人工授精は何回まで続けるべきか?

2008年02月17日

人工授精は何回まで続けるべきなのかについては、私たちのところにも、よくある相談テーマの一つです。

それは、言い換えれば、どの時点で体外受精にステップアップすればよいものなのかということでもあります。とても重要なテーマであるにもかかわらず、いや、重要なテーマだからこそかもしれません、施設や医師によっても考えが異なることが少なくありません。

また、昨今の体外受精や顕微授精等の高度な生殖医療の普及に伴って、人工授精という治療ステップの有用性が、ともすれば、見過ごされがちな傾向も感じられたりします。

ところが、人工授精をある程度の回数繰り返すことは適切な治療方針であり、少なくとも9回まで続けることを反対する理論的根拠はないという、オランダの医師グループによる複数の施設の大規模な研究結果が報告されています。 その内容は以下の通りです。

男性や頸管粘液要因、そして、原因不明の不妊患者、3714組を対象として、9回までの累計15303周期の人工授精の成績を分析しましたところ、周期あたりの平均妊娠率は5.6%でした。

そして、回数別の妊娠率は、7回目で5.1%、8回目で6.7%、そして、9回目で4.6%でした。また、継続妊娠率では、3回では18%、7回では30%、9回では41%でした。

尚、全周期の70%に排卵誘発剤による過排卵を実施したとのこと。

人工授精を回数繰り返しても妊娠率はそれほど低下しない

通常、人工授精は5、6回繰り返しても妊娠しなければ、体外受精にステップアップするように勧められることが多いようです。それは、人工授精の場合、5、6回目以降は妊娠率が低下すると考えられていたからです。

ところが、今回の報告では7回目以降も、それほど、妊娠率が低下しないことが分かりました。

継続妊娠率でみてみると

妊娠率からみると、人工授精のそれは、体外受精に比べて、低くみられています。

ただし、妊娠に至らない最大の原因は、単なる"巡りあわせ"ですから、治療の有用性を検討する場合、周期あたりの妊娠率よりも継続妊娠率をみることが大切です。

今回の報告では、人工授精の周期あたりの妊娠率は5.6%ですが、継続妊娠率では、7回で30%、9回で41%となっています。

人工授精という治療ステップを見直すべき

これまで人工授精を5回程度繰り返しても妊娠しなければ、体外受精ににステップアップするのが得策であると言われているようです。

ところが、それは、人工授精について、たくさんの回数を繰り返し実施した臨床データが乏しかっただけのことのようです。

実際に、実施してみると、これまで考えられたほどには、妊娠率が低下しないことや継続妊娠率は高くなることが分かりました。

因みに、梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳先生によりますと、梅ヶ丘産婦人科でのデータでは、人工授精の妊娠率は14回目までは大きく低下しないとのことです。

もちろん、不妊治療の目的は妊娠することですから、人工授精でもクリアできない不妊の原因が隠れている可能性もあるわけですから、適切なタイミングでステップアップを検討することは大切なことではあります。

ただし、どうしても、今すぐ体外受精にステップアップすることに気が進まない、または、体外受精までの治療を受けることを望まない、さらには、経済的な理由で体外受精は受けないというご夫婦にとっては、人工授精という治療方法の有用性について、もっと見直してもよいのではないかと思います。