メルマガ

VOL.614 栄養と妊娠力

2015年03月22日

____________________________________________________________________

 妊娠しやすいカラダづくり No.614 2015/3/22
____________________________________________________________________


今週の内容__________________________________________________________

・更新情報
・ドクターに訊く:栄養と妊娠力
・私たちが運営するサイト
・編集後記


更新情報____________________________________________________________

サイト版「妊娠しやすいカラダづくり」の更新情報です。
--------------------------------------------------------------------
2015年3月16日 最新ニュース
勤務形態や肉体的にきつい仕事と月経の関係
http://www.akanbou.com/news/news.2015031601.html
--------------------------------------------------------------------
記事についてのご質問は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


ドクターに訊く Mar.2015_____________________________________________

 栄養と妊娠力
--------------------------------------------------------------------
ドクターに訊く、今回のテーマは「栄養と妊娠力」です。

現代の日本は「飽食の時代」と言われています。ところが、それは食べ物の
「量」が多いということであって、厚労省の国民栄養・健康調査などをみる
と、個人、特に若い女性にとっての栄養的な充足に繋がっているとは言えま
せん。多くの選択肢の中で、正しい食べ方がなされていないということが窺
えます。

ところが、妊娠、出産に際しては、妊娠前からの栄養状態が、「妊娠しやす
さ」や「妊娠、出産時のリスク」に影響を及ぼすだけでなく、出生児の成人
後の体質にまで影響を及ぼすことが多くの研究でわかってきました。

そのため、お子さんを望む女性、将来、母親になる女性にとって妊娠や出産
にふさわしい食生活をはじめとするライフスタイルを意識することが、ます
ます、大切になってきます。

その際に、「なにをどのように食べるべきか」について、拠り所にすべき研
究報告が、年々、増えてはいますが、そのほとんどはアメリカやヨーロッパ
からのもので、日本では栄養と生殖についての疫学研究や臨床研究はそれほ
ど行われていません。

栄養や食生活については、そもそも、食文化や人種、地域の違いが反映され
るため、なにをどのように食べるべきかを考える場合、海外の研究報告につ
いては、そのままの内容を受け止めるわけにはいかないところがあります。

そこで、産科婦人科舘出張佐藤病院院長である佐藤先生にお話しをお伺いし
ました。

佐藤先生は、お産や不妊治療の臨床に携わりながら、「現在の日本人女性の
栄養状態はどうなっているのか」を調べるべく、順天堂大学医学部との共同
研究「卵巣年齢プロジェクト」をはじめ日本人女性の栄養と生殖機能との関
連についての多くの研究を実施され、さらには、女性の健康のためのさまざ
まな啓蒙、啓発活動にも携わっておられる方です。

多くのカップルの参考にしていただけると思います。

インタビューの内容
【1】卵巣年齢プロジェクト
【2】日本の女性のやせ傾向や栄養不足が浮き彫りに
【3】体格や食習慣とAMH値の関係
【4】ビタミンDと生殖機能の関係
【5】亜鉛不足と甲状腺機能低下症との関係
【6】プレプレグナンシーとプレマターナルトリートメント


【1】卵巣年齢プロジェクト

細川)佐藤先生は、抗加齢医学会専門医でもいらっしゃいますね。

佐藤先生)晩婚化の影響で不妊治療患者さんの年齢が、年々、高くなってい
る中で、いかに「卵巣年齢」の若さを保つかが、生殖医療における大きなテー
マになっています。そして、そのことを考えるうえでのヒントが得られるの
ではないかと考え、まずは、抗加齢医学を学ぶことから始めたわけです。

細川)なるほど。高齢による卵巣機能の低下、いわゆる卵子の老化への対策
として、アンチエイジングに着目されたということですね。そして、専門医
も取得されたと。

佐藤先生)そうです。やはり、栄養(食生活)や適度な運動、適度な休息と
いうようなことがアンチエイジングのキーになるということがわかりました。

細川)正しい食生活、身体を動かすこと、質のよい睡眠が若さを維持するた
めのポイントだということですね。

佐藤先生)そうです、やっぱりそうかという感じでした。ただし、それでは
卵巣機能のアンチエイジングにそれらをどのように取り入れていけばいいの
か、どのように患者さんにアドバイスし、指導していけばいいのかを考える
場合、その拠り所となる研究やデータはほとんどが海外の研究報告であると
いう問題がありました。

