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VOL.1093 妊娠中の食事パターンと出生児の神経発達の関係

2024年06月09日

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 妊娠しやすいカラダづくり No.1093               2024/6/9
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今週の内容__________________________________________________________

・最新ニュース解説:妊娠中の食事パターンと出生児の神経発達の関係
・お知らせ:研究参加者募集:あなたの有機フッ素化合物(PFAS)汚染を調べませんか?
・編集後記


最新ニュース解説 Jun. 2024_________________________________________

 妊娠中の食事パターンと出生児の神経発達の関係
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妊娠期間を通じて、タンパク質と微量栄養素をバランスよく摂取し、十分な鉄分を摂取することは、子どもの神経発達に良好な影響を及ぼす可能性のあることが、中国国家出生コホート研究で明らかになりました(1)。

妊娠中の母親の食事が胎児の神経発達に影響を及ぼすことは、これまで多くの研究報告がなされてます。

ところが、それらの研究では、特定の栄養素や食品の摂取頻度や摂取量を評価したものです。

実際、私たちは、単一の栄養素や食品を食べているわけではなく、食事ではさまざまな食品を食べ、さまざまな栄養素を摂取しています。

そのため、単一の栄養素や食品の摂取頻度や摂取量を評価しても、それをどれだけ参考にし、取り入れることが出来るのかという観点から言えば、現実的ではなく、あまり意味がありません。

そこで、最近の栄養疫学研究では食事パターンを評価しています。

要するにどんな食べ方をすると、健康にどのような影響を及ぼすのかという研究です。

◎どんな研究だったのか?
2017年5月から2018年9月までに中国安徽省の馬鞍山母子保健センターで初回妊婦健診を受診した1423名の女性(18歳以上で自然妊娠)とその出生児を対象としています。

妊娠初期と妊娠中期、妊娠後期の3回、食物摂取頻度調査票を用いて食事調査を実施し、妊娠期間中の母親の5つ食事パターン(タンパク質や微量栄養素が豊富な食事パターン、低鉄分の食事パターン、主食としてのパスタの食事パターン、鉄分が豊富な食事パターン、塊茎や果物、焼き食品の食事パターンを特定しました。

そして、3つの期間すべてに存在する食事パターンについて、出生児の生後36ヵ月時点での神経発達との関係を調べました。

出生児の神経発達は、Ages and Stages Questionnaire・第3版(ASQ-3)という質問票を使っています。

ASQとは、コミュニケーション、粗大運動(腕や足などの大きな筋肉を使う動き)、微細運動(手指の細かい動き)、問題解決(手順を考えて行動するなど)、個人と社会(他人とのやり取りに関する行動等)の5つの領域について、両親の回答をもとに子どもの発達をスコア化し、評価する質問票です。

◎どんな結果だったのか?
妊娠中に高タンパクで微量栄養素を多く含む食事パターンの母親の子どもは、粗大運動や問題解決のスコアが高く、神経発達が良好であったことがわかりました。

また、低鉄分の食事パターンの母親から生まれた子どもは、神経発達が不良であることもわかりました。

妊娠段階別にみると、妊娠初期に低鉄分の食事パターンだった母親から生まれた子どもは問題解決スコアが低く、妊娠中期と後期に低鉄分の食事パターンだった母親から生まれた子どもは粗大運動スコアが低いことがわかりました。

また、妊娠後期に低鉄分の食事パターンだった母親を持つ子どもは、コミュニケーションスコアが低いこともわかりました。

◎妊娠する前から食生活を意識すべき
今回の研究は、妊娠中の食事パターンと出生児の3歳時点での神経発達の関係を調査したものです。

それでは、妊娠が判明してから食生活を改善すればよいのでしょうか?

