葉酸は妊娠、出産に際して重要な役割を担うビタミンです。厚生労働省は「妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで」の葉酸サプリメント摂取を推奨しています。
これは、妊娠初期に起こる赤ちゃんの「神経管」の形成がこの時期にほぼ完了し、葉酸によって無脳症や二分脊椎などの神経管閉鎖障害のリスクを低減できることが明らかになっているためです。
ただ、最近は葉酸サプリメントは妊娠初期以降も継続したほうがよいという考えが広がりつつあります。
葉酸は神経管の形成だけでなく、妊娠中の体と赤ちゃんの発育のいくつもの面で重要な働きをしていることが、複数の研究から明らかになっているためです。
葉酸はDNAの合成を促進し、細胞の生産や再生を助けます。そのため、妊娠すると細胞分裂のスピードは急激に高まり、胎盤の形成も進むため、葉酸の必要量は平時より大きく増えます。
妊娠初期だけではなく、中期、後期のどの時期にも葉酸が不足しないようにしておくことが、母子の健康のために非常に大切であることは当然のことです。
実際、妊娠中の葉酸サプリメント継続にはさまざまなメリットが報告されています。
例えば、妊娠中に葉酸を摂り続けた母親の子どもは、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDのリスクが低いという研究結果があります。
また、妊娠中期以降も摂取を続けた母親の子のほうが、3歳時点の認知スコアや、7歳時点の語彙推論スコアが高かったという追跡研究もあり、葉酸が胎児の脳・神経の発達に関わる栄養素であることと矛盾しません。
また、日本の大規模出生コホート研究(エコチル調査)では、妊娠中に葉酸サプリメントを摂っていた母親の子どものほうが、乳児期の川崎病の発症率が低かったという興味深い研究報告もなされています。
母体側にもメリットがあります。妊娠中に葉酸を十分に摂っていた女性ほど、周産期うつ症状が少ないというメタ解析があり、さらに、妊娠高血圧腎症や胎盤早期剥離のリスク低減など、妊娠合併症との関連も報告されています。
こうした研究から、葉酸が「妊娠初期のための栄養素」であるだけでなく、「妊娠全期間を支える基礎栄養素」であることがわかってきています。
厚生労働省の「食事摂取基準(2025年)」でも、妊娠中の付加量として通常より240μg多く摂ることが推奨されており、食事だけで不足しがちな分を補うために、サプリメントの活用が現実的な方法とされています。
葉酸はいつから、いつまで続ければよいのでしょうか。出来れば、妊娠を考えたらすぐに始め、妊娠中も継続することが理想的です。
妊娠初期は神経管の形成に、妊娠中期は胎盤の発達に、そして妊娠後期は赤ちゃんの脳や神経機能の発達に、それぞれ葉酸が関わっています。
つまり、どの時期も葉酸が必要とされる大事なタイミングなのです。
葉酸は、未来の赤ちゃんと自分自身の健康を支えてくれる、妊娠前後の基礎栄養素です。
妊娠準備を始めたら、ぜひ早めに、そして妊娠期間を通じて続けていきましょう。












