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妊娠しやすいカラダづくり No.1150 2025/7/13
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今週の内容__________________________________________________________
・最新ニュース解説:食習慣は膣内細菌叢に影響する
・編集後記
最新ニュース解説 Jul, 2025__________________________________________
食習慣は膣内細菌叢に影響する
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赤身肉や加工肉由来の動物性タンパク質を多く食べること、アルコールを飲みすぎることは、膣内細菌叢にはマイナスな影響を及ぼし、反対にオメガ3脂肪酸のα-リノレン酸を多く摂取することは膣内細菌叢に有益な影響を及ぼすことが、イタリアで実施された横断研究で示され、食習慣が良好な膣内細菌叢の維持に重要であることがわかりました(1)。
膣内細菌叢が不良、すなわち、主にラクトバチルス属が少なくなり、膣内環境が悪化すると、細菌性膣症にかかりやすくなるだけでなく、着床環境の低下を介して妊娠しづらくなったり、妊娠後に早産や流産のリスクが上昇したりすることがわかっています。
これまでの研究で、ホルモンレベルやストレス、喫煙、性行為習慣や抗生物質の使用、尿路感染症、性感染症が、膣内細菌叢の組成に影響することが明らかになっています。
その一方で、食習慣の影響も言及されていますが、特定の栄養素が関連するという報告はなされていましたが、食習慣全体の影響については、それほど調べられていませんでした。
◎どんな研究だったのか?
イタリアのボローニャ大学の研究チームは、113名の生殖年齢にある健常女性を対象に、遺伝子検査により膣内細菌叢を解析し、膣内細菌の組成をCST(Community State Type)で分類し、さらに3つのカテゴリにわけました。
また、膣内代謝物も調べました。
そして、食習慣については、食物摂取頻度調査票を用いて摂取エネルギーや栄養素、アルコール摂取量を評価し、食習慣と膣内細菌叢の関連を調べました。
尚、CSTによる分類とは以下の通りです。
1)CST-I/優勢菌はラクトバチルスクリスパタスで、最も健康とされるパターンで、pHが低く(約4.0以下)、病原菌の侵入に強いカテゴリーです。
2)CST-II/優勢菌はラクトバチルスガセリで、pH低下作用があり比較的安定しているカテゴリーです。
3)CST-III/優勢菌はラクトバチルスイナースで、不安定な組成とされ、病原菌優勢への移行が起こりやすいカテゴリーです。
4)CST-V/優勢菌はラクトバチルスジェンセ二で、比較的安定で健康なカテゴリーです。
5)CST-IV/ラクトバチルスが少なく、代わりに嫌気性菌(Gardnerella, Atopobium, Prevotella, Mobiluncusなど)が多く、細菌性膣症(BV)や性感染症、早産リスクと関連するカテゴリーです。
◎どんな結果だったのか?
動物性タンパク質(主に赤肉と加工肉由来)摂取量の増加は、CST IVの細菌叢不良の状態と正の関連を示すことが明らかになりました。
同様に、アルコール摂取量はGardnerella属とUreaplasma属のレベルと有意に関連しました。
一方、オメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸の増加はCST III(Lactobacillus iners優占)と逆相関し、有益な影響が示されました。
さらに、リノレン酸はLactobacillus crispatus豊富と関連し、これらは4-ヒドロキシフェニル乳酸や複数のアミノ酸などの膣内代謝物と関連し、総炭水化物、植物性タンパク質、総食物繊維、およびデンプンは、Gardnerella属と負の相関が示されました。
これらのことから、特定の食習慣、例えば、アルコールと動物性タンパク質の摂取量減少、リノレン酸の摂取量増加が、主に膣内細菌叢を良好に保つLactobacillus属の優勢を通じて、膣内環境に有益な影響を与えることがわかりました。
◎食〜腸〜膣〜子宮
脳腸相関という概念があります。
脳と腸は互いに影響し合う関係であり、脳の状態が腸に影響を与え、逆に腸の状態も脳に影響を与えるという関係にあるという概念です。
自律神経系やホルモン、神経伝達物質、免疫などを介して情報が伝達され、健康維持に重要な役割を果たしていると考えられています。
今回の研究結果は、食習慣と膣内細菌叢と、一見、直接、繋がっていないように思える両者が実がつながっていることを示しています。
このことは、これまでも提唱されていた概念で、消化管と膣の相互作用、いわゆる「膣-腸軸」を証明するものです。
膣-腸相関とは、健康的な食事は、細菌の移行を通じて膣と腸管間の細菌種の移動を調節し、これにより微生物叢が産生する代謝物の量と種類を調整することで、膣-腸軸の間接的な役割を果たす可能性があルというものです。
◎バランスよく食べることに尽きる
今回の研究では、赤身肉や加工肉を少なく、オメガ3脂肪酸を多く、そして、アルコールを飲み過ぎないことが膣内細菌叢に重要であることがわかりました。
このような食べ方は、これまでも地中海食に代表される食事パターンで推奨されてきました。
また、最近の研究で食事からのファイトケミカルを多く摂取する女性ほど細菌性膣症にかかりにくいという研究報告がなされています(2)。
ファイトケミカル(phytochemical)とは、ファイト(phyto)を意味する植物とケミカルを意味する化学が合わさった、「植物性化学成分」のことで、紫外線や昆虫など、植物にとって有害なものから自らを守るために作りだされた成分です。
ファイトケミカルにはポリフェノール、カロテノイド、含硫化物があり、これまで数千種類の成分が発見されています。主な働きとして、抗酸化作用や抗菌作用などが知られています。
主に、植物の苦み、渋み、辛みや色素などに関与する成分ですので、色が鮮やかだったり、独特の風味を持っていたりする野菜、果物、豆類、芋類、海藻、お茶やハーブなどです。
よく知られているものは、ポリフェノールやカロテノイド、含硫化合物があります。
ポリフェノールには、ブルーベリーやブドウなどに含まれるアントシアニン類、コーヒーに含まれるクロロゲン酸、大豆に含まれるイソフラボン類、セロリやパセリ、ピーマンに含まれるフラボン類、緑茶に含まれるカテキン類、果実類やカカオに含まれるフラバノール類、ブロッコリーやタマネギに含まれるフラボノール類、柑橘類の果皮に含まれるフラバノン類などがあります。
このように、まずは、加工肉や赤身肉など少なく、魚を多く、さまざまな野菜や果物を食べる、そして、アルコールは控えめにすることで、腸内や膣内の良好な環境を維持することがポイントになります。
文献)
1)Front Cell Infect Microbiol . 2025; 15: 1582283
2)J Health Popul Nutr 2024; 43: 135
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編集後記____________________________________________________________
生殖器官内の細菌叢を良好に保つという観点からもバランスのよい食生活が重要ですね。
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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.1150
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