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VOL.1155 妊娠期間を通した葉酸サプリメント摂取の有用性

2025年08月24日

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 妊娠しやすいカラダづくり No.1155                2025/8/24
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今週の内容__________________________________________________________

・トピックス:妊娠期間を通した葉酸サプリメント摂取の有用性
・編集後記


トピックス Aug, 2025_______________________________________________

妊娠期間を通した葉酸サプリメント摂取の有用性
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妊娠前から妊娠初期迄、葉酸サプリメントを摂取することで出生児の二分脊椎等の神経管閉鎖障害のリスクが70%も低くなることはよく知られています。

その一方、妊娠中期以降も継続し、すべての妊娠期間を通して葉酸サプリメントを摂取することで、出生児の脳の発育に良好な影響を及ぼしたり、川崎病の発症リスクが低くなったり、さらには産後うつのリスクの低下につながる可能性があることがわかっています。

葉酸はビタミンB群に属する水溶性ビタミンで、アミノ酸やたんぱく質など、私たちの身体にとって重要な物質の合成に関与していて、DNAの合成や細胞の増殖に必須です。

妊娠期は、胎児にとっても、母親になる女性にとっても、細胞分裂が最も活発に行われるので、妊娠前から葉酸の必要量が跳ね上がります。

そのため、厚労省は妊娠を計画している女性は葉酸のサプリメントを摂取することを推奨しています。

子どもの神経管閉鎖障害などの先天異常の予防を目的としていますので、神経管が出来上がる妊娠3ヶ月までとしています。

ところが、妊娠中期からは胎盤の血管形成や機能維持に、妊 娠後期からは胎児の脳・神経発達に、そして、出産に向 けて母体の健康維持に寄与することが知られています。

◎脳の発育や精神疾患の発症リスク
アメリカでは1996年に1998年までに全ての食品メーカーは穀物への葉酸添加を法律で義務づけています。

妊娠前の女性が葉酸を不足しないように主食に葉酸を添加し、全国民に強制的に葉酸を摂取させているのですが、このような国は世界で100カ国弱あります。

既に20年以上になりますが二分脊椎症などの神経管閉鎖障害の発症数がこの法律の施行後に劇的に減少したことが検証されています。

因みに、日本では厚労省が妊娠前の女性に葉酸補充を推奨していますが補充するかどうかは個人のまかせているために穀物に添加しているような国と比べると先天異常の発症率は高くなっています。

さて、研究では、妊娠中の葉酸摂取が出生児の脳の発育に影響するのかどうかを調べるべく、3つのグループの子どもを対象に研究を実施しています(1)。

ハーバード大学医学部の関連病院であるマサチューセッツ総合病院で、生まれた子ども292名。そして、フィラデルフィア神経発達コホート研究(PNC)に参加した子ども861名、もう1つ、脳の発達のためのNIH(アメリカ国立衛生研究所)MRI画像研究(NIH)に参加した子ども217名です。

共通しているのは、全員、なんらかの理由で脳のMRI検査を受けていることです。

そして、子どもを出生時期で3つのグループ、1つは葉酸添加の法律が公布される前(1996年以前)の葉酸非摂取群、もう1つは法律の公布と施行の間(1996年から1998年)の葉酸部分的摂取群、そして、法律の施行後(1998年以後)の葉酸摂取群にわけ、同年齢の子どもの脳の発育状況をグループ間で比較しました。

その結果は驚くべきものです。

マサチューセッツ総合病院出生児では両側前頭葉、側頭葉の大脳皮質の厚みが葉酸摂取群で厚く、脳の成熟度が高かったことがわかりました。また、PNCやNIHの子どもでも葉酸摂取群のほうが脳の成熟度が高く、精神疾患の発症リスクが低かったというのです。

このことから、妊娠前から妊娠中に葉酸が添加された穀物を食べることで出生児の脳の発育や成熟が良好になり、精神疾患の発症リスクが低くなることが示唆されました。

◎出生児の自閉スペクトラム症リスク
イスラエルの研究では、妊娠全期間の葉酸サプリメント摂取で出生児の自閉症発症リスクが低くなるという報告がなされています(2)。

イスラエル・ハイファ大学を中心とするグループによる 2003 年~ 2007 年までの間に出生したイスラエルの乳 幼児 45,300 人を対象にした研究です。

母親の妊娠前および妊娠中の葉酸やマルチビタミンミネ ラルサプリメントの摂取と、出生児の自閉スペクトラム症発症リスクとの関連を調査されました。

その結果、妊娠前および妊娠中に葉酸およびマルチビタ ミンサプリメントを摂取していた母親は、そうではない母 親に比べて出生児の ASD 発症リスクが有意に低かったとのことです。

妊娠中も葉酸サプリメントを継続することで子どもの自閉スペクトラム発症のリスク低下に関連するという報告は多くなされています。

◎出生児の川崎病発症リスク
母親が妊娠中に葉酸サプリメントを摂取することによって 生まれてくる子どもの川崎病の発症リスクを低下させる可能性があるという報告がなされています(3)。

環境省の「エコチル調査」のデータを 使用し、87,802 人の母子ペアを分析対象とした研究で、 妊娠中の母親の血清葉酸濃度、妊娠中のサプリメント摂取頻度と生まれた子どもの生後12ヶ月までの川崎病発症との関連について解析しています。

その結果、葉酸サプリメントを摂取していた母親の子ども は川崎病の発症率が低く、特に中期および後期に週 1 回以上葉酸サプリメントを摂取していた母親の子どもの川崎病の発症率は 0.30%(31,275 人中 94 人)であり、 摂取していなかった母親の子どもの 0.43%(56,427 人 中 242 人)と比較して有意に低かったとのことです。

◎産後うつの発症リスク低下
最後に妊娠中の葉酸の継続的な使用は、周産期抑うつ症状の発 生率を低下させる可能性があるこという報告です(4)。

中国の安徽医科大学のグループは、妊娠中の葉酸サプリメント摂取や血中葉酸濃度と産後うつ症状の発症率との関係を調査すべく、過去に実施された15 件の研究(総被験者数 26,275 名)に結果を統合し、解析しています。

その結果、妊娠中に 葉酸サプリメントを摂取していた妊婦のほうがうつリスクが有意に低く、血中の葉酸濃度が高いほどうつ症状が少ないということが確かめられました。

妊娠期間を通して継続的に葉酸を摂取することで、産後うつの発生率が低下する可能性が示唆されました。

◎妊娠後の葉酸の摂取量について
厚労省の食事摂取基準では、通常時の推奨量は240μgで、妊娠計画開始から妊娠3か月まではサプリメントで1日400μgの補充が推奨されています。

妊娠後期の葉酸サプリメント過剰摂取は出生児のアレルギーの発症リスク上昇に関連するという研究報告(5)がいくつかなされています。

そのため、継続する場合でも、厚労省が設定している食事以外のサプリメント摂取の上限量である1000μgを超えないように注意する必要がありますが、妊娠判明後は400μgが推奨されます。
◎文献
1)JAMA Psychiatry. 2018; 75: 918
2)JAMA Psychiatry. 2018; 75: 176
3)JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2349942
4)J Affect Disord. 2022; 302: 258
5)Am J Epidemiol. 2009; 170: 1486.

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編集後記____________________________________________________________

葉酸サプリメントは、妊娠前からはじめて、妊娠後も継続し、出産まで摂取することが推奨されます。

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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行]     VOL.1156
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編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
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