不妊治療を受けるということは、ただでさえ、辛く、悲しい思いをしているところに、いつになったら、そして、どのようにすれば、授かることができるのか、なかなか見通しが立ちにくいという辛さがあります。
先が見えないトンネルにたとえられるゆえんでしょう。
だからこそ、"後悔のない進め方"が大切になってきます。
そのためには、情報が必要です。
ただし、情報はたくさんあればよいというわけではありませんね。
大切なことは"情報をどのように活用するのか"です。
そのために、3つのテーマで情報の活用を考えてみたいと思います。
1)"不安"とうまく付き合う
先が見えない限り、不安はつきものです。
ただ、不思議なもので、対象が漠然としていればいるほど、また、目をそらせばそらすほど、不安は大きくなりますが、対象が具体的になればなるほど、また、直視すればするほど、不安はちいさくなるようです。
敵の正体が見えない時は、とても恐ろしいものですが、正体が明らかになれば、戦い方も考えられるようになるものです。
たとえば、体外受精を受けると、先天性異常の子どもが多くなるなんて聞かされると、ちょと冷静ではいられません。
ところが、最新の研究報告によりますと、自然妊娠では先天性心疾患の子どもが生まれるのは0.4%なのが、体外受精や顕微授精になると1.1%になるとのこと。
それらの数字を具体的に知るとどうでしょう?
また、高齢出産になるとダウン症の子どもが多くなると言われますが、その確率は、25歳では0.08%、35歳では0.3%、そして、40歳を超えると1%だとされています。
1.1%や1%という確率が、高いと感じるか、低いと感じるかは、それぞれの受け止め方はあるでしょうが、不安から目を背け、漠然とした不安を抱え続けるよりは、不安の内容やサイズを具体的に把握することで、進むのか、避けるのかを判断し、もしも、進むのであれば、出来るだけリスクを小さくする工夫や努力をするほうが、よっぽど、前向きだと思います。
2)"現在地"を把握する
自分たちがどのあたりにいて、目指すところまでどれくらいなのかが分からないと、ペース配分のしようがありません。
ペース配分を間違うと、途中で息切れしたり、タイミングを逃してしまいかねません。
適切なペースで進むためには、おおまかな全体像と自分たちの位置をつかんでおく必要があります。
そのためには、治療方法別、年齢別の治療成績を知っておきたいものです。
これまで、日本産婦人科学会が発表していた統計では、体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療の全体の成績しか、知ることが出来ませんでした。
ところが、2007年のデータから、以下の内容が公開されるようになりました。
大きな、大きな、進歩ですね。
・年齢別治療総数
・年齢別治療成績
・年齢別移植胚数別妊娠率(移植あたり、新鮮胚移植)
・年齢別移植胚数別多胎率(移植あたり、新鮮胚移植)
・年齢別移植胚数・ステージ別妊娠率(移植あたり、新鮮胚移植)
・年齢別移植胚数・ステージ別多胎率(移植あたり、新鮮胚移植)
・年齢別データ
・刺激方法別分類
・刺激方法別妊娠率
・排卵誘発法別生産分娩率
妊娠率を参考にする際には、1回あたりの妊娠率だけでなく、累積妊娠率に換算することが大切です。
妊娠率が20%であれば、5回受けると妊娠できるかのようにイメージしてしまうかもしれませんが、何回受けても、それぞれの妊娠率は20%であり、20%の治療の5回の累計妊娠率は66%です。
つまり、妊娠率が20%の治療では、その治療を5回受けて妊娠に至るのは3組に1組ということになるのです。
また、クリニックや病院間の治療成績格差が気になるところですが、第28回日本受精着床学会では、治療実施数別の治療成績が発表されましたが、驚いたことに、大きな差は見られなかったとのこと。
それまで、漠然と、実施数が多い施設ほど、治療成績はよいのではないかと思っておりましたが、
それほどの差はないようです。
3)"正常か異常か"の判断は難しい
不妊検査に限らず、検査結果には基準値が必ず決められています。
往々にして、基準値をはずれると、"異常"の烙印を押されたように受け止めてしまいがちです。
ところが、ほとんどの検査では、少しくらい基準値からはずれていても、妊娠が望めなくなるというわけではありません。
血液検査はもちろんのこと、子宮卵管造影検査でさえ、両側卵管閉塞と診断されても、自然妊娠の可能性がゼロではありません。
つまり、何が正常で、何が異常なのか、正確な判断はとても難しいということです。
ですから、検査結果に一喜一憂するのも考えもので、1回の結果、1種類の検査だけで、決めつけてしまうと、判断を誤ってしまうこともあるということです。
人間の身体は機械ではなく、その時々で、常に、変化しているものです。
また、そもそも、基準値も、絶対的なものではなく、状況に応じて、変わることも珍しいことではありません。
たとえば、WHO(世界保健機構)による男性の精液検査の正常値は、これまでも何度も改訂されていて、精子濃度(1ミリリットルあたりの精子数)は、かつては、1億以上とされていたのが、1999年には、2000万以上に下げられ、また、2010年の最新マニュアル(第5版)では、1500万以上に引き下げられています。
いかがでしょうか?
3つの観点から情報の受け止め方について考えてみました。
ご参考になれば幸いです。