細川)はい。実際、近年、栄養と生殖機能の関連についての研究報告が増え
ていますが、日本の研究報告がないのが現状ですね。

佐藤先生)そもそも、食生活や生活習慣はそれぞれの長期間に渡る文化の影
響を強く受けているものですから、それぞれにふさわしい食べ方は、地域や
人種による差、さらには個体差が大きいものです。

細川)そうですね。

佐藤先生)そこで、現代の日本人女性の体格や食生活はどうなっているのか、
そして、それらはどのように卵巣年齢に関係するのかを調べることで卵巣機
能を保つためのライスフタイルや食生活についてなにかわかればとの思いで、
妊娠のための身体づくりを調べることを目的とした「卵巣機能プロジェクト」
を立ち上げました。

細川)日本人の女性を対象として栄養や生活習慣と生殖機能との関連を調べ
た初めての研究ですね。

佐藤先生)そうですね。もちろん、卵子は若返ることはありませんが、最近
は比較的若い女性でも卵巣機能が低下しているケースが少なくないという印
象を持っています。そのため、年齢以上に卵巣機能が低下するのを防ぐ手が
かりになればと考えました。

細川)はい。

佐藤先生)当院と管理栄養士を中心とした予防医療を啓発、推奨する団体で
ある社団法人Luvtelli、、そして、順天堂大学、ロート製薬の共同研究と
して、2012年11月にスタートしました。20〜39歳、平均年齢が30歳弱の
102名の健康な非喫煙女性を対象に、卵巣年齢の目安とされているホルモン
であるAMH(アンチミューラリアンホルモン)値を測定し、食事歴法調査
票や写真解析で調べた食習慣やビタミンD、鉄との関連を調べました。その
他、体格や健康状態なども調査しました。


【2】日本の女性のやせ傾向や栄養不足が浮き彫りに

細川)それでは、卵巣年齢プロジェクトで明らかになったことについて教え
てください。

佐藤先生)まず、特筆すべきことはエネルギーの摂取量が少ないことです。
1日の平均量が1,500kcalでした。厚労省のガイドラインでは30〜49歳
の女性のふつうの身体活動レベルでの推定エネルギー必要量が2,000kcal
とされていますので、それを大きく下回っています。

細川)ちゃんと食べていないと。

佐藤先生)そうです。そして、エネルギー収支バランスの目安となるBMIも
平均が20.3でした。

細川)BMI18.5未満が「やせ」で、妊娠、出産時に適切な範囲は20〜24と
されていまから、全体にやせている方が多いということですね。

佐藤先生)はい。今回の調査ではBMIが20未満が半数近く、18.5未満が約
23%でしたので、いかにやせている方が多いかがわかります。

細川)日本の若い女性は「やせ」が問題なのですね。欧米では肥満が大きな
問題になっているのとは反対です。

佐藤先生)その一方で、平均の体脂肪率は25.7%でした。BMIは低いのにも
かかわらず、体脂肪率がやや高めなのです。

細川)そうですね。

佐藤先生)これは、若い女性のやせ願望による食べないダイエットでやせよ
うとして筋肉も落ちてしまっているのではないかと思います。

細川)そうすると基礎代謝が低下して、皮肉にも余計にやせにくくなります
ね。

佐藤先生)全く間違ったダイエットです。「やせ」は妊娠しにくくなります。
また、やせた状態で妊娠すると、早産や低出生体重児(1)を出産するリス
クが高くなります。そして、それだけでなく、出生児が成人後に生活習慣病
にかかりやすくなるリスクまで高くなることが知られています。

細川)生活習慣病胎児期発症説(2)ですね。

佐藤先生)そのため、イギリスではやせている女性を広告に使っちゃいけな
いという規制まであるのです。若い女性が将来健康な赤ちゃんを産むために、
まずは、やせている女性が格好いいのだというイメージを払拭することから
始めているわけです。

細川)日本では新生児の約1割が低出生体重児といわれていますから、次世
代の健康という面ではより深刻ですね。

佐藤先生)全くその通りです。また、食事内容の調査からは栄養不足である
ことが浮き彫りになりました。

細川)飽食と言われている今の日本では想像しづらいことですが・・・。

佐藤先生)たとえば、からだを構成する主な成分であるだけでなく、ホルモ
ンや酵素、免疫抗体、神経伝達物質の原材料になる大切なたんぱく質ですが、
40%近くの方で摂取量が足りていませんでした。

