体外受精を受けて我が子を抱ける可能性はどれくらいなのか

2009年01月18日

不妊治療を受けていて、悩ましいことはいろいろあると思うのですが、ステップアップするかどうか、
そして、1つの治療をどれくらい繰り返すかについて、この2つは、割と共通するのではないかと思います。

どんなことをするのか、すなわち、治療内容、また、どれくらいのお金がかかるのか、すなわち、治療費については、それぞれの病院によって、多少の違いがありますが、明確です。

ところが、それでは、その治療を受けて、我が子を抱いて家に帰れる可能性は、どれくらいなのか、
すなわち、治療成績というものなのですが、これが意外にもよく分からないところではないでしょうか?

実は、アメリカのボストンIVFという、大型の不妊専門病院の体外受精の治療成績が、1月15日に権威ある医学専門誌に掲載されたのですが、アメリカの各マスコミが、こぞって、そのことを取り上げています。

体外受精の治療成績の算出方法について、これまでになく、治療を受ける側に立っているというのです。

つまり、体外受精を受けることで、我が子を抱いて家に帰れる可能性がどくらいなのか、この観点で、治療成績を算出したというわけです。そこで、これは妊カラ読者の方々に解説せねば、ということで、
トピックとしてご紹介します。

★体外受精を受けて我が子を抱ける可能性はどれくらいなのか

~ボストンIVFの体外受精治療成績から~

まずは、医学専門誌に掲載された報告の概略をご紹介しましょう。

◎体外受精6周期後の年齢層別累積出産率

アメリカの大型不妊専門病院ボストンIVFで、2000年から2005年に、体外受精を受けた6164組のカップルの、治療中止、または、子どもの出産まで追跡し、14248周期の治療における6周期後の累積出産率を、楽観的数値と控え目な数値の幅をもたせて算出しています。

楽観的な数値とは、通院をやめたカップルも、継続したカップルと同じ確率で出産に至ったと仮定した場合の数値で、控え目な数ととは、通院をやめたカップルは、その後、子どもを出産しなかったと仮定した数値です。

その結果、体外受精を6周期受けて、お子さんを出産する確率は、楽観的には、72%、控え目には、51%だったとのこと。

年齢層別にみると、女性が34歳以下のカップルでは、楽観的、控え目、それぞれ、86%、65%で、
女性が40歳以上になると、それぞれ、42%、24%でした。

◎治療を受ける側にとっての治療の成功とは?

ボストンIVFは、全米最大の不妊専門病院として知られていて、ハーバード大学の教育病院でもあり、この病院の医師は、ハーバード大学医学部の先生でもあります。

さて、今回の報告のポイントの一つ目は、"妊娠率"ではなく、"出産率"を出しているところです。普通、治療成績というと、妊娠数から妊娠率を算出しています。ところが、治療を受ける側からすれば、妊娠が成立しても、出産に至らなければ意味がないわけです。

つまり、治療の成功とは、妊娠することではなく、元気な我が子を抱いて家に帰ることなわけです。であれば、患者の立場に立った治療成績とは、妊娠率ではなく、出産率ということになりますね。

また、妊娠率は、何をもって(どの時点をもって)、妊娠とするのか、施設によって、基準が異なる場合も多々ありますが、出産であれば、明解です。

◎治療を受ける側にとっての確率とは?

もう1つのポイント。それは、その出産率を、周期あたりではなく、6周期後の累計の確率として算出したところです。周期あたりの確率というのは、治療を受ける側にすれば、解釈しづらいものです。

つまり、周期あたり、だいたい30%成功します!なんて言われても、治療を受ける側に立てば、結果は、ゼロか、100しかないわけですからね。

ですから、周期あたりの確率なんて、どうでもいいと言っても、決して、過言ではないわけです。

ところが、6周期後の累計出産率を言われると、体外受精を受けて、我が子を抱ける可能性として、捉えられます。これだと、分かりやすいというか、まさに、これから、お金もリスクもある治療を、自分たちの望みを託して、頑張ってみようとする者にとって、一番の関心事ではないでしょうか?

◎30代前半までであれば治療効果は絶大

それでは、報告内容をみてみることにしましょう。

母親になる女性が34歳以下であれば、体外受精を6周期受けて、お子さんを出産できる確率は、65%~86%の間くらいと思っておけばよいでしょうか。この数字は、何を意味するのでしょうか?世間一般の夫婦の確率に近いんですね。つまり、不妊症ではない夫婦が、自然妊娠で妊娠、出産する確率だということです。

このことは、不妊症と診断された夫婦の不妊原因を、体外受精によって、ほぼ、取り除かれたということでしょう。具体的には、精子と卵子がうまく出会えていないという不妊原因ですね。

いかがでしょうか?30代前半までであれば、体外受精をもってすれば、ほとんどの不妊症は治療可能であると考えてよいかもしれません。体外受精の治療効果は絶大なり、ですね。ただし、体外受精を受けさえすればよいということでは、決してありません。あくまで、6周期の治療を繰り返せばという、前提条件を忘れてはなりません。

◎年齢要因は治療が難しい

女性の年齢が40歳以上になるとどうでしょう。

母親になる女性が40歳以上であれば、体外受精を6周期受けて、お子さんを出産できる確率は、23%~42%の間くらいです。この数字も、実は、世間一般の傾向に近いものがあります。

年齢の上昇に伴う妊孕性の低下度合いにリンクしているということです。

このことが意味するものは明らかです。つまりは、体外受精をもってしても、年齢による不妊要因を治療することは不可能だということに他なりません。

体外受精や顕微授精という高度な生殖医療は、あくまでも、卵子と精子を、確実に出あわせるということ。つまり、女性の卵管の輸送機能やピックアップ機能の障害、或いは、男性の精子の卵子まで到達する運動能力や受精能力の低下への治療、そういうことになりますね。

年齢に伴って、女性の卵子の質が低下してしまうことに対して、医学的に確実な方法は、若い女性から卵子の提供を受けることだけです。

あくまでも、体外受精や顕微授精の役割は、精子と卵子を確実に出あわせることだけです。

◎状況を正しく認識し、後悔のない選択を心がける

患者側の立場に立った治療成績というのは、ある意味で、患者にとって耳の痛い内容であるかもしれません。いや、耳だけでなく、心の痛む内容でしょう。

だからといって、体外受精の治療効果を過大に評価して、年齢が高くなっても、治療さえ受ければ、
まるで、誰でも子どもがもてるかのように誤って認識するのは、後々、もっと心や身体が痛む結果を招いてしまいかねません。

大切なことは、正しく認識し、悲観することなく、自分たちにとってベストと考えられる、つまり、後悔しない選択をすることではないでしょうか?