"何を"よりも"どのように"食べるかのほうが大事

2010年07月07日

私たちの身体は、私たちが、日々、食べているものからできています。

また、生命活動に必要とされるエネルギーは、私たちが、日々、食べているもののを燃料にして、食べているものを使って、つくっています。

そして、私たちの身体に備わったさまざまな働きを円滑に進めているのは、私たちが、日々、食べているものが、縁の下の力持ち的に関わっているからこそです。

もしも、質の悪いものしか食べない生活を続けていると、エネルギーがうまくつくれなくなってしまい、身体がうまく働かなくなってしまうのは、当然のことです。

このことは、年をとれば、とるほど、はっきりとしてきます。

妊娠すること、出産することも、全く、例外ではありません。ちゃんと食べてこそ、健全な妊娠や出産が可能になるわけです。

ですから、私たちの身体に本来的に備わっている"生殖"という機能がうまく働くためには、ちゃんと食べることが大切です。

★"ちゃんと食べる"というのはどういうこと?

さて、それでは、ちゃんと食べるというのは、いったい、どういうことなのでしょうか?

こう自問すると、「?」となってしまう人も少なくないのではないでしょうか?

ところで、『何を食べると、妊娠しやすくなりますか?』とか、『何を飲むと、妊娠できますか?』と尋ねらることがよくあります。本当によくあるご相談です。

答えは、「分からない」、もしくは、「食べれば妊娠しやすくなることが、科学的な方法によって確かめられた食べ物はない」ということになります。

そのような質問をされるお気持ちは、十分に理解できます。

ところが、そもそも、"食べ物"や"飲み物"を"お薬"のように考えるところに間違いがあるようです。

飲めば血圧が下がる"降圧剤"や飲めば痛みがやわらぐ"鎮痛剤"のような、そんな、食べれば妊娠する"妊娠食"や飲めば妊娠する"妊娠飲料"など存在しないのです。

つまり、ちゃんと食べるというのは、特定の食べ物を食べるということではないというわけです。

★地中海式ダイエット(食事法)という"食べ方"

それにもかかわらず、"食事法"については、いろいろ言われているようです。

たとえば、朝食は食べなければならないとする説もあれば、朝食は食べるべきではないと主張する人もいたりします。

食べ物はお薬ではないということは、即効性はないということです。

つまり、毎日の積み重ねが物を言うわけです。

ですから、今日はこれがいいと言っては、食べ、明日は、あれがいいと言っては、食べるようなスタイルは、ちょっと違うように思います。

ましてや、タイムリミットを意識すれば、尚更です。

少なくとも、最低限、科学的な根拠をよりどころに取り組みたいものです。

そんな観点で参考になるそうなのが、地中海式食事法です。

アメリカ生殖医学会誌に掲載された研究報告があります。

オランダのエラスムス大学の大学病院で、体外受精や顕微授精を受けている161組の夫婦を対象に、過去4週間に食べた食品とその摂取頻度を調べ、体外受精や顕微授精の治療成績と食生活に関連性が見いだせるかどうかを調べたというのです。

その結果、地中海地方に特有の食べ方をする傾向が最も高い夫婦は、体外受精や顕微授精の妊娠率が40%高かったというのです(※1)。

もちろん、年齢や不妊原因などの要因の影響を、統計学的に排除し、補正した結果とのこと。

実は、この地中海式食事法については、さまざまな研究がなされています。

それは、地中海沿岸諸国は、それほど医療や衛生環境が行き届いているわけでもないのにもかかわらず、長寿で、特に、心血管系の病気やガンの発症率が極端に低いことから、その食べ方が注目されたことがきっかけのようです。

たとえば、興味深いところでは、ギリシャで実施された調査研究では、妊娠中の食事内容が、地中海式食事法に忠実だった母親の子どもほど、小児ぜんそくやアトピーなどのアレルギーにかかりにくいことが、確かめられています(※2)。

★何をどう食べるべきか

さて、それらの研究報告の際に、調べているのは、"何を食べたのか"ということではなく、普段の食生活の地中海式食事度、つまり、地中海式食事法への"忠実度"なのです。

まさに、「何を食べたか」というよりも、「何をどのように食べたか」ということになります。

それでは、他の条件を同じにした場合、体外受精や顕微授精の治療成績に差がついた"地中海地方に特徴的な食べ方"を7つにまとめてみます。

1)質のよいオリーブオイルを使っている。

主たる脂肪源として、オリーブオイルをふんだんに使います。オリーブオイルの特徴は、他の植物油は種を搾っているのに対して、オリーブオイルは果実を搾ったジュースであること。酸化しにくいオレイン酸が主成分です。

2)セモリナ粉を使ったパスタを使っている。

100%セモリナ粉、すなわち、未精製の穀物ということです。精製することで捨ててしまう食物繊維やビタミン、ミネラルなどの微量栄養素が豊富に含まれていて、食べた後の血糖値の上昇がとてもゆるやかです。

3)毎日、季節の野菜や果物、ハーブ、豆を豊富に食べる。

旬の新鮮な野菜、果物をたくさん食べます。また、キノコや豆類も、常用します。

4)毎日、チーズやヨーグルトを少量食べる。

チーズは、乳脂肪の比較的低いモッツァレラ、リコッタを食べます。

5)魚介類を、週に数回、食べる。

いわしやさば、さんま、あじなどの青魚、いかやたこをオリーブオイルで調理します。

6)肉は、月に数回、赤身を少しだけ食べる。

たまに、仔牛や仔羊、牛、豚の脂肪の少ない肉を網焼きで食べます。

7)食事の際にはワインを適量飲む。

★その地方の伝統的な食べ方がベスト

地中海地方に特有の食べ方に忠実な食生活をおくっている夫婦ほど、体外受精や顕微授精の成績がよかったということは、地中海式食事法に、質のよい卵子や精子を育む体内環境や着床環境をよくするエッセンスが隠されているということでしょう。

また、同様に子どもの健康にも深くかかわっているはずです。

であれば、地中海式食事法のエッセンスを取り入れない手はありません。

ところが、かの地中海沿岸諸国でも、ファーストフードの文化が浸透し、若い人たちは、もはや、地中海式食事法から離れていっているとのこと。

そして、地中海式食事法から離れていくことに従って、さまざまな生活習慣病の発症率が高まっているというのです。

つまり、地中海式食事法を意識しつつも、私たちにとって大切なのは、結局は、日本の伝統食に忠実な食生活をおくるということではないでしょうか。

精製度の低い米(玄米や分搗き米)を主食に、魚や大豆食品を中心に、旬の野菜や豆を食べる和食です。

★食事法は、生活法

いかがでしょうか?

食事は日常生活に密着しています。そういう意味では、食事法とは、生活法です。

伝統的な地中海地方では、おしゃべりも楽しみながら、ゆっくりと時間をかけて、食べて、飲むようです。

そして、くよくよせずに、明るく、生活し、家族を大切にするというような価値観も健康に寄与しているのかもしれませんね。

[文献]

※1)The preconception Mediterranean dietary pattern in couples undergoing in vitro fertilization/    intracytoplasmic sperm injection treatment increases the chance of pregnancy
Fertility and Sterility

※2)Mediterranean diet in pregnancy is protective for wheeze andatopy in chldhood
Thorax (63)507-513 2008