細川)40%の女性が低たんぱくだと。

佐藤先生)そうです。食品でみても、肉、魚、卵、大豆食品などの主要なた
んぱく源すべてが不足しています。さらに、緑黄色野菜や果物、海藻などの
ビタミンミネラル源も十分な量が食べられていません。

細川)加工食品が多いということでしょうか。

佐藤先生)そうですね。食事内容の調査は食事歴法質問票以外に写真解析も
実施しました。食べたものを3日分撮影して送ってもらいました。加工食品
や外食も多く、バランスよく食べている女性は稀で、食事バランスをいくつ
かの項目にわけて3点満点で評価したところ、平均が1点に満たないような
項目が非常に多かったです。


*用語説明
(1)低出生体重児:出生時に体重が2,500g未満の新生児のこと。
(2)生活習慣病胎児期発症説:ダイエットなどで栄養不足のまま妊娠した
り、食生活の乱れなどで妊娠中に十分な栄養を摂っていなかったりすると、
胎児の胎内での発育に影響を及ぼすだけでなく、遺伝子の働きを調節するメ
カニズムが変化して、子が生活習慣病にかかりやすくなる体質になること。


【3】体格や食習慣とAMH値の関係

細川)それでは、体格や食習慣が卵巣年齢にどのように影響していたのでしょ
うか?

佐藤先生)われわれは、卵巣年齢の目安とされているアンチミューラリアン
ホルモン(1)の値(以下、AMH値)を測定し、体格や食習慣との関連を調
べました。まず、体格との関連ですが、身長が高い人ほどAMH値が低い傾向
がありました。日本の女性は身長が高いとやせている人が多いので、体脂肪
率が関連しているのではないかと思います。

細川)やせている人ほどAMHが低いと。

佐藤先生)はい。また、食習慣との関連では、魚介類をたくさん食べる人ほ
どAMHが高かったという結果が出ています。

細川)魚介類ですか。

佐藤先生)これらの相関を30歳以上と30歳未満でわけてみると、30歳未満
では体脂肪率が少ない方にAMH値が低い傾向がみられましたが、食品との相
関はほとんど認められませんでした。

細川)はい。

佐藤先生)ところが、その一方、30歳以上になると体脂肪率との相関はみら
れなくなり、魚介類や卵の摂取量とAMH値との相関が認められました。魚介
類や卵をよく食べる人はAMHが高かったのです。

細川)大変興味深いです。

佐藤先生)30歳くらいまでは食生活が少しくらい乱れていても若さでカバー
できるので、その影響が現れないということでしょうか。

細川)なるほど、そういうことが言えるわけですね。年齢が高くなればなる
ほどちゃんと食べることが大切になってくるということになりますね。

佐藤先生)そうですね。

細川)ところで、魚介類や卵とAMHが関連するというのはどのように受け止め
るべきなのでしょうか?

佐藤先生)おそらく、ビタミンDが介在しているのではないかと考えました。
そのため、血液検査で測定したビタミンDとの関連を調べました。

細川)ビタミンDは、最近、生殖機能の領域でも世界的に関心が高まっていま
すのでとても興味深いですね。

*用語の解説
(1)アンチミューラリアンホルモン(AMH):発育過程にある卵胞から分
泌されるホルモンで、血中のAMH値が原始卵胞から発育する前胞状卵胞数を
反映すると考えられている。そのため、卵巣内にどれぐらい卵の数が残って
いるか、卵巣年齢の目安になると考えられている。


【4】ビタミンDと生殖機能の関係

細川)それでは、ビタミンDと生殖機能はどのように関連するのか、卵巣年
齢プロジェクトでわかったことを教えてください。

佐藤先生)まず、AMHが高い人(2.2ng/ml以上)と低い人(2.2mg/ml未
満)に分け、年齢からみてみると、やはり、30歳未満よりも30歳以上の女性
のほうがAMH低値の人が多いことがわかりました。

細川)はい。

佐藤先生)そして、AMH低値の人の割合はビタミンD欠乏の人の間では28.8
%もいたのですが、ビタミンDが充足している人では18.5%と、ビタミン
D濃度が低い人ほどAMH値も低く、AMH値はビタミンDレベルの影響を受け
ていることがわかりました。因みに血中25(OH)D3が20ng/ml未満をビタミ
ンD欠乏としました。

細川)食習慣とAMH値との相関には、やはり、ビタミンDが介在していた可
能性が高いということになりますね。

佐藤先生)そうですね。また、我々のデータはビタミンDレベルとAMH値が
関連するという海外の研究報告とも一致しています。

細川)それでは、最も気になるところなのですが、ビタミンDが豊富な食品
を積極的に食べたり、ビタミンDのサプリメントを服用したりすることで
AMHが高くなるのでしょうか?