それでもよいのかもしれませんが、実際、妊娠する前から食事バランスに配慮し、タンパク質をしっかり食べ、微量栄養素を不足しないように気をつけるほうがベターです。

食事パターンは妊娠前、妊娠中では変わらないという研究報告があるからです。

イギリスの研究(2)で、妊娠前の食事の状況と妊娠初期の食事の状況、妊娠後期の食事の状況を調べ、それらの食事パターンを比較しています。

その結果、妊娠初期や後期に健康的な食事をしている人は、だいたい、妊娠前に健康的な食事をしていることがわかったとのこと。

反対に、妊娠前に高カロリー食の人は妊娠初期も妊娠後期も、同じような食事をしている傾向が強くみられたというのです。

結局、妊娠前の食生活は妊娠後もほとんど変わらないということが、この研究だけでなく、複数の研究から示されています。

そのため、妊娠前から健康的な食事をするということは、その後の妊娠生活を左右するということ言えると思います。

◎妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
厚生労働省は2006年に作成した「妊産婦のための食生活指針」を2021年に「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~」に変更しました。

このことは、妊娠前から取り組むことが重要であることを物語っています。

その内容は以下の通りです。

食べ方については、バランスよく食べることに尽きます。そのための4項目と葉酸について示されています。

・「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと
炭水化物の供給源であるごはんやパン、めん類などを主材料とする料理を主食といいます。妊娠中、授乳中には必要なエネ ルギーも増加するため、炭水化物の豊富な主食をしっかり摂りましょう。

・不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと
各種ビタミン、ミネラルおよび食物繊維の供給源となる野菜、いも、豆類(大豆を除く)、きのこ、海藻などを主材料とす る料理を副菜といいます。妊娠前から、野菜をたっぷり使った副菜でビタミン・ミネラルを摂る習慣を身につけましょう。

・「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に
たんぱく質は、からだの構成に必要な栄養素です。主要なたんぱく質の供給源の肉、魚、卵、大豆および大豆製品などを主材料とする料理を主菜といいます。多様な主菜を組み合わせて、たんぱく質を十分に摂取するようにしましょう。

・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に
日本人女性のカルシウム摂取量は不足しがちであるため、妊娠前から乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などで カルシウムを摂るよう心がけましょう。

※葉酸について
妊娠前から妊娠初期にかけて、葉酸というビタミンをしっかりとることで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防につ ながります。神経管閉鎖障害とは、胎児の神経管ができる時(受胎後およそ28日)に起こる先天異常で、無脳症・ 二分脊椎・髄膜瘤などがあります。妊娠を知るのは神経管ができる時期よりも遅いため、妊娠を希望する女性は緑 黄色野菜を積極的に摂取し、サプリメントも上手に活用しながら、しっかり葉酸を摂取しましょう。

以上です。

参考文献
1)Nutrients 2024; 16: 1530.
2)J Nutr. 2009; 139: 1956-

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記事についての感想やご意見は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


お知らせ__________________________________________________________

   研究参加者募集:あなたの有機フッ素化合物(PFAS)汚染を調べませんか?
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東京都調布市にあるウィメンズクリニック神野では、京都大学との共同研究「体内PFAS (有機フッ素化合物) 濃度と生殖補助医療成績との関連に関する研究」に参加いただける方を募集しています。

PFASとは有機フッ素化合物の総称で、撥水剤や消火剤、コーティング剤等に用いられていて、環境中で分解されにくく、蓄積性が高い物質であることから、水道水や井戸水などから体内に摂取されていると考えられています。

最近、PFASによる地下水汚染が日本全国で徐々に明らかとなってきており、東京都多摩地域もPFAS汚染が示され、 さらに多摩地域住民の血漿中PFAS濃度が高いことも示されました。

PFASの体内蓄積は、妊孕性低下との関連も示されています。

そこで、高度生殖補助医療を受けられる患者さんを対象に血液や卵胞液中のPFAS濃度を測定し、治療成績との関連を調査する研究がはじめられることになり、参加される方を募集します。

詳細は以下をご覧ください。
https://www.akanbou.com/PFAS_study.pdf


編集後記____________________________________________________________

食育は、生まれてからではなく、生まれる前から始まっているのですね。

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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行]     VOL.1093
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:https://partner-s.info/
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・合計部数: 3,564部(6月9日現在)
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