど、性交回数が少なくなる傾向が、不妊治療を受けている夫婦にも、受けていない夫婦にも、同じように見られると言います。
ところが、特に、35歳以上の不妊治療開始後の男性において、性的欲求の低下、性的不満感、性的回避が強くなる傾向が見られたとのこと。
また、性生活、性衝動のあり方や満足感の低下は、男性では勃起障害、女性では性的欲求の低下、そして、男女共にコミュニケーション不足、性交頻度の低下が、大きな原因となっているとい言います。
普通、交際期間や結婚期間が長くなり、年齢が高くなってくると、付き合いだした、若い頃に比べて、性交の頻度が落ちてくるものです。
ところが、不妊治療を受けるようになると、男性のやる気が失せ、セックスを回避するようになるというのです。
セックスの回数と妊娠率は正比例します。
つまり、妊娠するために始めた不妊治療がきっかけで、かえって、妊娠しづらくなってしまうという、なんとも皮肉なことがおこっているのです。
そこで、今週は夫婦生活の最適化について考えたいと思います。
★タイミング法の誤解が招く副作用とは?
この10年で、男性不妊の原因として、膣内射精障害が急増しているとの報告があります。
そして、そのうちの7割以上が、それまでは普通に射精できていたのにもかかわらず、不妊治療をはじめてセックスの日を決められることがきっかけに、射精できなくなってしまったというものです。
不妊治療は、普通は、タイミング指導からスタートするものです。
つまり、タイミング指導がきっかけになって、男性に過度のプレッシャーがかかり、射精できなくなってしまったわけです。
そして、射精障害までいかなくても、やる気が低下したり、セックスを避けがちになってしまうのは、程度の差こそあれ、ほとんどの男性が経験するところなのかもしれません。
このタイミング指導の副作用を回避するには、タイミング指導についての大きな誤解を解く必要があります。
それは、タイミング指導とは、決められた日に"しか"セックスをしてはいけないという誤解です。
正しくは、決められた日"にも"セックスをしましょうということです。
タイミング指導の呪縛から解放されることで、副作用は簡単に治ってしまうことでしょう。
★タイミング法のタイミングは女性だけのタイミングではない
不妊治療の開始後の男性の性欲が低下したり、性的な不満感が募り、そして、セックスを避けてしまうようになるのは、セックスのタイミングを"女性のタイミング"だけを優先し、"男性のタイミングや都合"がさほど顧みられていないということも、あるのかもしれません。
そもそも、ほとんどの霊長類は、最も妊娠しやすいタイミングで交尾するもののようです。
つまり、発情したときが、排卵したときだからです。
反対に、妊娠の可能性がないときには発情せず、交尾もしません。
ところが、私たち人間は、動物に比べて、明確な発情があるわけではなく、反対に、妊娠の可能性のないときでも性交することもあります。
動物にはあり得ない、社会的、文化的な都合というものがあります。
だからこそ、医学的な観点から、妊娠しやすいタイミングを教えてもらうわけです。
ところが、同様に、男性にも、妊娠させやすいタイミングがあります。
それにもかかわらず、タイミング法でいうところのタイミングは、女性が妊娠しやすいタイミングに限られているようです。
男性にとっての妊娠させやすさを男性ホルモンの濃度とすると、実は、男性の男性ホルモンレベルは夜更けにはかなり低く、朝になるにしたがって上昇し、午前8時にピークになります。
男性であれば、誰でも心当たりがあることでしょう。
また、精子濃度という観点から言えば、1日にうちの変動が大きく、午後にピーク迎えます。
朝に比べると、1回の射精あたり3500万個多いとされています。
これは、精子をつくる働きの違いではなく、射精の際に精子を射出する神経や筋肉の働きによるものと、考えられているようです。
精子の質という観点から言えば、禁欲期間が短いほど、精子の質が高くなるとされています。
それは、禁欲期間が短いほど、精液中に新鮮な精子の割合が大きくなるから
です。
もう1つ、男性にとっての妊娠させやすいタイミングを知るうえで、ヒントになる研究報告があります。
2人の男性と1人の女性がからむポルノビデオをみた後のほうが、男性1人と女性1人のポルノをみた後にほうが、射精精液中の精子の運動性能が驚くほど高くなるというのです。
研究者は、この原因として、男性は精子間競争が激しくなるほど、よい多くの精子か、よい質の高い精子を射精するよういなるからと言います。
つまり、"やる気"がより妊娠させやすくするということでしょう。
★まんねりを打破する
さて、タイミング指導の誤解を解き、女性にとっても、男性にとっても、いいタイミングで性交したとしても、やはり、お互いに慣れ親しんだ関係になると、セックスの頻度そのものが少なくなってういくのは、不妊治療を受けているカップルであろうと、受けていないカップルであろうと、同じこと。
つまり、まんねりという壁は、どんな夫婦にも共通なことのようです。
ただし、これも、"やりよう"があることが、科学的に検証されています。
それは、触覚に訴えること、すなわち、パートナーの身体へのタッチです。
触覚はほかの感覚とは異なり、体全体に備わっていて、触覚は最も裏切らない感覚とされています。
そして、さわられ、ふれられる感覚は、私たちの幸福にもっともかけがえのない感覚なのだそうです。
身体に触れてもらう、マッサージしてもらうことで、ストレスホルモンのレベルが低下し、母性愛、異性への愛のホルモンであるオキシトシンが上昇し、心を落ち着かせ、心拍と血圧を下げるといいます。
つまり、質の高い性交の環境が整うというわけです。
また、充実した性生活のためには、バランスのとれた食生活や適度な運動が欠かせません。
過不足なく栄養を摂ること、全身の血流がよいことは、とても大切です。
あと、いろいろなサプリメントが出回っていますが、滋養強壮作用のある根野菜、マカの摂取は、性交回数を増やすこと、性欲を高めること、抗うつ作用のあること、そして、男性の精子の質をも高めることが確かめられています。
いかがでしょうか?
生き物の性行動で言えば、人間の場合、本能としての欲求以外に、さまざまな社会的な事情や都合が強く影響しているようです。
食生活同様、流れにまかせていれば、その質は、大変低くなってしまいます。
性生活にも、最適化する工夫やちょっとした努力が必要なのかもしれません。