佐藤先生)可能性はあると思います。もちろん、それは原始卵胞数が増える
ことによるものではありません。AMHは卵巣内の原始卵胞が発育する過程で
分泌されるホルモンで、AMHのレベルは発育卵胞数を反映しています。

細川)そうですね。

佐藤先生)AMHが低い女性には2通りあって、本当に卵が少なくなっていて
発育卵胞数が少ない人と卵はあるのだけれども正常な発育のメカニズムが止
まっているので発育卵胞数が少ない人があるのではないでしょうか。

細川)なるほど!ビタミンDの欠乏によって卵がうまく発育してこなくなっ
ていると。

佐藤先生)実際にビタミンDは卵胞形成に深く関わっていることが基礎的な
研究でわかっています。ただ、卵胞発育の障害になっているのはビタミンD
欠乏だけではなく、たとえば、その他の栄養素も関与していると考えられま
す。このあたりのメカニズムは非常に複雑です。

細川)要は卵胞形成に不可欠な栄養素の不足や欠乏が卵胞発育の障害を引き
起こしているのではないかということですね。

佐藤先生)実際に生殖医療に栄養療法を積極的に取り入られておられる施設
では、AMH低値の患者さんに食生活の改善やビタミンB群や鉄、そして、こ
のビタミンDのサプリメントの補充で発育卵胞数が増え、AMH値が上昇し、
治療成績も向上したと報告されています。

細川)はい。AMHが低く、卵巣機能が低下していると診断された女性にとっ
ても励みになるお話ですね。

佐藤先生)卵巣年齢プロジェクトではビタミンD欠乏の女性は27.5%ですが
高崎ARTクリニックの不妊患者さんでは87%です。

細川)驚くべきことに、不妊患者さんはほとんどがビタミンD欠乏なのですね。

佐藤先生)そうです。ビタミンDはAMHと相関しているだけでなく、免疫に関
わり着床障害や不育症にも影響していることがわかっています。

細川)ビタミンDは生殖機能のさまざまなメカニズムに関与しているのですね。

佐藤先生)ですから、ビタミンD欠乏のために妊娠しづらくなっているという
ことがあるのかもしれません。高崎ARTクリニックでは同意を得られた患者さ
んにビタミンDを測定し、欠乏の場合にはビタミンDのサプリメントを飲んで
もらい、その後の血中濃度や治療成績との関連を調べています。

細川)これまでの佐藤先生の印象はいかがですか?

佐藤先生)ビタミンDのサプリメントを摂取しはじめた患者さんは服用後2〜
3ヶ月で妊娠されるケースが多く、手応えを感じています。

細川)臨床試験の結果が楽しみです。

佐藤先生)このようにビタミンDは生殖機能と密接に関連していることがわ
かりました。

細川)はい。

佐藤先生)ビタミンDは紫外線にあたることで皮膚でコレステロールからつ
くられため、体内合成と食事がビタミンDの供給源になっています。ところ
が、現代では女性の間では紫外線を極端に避ける傾向があります。そのため、
食事からのビタミンDが豊富な食材の摂取が十分でないと、ビタミンD欠乏
を招きます。そして、そのことによって、卵巣機能の低下や着床環境の悪化
を招くリスクが高まるというわけです。

細川)なるほど。食生活やライフスタイルがビタミンDを介して、妊娠する
力に影響を及ぼしているというわけですね。そして、食生活の改善やサプリ
メントによるビタミンDの補充で低下した妊娠力が回復されることが期待で
きるかもしれないということですね。

佐藤先生)そうです。卵巣年齢プロジェクトで得たデータは現在も解析を継
続しています。また、高崎ARTクリニックではビタミンDの臨床試験が進行
中です。それらは論文として発表していく予定ですが、今後は妊娠前にビタ
ミンDを測定し、低値の方には積極的に補うということが大切になってくる
と考えています。

細川)よくわかりました。あらためて、日本人女性を対象に実施された卵巣
年齢プロジェクトの意義の大きさが理解できました。


【5】亜鉛不足と甲状腺機能低下症との関係

細川)栄養と妊娠力という観点から、ビタミンD以外の栄養素についてはい
かがでしょうか?

