妊娠や出産に至るプロセスは、あらゆることが適切なタイミングで起こることが重要です。
不妊治療は、たいてい、カップルに適切な性交のタイミングを指導されることからはじまります。また、ほとんどの女性の不妊検査しかり、治療が始まれば、あらゆる治療には施されるタイミングが決められています。
さらに、タイムラプスインキュベーターの普及で、培養器の中の胚の分割スピードに適切なタイミングがあること、遺伝子解析技術の進歩で胚移植の個々に適切なタイミングもわかるようになりました。
そして、このタイミングをつくりだすベースになっているのが女性の身体のサイクルで、妊娠や出産は女性の身体が奏でるリズム、サーカディアンリズムが進めていると言えるわけです。
なにがこのリズムをつくりだしているのでしょうか?
それは「体内時計」で、睡眠やホルモン、神経活動、免疫など、さまざまな生理現象にリズムをもたらしています。
メインの体内時計は一つで、脳内の視交叉上核、すなわち、目の神経が交差する部分の上にある神経細胞の集まりに存在し、メインの他に全身の細胞、一つ一つにもあります。
さて、このサーカディアンリズムの乱れが卵巣の老化を早めるという研究報告がなされています。
体内時計の正体は時計遺伝子の発現ですが、研究では、体外受精を受けている女性の採卵時に採取した卵子から、顆粒膜細胞の時計遺伝子の発現量を測定し、高齢(40歳以上)女性と若齢(39歳以下)女性で比較しています。
その結果、高齢女性では若齢女性に比べ、時計遺伝子の発現量が低下していること、また、卵巣年齢の目安となるAMH(アンチミューラリアンホルモン)とリンクしていることを見い出しました。
そもそも、女性の年齢により卵巣機能が低下することは避けられませんが、体内時計の乱れは卵巣機能低下を加速させる可能性があることがこの研究で示されたというわけです。
さらに、体内時計の乱れによるマイナスの影響は臓器の中でも卵巣が最も受けやすいという研究報告もなされています。
つまり、卵巣は体内時計の乱れによる老化がいち早く始まる臓器なのです。
このことは、老化には自然な老化と不自然な老化があるということを教えてくれています。
体内時計の乱れによる卵巣の不自然な老化を阻止するためには何が出来るのでしょうか?
「食」と「光」のコントロールがポイントです。
「食」と「光」とは朝食と夜の光で、具体的には、タンパク質を含む朝食を食べること、そして夜は暗くすることです。
1日のスタートに朝食、特に、タンパク質を含む栄養バランスのよい朝食を食べることで体内時計が正常にリセットされるようになります。
反対に、夜にスマホやタブレットの強力な光が目から脳を直撃すると、昼間と勘違いしてしまい、体内時計が乱れてしまうことがわかっています。
食と光をコントロールすることで、卵巣の老化を少しでも遅らせることが出来るかもしれません。
年齢は自分でコントロールすることは出来ませんが、「食」や「光」はいくらでも自分でコントロールすることが可能です。