佐藤先生)高崎ARTクリニックの患者さんのほとんどは鉄欠乏です。患者さ
ん全員にフェリチン(貯蔵鉄)を測っていますが、30ng/ml未満の患者さ
んには鉄剤を処方しています。

細川)フェリチンの基準値についてはいろいろな意見があるようですが。

佐藤先生)そうですね。正常な妊娠にも鉄は重要ですが、妊娠すれば赤ちゃ
んの分も必要になり、その分が30ng/mlに相当するという研究があります。
ですので、貯蔵鉄であるフェリチン値は30〜50ng/ml程度を目安としてい
ます。

細川)はい。

佐藤先生)また、不妊患者さんには甲状腺機能低下症の人が多くて、6から7
人に1人は甲状腺機能低下症です。潜在性の甲状腺機能低下症の人もいたり、
その時に橋本病(1)がみつかったりする人もいます。

細川)そうなのですか。

佐藤先生)昔から不妊症や流産との関連が言われていましたが、最近はその
基準が厳しくなってきています。たとえば、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の
値が通常は正常範囲内とされている2.5ng/mlくらいから流産率が上昇する
との研究報告もあります。

細川)TSHの基準値(0.4~4.0μIU/ml)内の高いほうでも潜在性の甲状
腺機能低下症として影響が認められてきたと。

佐藤先生)そうです。そのため、甲状腺機能低下症はこれからの生殖医療に
おける重要なトピックになってくると思います。

細川)なるほど。

佐藤先生)その甲状腺機能低下症の人に亜鉛欠乏の人がいるのです。

細川)亜鉛欠乏と甲状腺機能低下症が関連していると。

佐藤先生)甲状腺機能低下症の多くは橋本病なのですが、橋本病ではないの
だけれども亜鉛欠乏のために甲状腺ホルモンが低下しているというケースが
あります。

細川)甲状腺機能低下症の原因の一つに亜鉛欠乏があるということでしょう
か。

佐藤先生)甲状腺ホルモンがつくられるのに亜鉛が必要なのだと思います。

細川)なるほど。

佐藤先生)味覚障害までは出ないけれども亜鉛欠乏の人は甲状腺ホルモンが
少なくなり、甲状腺機能が低下、また、亜鉛は生殖細胞の増殖にも必要で深
く関与していますので、その面からも生殖機能が低下してしまうおそれが出
てきます。

細川)亜鉛もみておかなければならないですね。

佐藤先生)そうです。ところが、亜鉛の過不足を正確に把握するのは難しい
のです。

細川)はい。

佐藤先生)亜鉛は比較的体内で恒常性(2)が保たれていて、あまり値が変
動しないミネラルなので、欠乏していても数値で把握するのが難しいのです
ね。

細川)亜鉛欠乏を見つけ出すのが難しいと。

佐藤先生)そうです。ですから甲状腺の専門医を紹介して、場合によっては
亜鉛を補充してもらい甲状腺機能を元に戻してもらっています。

細川)はい。ということは、たとえば、外食などが多くて、普段の食生活で
ミネラルが十分に摂れていないのではないかと思う方は、亜鉛やマルチビタ
ミンミネラルもサプリメントを服用するのもありだということでしょうか。

佐藤先生)いいと思います。亜鉛は補充しておいたほうがいいと思います。

細川)わかりました。

佐藤先生)あと、順天堂大学の産婦人科のチームの研究で、私も関わってい
ますが、TSHとAMH値が相関しているという論文(3)をつい最近出しまし
た。

細川)はー、とても興味深いですね。

佐藤先生)TSHが高めの人はAMHが低いのです。まだ原因ははっきりとはわ
かりませんが、亜鉛が関与しているのかもしれません。

細川)なるほど。亜鉛不足により甲状腺ホルモンがうまく分泌されなくなり、
TSHが高くなる、その一方で、亜鉛などのベーシックな栄養素が不足するこ
とで原始卵胞の正常な発育が妨げられ、AMHも低い値を示すのではないかと。

佐藤先生)可能性はあると思います。

*用語の説明
(1)橋本病:甲状腺機能低下症の代表的な病気。甲状腺を異物とみなして
産生された抗体が、甲状腺自体の細胞を破壊していく。甲状腺が破壊される
と甲状腺ホルモンの分泌が減り(甲状腺機能が低下した状態)、身体の新陳
代謝は停滞し、身体のさまざまな機能が低下した症状が現われる。

(2)恒常性:ホメオスタシスとも言われ、体温調節など、環境の変化に対
応して,体内の状態を一定に保って生存を維持する現象やその状態。

(3)論文:Elevated serum thyroid-stimulating hormone is associated with decreased anti-Müllerian hormone in
infertile women of reproductive age.
J Assist Reprod Genet. 2015; 32: 243-7.


【6】プレプレグナンシーとプレマターナルトリートメント

細川)最後に「栄養と妊娠力」に関して佐藤先生からのメッセージをいただ
ければと思います。

佐藤先生)いろいろとお話してきましたが、結局はバランスのよい食生活を
心がけ、5大栄養素を過不足なく摂取することはなににも増して大切なこと
であるということになりますね。

細川)「妊娠しやすい食生活」の原著者のハーバード大学のチャバロ先生も
「研究を通じて学んだことは、結局、1つ1つの食品や生活習慣ではなく、
全体としてバランスがとれていることが大切だということです、何かに偏る
のはよくない」ということを強調されていました。

佐藤先生)そうですね。当たり前過ぎて、聞き流されやすいですが、このこ
とが一番大切なメッセージです。

細川)不妊の女性の方々に多いたんぱく質不足についても、そもそもたんぱ
く質という栄養素はからだを構成する主な成分であるだけでなく、酵素やホ
ルモンの材料にもなるわけですから、たんぱく質を十分に摂っていないとい
うことは生殖機能のベースがゆらいでしまいます。

佐藤先生)そうです。ビタミンB群や鉄、亜鉛などのビタミンミネラルもあ
らゆる代謝の補酵素として顔を出していますので、生殖細胞の分裂増殖が正
常に進むためにはこれらの栄養素が必須です。

細川)あと、サプリメントについてはいかがでしょうか?いろいろなものが
ネットで販売されていて、混乱される方も少なくありません。

佐藤先生)これも特別な成分ではなく、食事で摂り切れないベーシックな栄
養素を補充することが大切ですね。ハーバードの研究でも妊娠前は葉酸や鉄
のサプリメントを補充するべきだとされていますが、私は、これからはそれ
らに加えて、ビタミンDも世界的なスタンダードになると思っています。

細川)やはり、妊娠、出産にふさわしい栄養環境を整えるために食事を補充
するのがサプリメントの役割だということですね。

佐藤先生)そうです。実際には、それらの栄養素の過不足を測定したうえで、
不足や欠乏が認められた場合には、食生活の改善を指導し、必要に応じてサ
プリメンを飲んでもらうというのが理想ではあります。

細川)はい。ただし、ビタミンミネラルを測定することもいろいろな意味で
簡単にいかない場合がありますので、その場合は、自分の判断で葉酸や鉄、
ビタミンD、あるいは、マルチビタミンミネラルを選ぶのがよいということ
いなりますね。

佐藤先生)たとえば、メラトニンが良好胚率を高めるとか、レスベラトロー
ルがいいとか、盛んに言われていますが、メラトニンはアミノ酸を材料とし
て、鉄やB群が補酵素として体内でつくられているわけですからね。まずは、
5大栄養素を揃えることに尽きるのではないでしょうか。

細川)そうです

佐藤先生)また、妊娠は目指すべきゴールではありません。大切なことは健
康な赤ちゃんを妊娠、出産し、将来、社会に貢献してくれる立派な大人に育
てることです。そういう意味では、この30年間、出生児の体重が低下の一途
をたどっていることは、世界的にみても日本だけの問題であり、赤ちゃんは
母親からの栄養だけに頼って成長していることを考えると、妊娠するための
プレプレグナンシー(妊娠前の)トリートメントだけでなく、プレマターナ
ル(母親になる前の)トリートメントも同時に重要です。

細川)そのようなお考えのもとに、佐藤先生はさまざまな啓発活動を行って
いらっしゃいます。それは、先生が不妊治療専門医であり、かつ、江戸時代
から続く佐藤病院の12代目の院長として、年間約1,600人もの新たな生命
の誕生をサポートしていらっしゃるというご経験が強い動機になっていらっ
しゃるのでしょうか?

佐藤先生)そうかもしれませんね。

細川)本日はありがとうございました。


---[佐藤雄一先生プロフィール]----------------------------

産科婦人科舘出張佐藤病院院長。高崎ARTクリニック理事。
順天堂大学医学部大学院卒業。順天堂大学付属病院勤務を経て、平成12年よ
り産科婦人科舘出張佐藤病院勤務。生殖内分泌や腹腔鏡手術が専門。医学博
士。順天堂大学産婦人科非常勤講師。日本産婦人科学会専門医。日本生殖医
学会生殖医療専門医。日本産婦人科内視鏡学会技術認定医。

◎高崎ARTクリニック
http://www.takasakiartclinic.jp/

◎産科婦人科舘出張佐藤病院
http://www.sato-hospital.gr.jp/

◎NPO法人ラサーナ
http://npo-lasana.org/
*佐藤先生が理事を務める女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上の
ための組織

◎社団法人Luvtelli(ラブテリ)
http://www.luvtelli.com/
*佐藤先生が監修を務める医療・健康・食の専門家約20名のプロフェッショナ
ルチーム
--------------------------------------------------------------------
記事についての感想やご意見は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


私たちが運営しているサイト__________________________________________

▼不妊に悩む夫婦の自己決定を支援する情報サイト
→「妊娠しやすいカラダづくり」
http://www.akanbou.com/

▼妊カラ・男性不妊編
→「男性不妊 ~ ふたりで知っておきたいオトコのこと」
http://www.akanbou.com/dansei-funin/

▼お子さんを望まれるふたりのためのサプリメント
→「BABY&ME」
http://babyandme.jp/

▼ドコモ、au、ソフトバンク公式携帯サイト
→「おしえて!不妊ナビ」
http://funinavi.edia.ne.jp/index.html


編集後記____________________________________________________________


今回のドクターに訊くは、群馬県高崎市の産科婦人科舘出張佐藤病院の佐藤
院長にお話しをお伺いしました。

記事にある通り「卵巣年齢プロジェクト」でAMHが低い女性にはビタミン
Dが欠乏していることが多いことを確かめられ、日本生殖医学会で発表され、
昨年の受精着床学会のシンポジウムでは「栄養と妊娠力」というテーマでご
講演されました。

そのご講演の中で、思いがけず、翻訳書「妊娠しやすい食生活」をご紹介い
ただき、驚いたことを覚えています。

あらためて、特別な食材や成分を摂ったり、特別なことに取り組んだりする
よりも毎日の食事を大切にすることのほうが圧倒的に効果的であることを、
改めて、痛感しました。

そして、私たちの取り組みが間違っていないことも確かめることが出来て、
本当に意を強くしました。

今回のドクターに訊くもボリュームがありますが、私としては皆さんに一気
に読んでいただきたかったので、分割せずに掲載することにしました。

皆さんが、納得のいく、赤ちゃん待ち期間を過ごされるために、また、健康
なお子さんの成育環境を整えるために、そして、本当の健康な生活を楽しま
れるために、役立てれば嬉しいです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.614
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お子さんを望まれるカップルの"選択"や"意志決定"をサポートします
--------------------------------------------------------------------
不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、二人で話し合い、考えを整
理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出
来る限り客観的な視点で、お届けしています。
--------------------------------------------------------------------
発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:http://www.akanbou.com/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎発行部数
・自社配信: 1,923部
・まぐまぐ: 4,009部
・合計部数: 5,932部(3月22日現在)
--------------------------------------------------------------------
◎免責事項について
当メールマガジンの提供する情報は医師の治療の代わりになるものでは決し
てありません。プログラムの実行は各人の責任の元で行って下さい。プログ
ラムの実行に伴う結果に関しては、当社の責任の範囲外とさせて頂きます。
--------------------------------------------------------------------
◎注意事項
読者の皆さんから寄せられたメールは、事前の告知なく掲載させていただく
場合がございます。匿名などのご希望があれば、明記してください。また、
掲載を望まれない場合も、その旨、明記願います。メールに記載された内容
の掲載によって生じる、いかる事態、また何人に対しても一切責任を負い
ませんのでご了承ください。
--------------------------------------------------------------------
◎著作権について
当メールマガジンの内容に関する著作権は株式会社パートナーズに帰属しま
す。一切の無断転載はご遠慮下さい。