アメリカの国民健康・栄養調査のデータを解析した研究から就寝時間が22時45分より遅くなると不妊症のリスクが有意に高くなるという報告がなされています。
2015年から2020年の同調査の女性参加者3,903人のデータを用いて女性の就寝時間と不妊症リスクとの関係を分析した結果で、不妊症の定義は12ヵ月以上避妊せずに性交渉を続けても妊娠に至らないこととしています。
その上で、年齢等妊娠しやすさに関与する因子の影響を統計学的に取り除くと、就寝時間が22時45分よりも遅くなるほど不妊症になる確率が徐々に高くなることがわかったというのです。
最近、睡眠と不妊症との関連を調べた研究報告が相次いでいます。たとえば、対象者が最も多かった中国の研究(1,276名)では、採卵日に睡眠の状況を調査し、その後の治療周期の成績と関係を調べてみると、睡眠時間は7時間から8時間、就寝時間は23時前後が良好なART治療成績に関連したという報告がなされていて、23時前後に寝るのがよいというところは、アメリカの研究結果と一致しています。
このような研究がいくつかなされてはいるものの、睡眠と生殖機能の関係についてどのような因果関係があるのかは、まだまだよくわかっていません。
ただし、規則正しい生活リズムと十分な睡眠があらゆる健康に寄与することは、もはや常識であり、言うまでもないことです。
睡眠があらゆる健康に関係するということは、睡眠が私たちの身体に備わった健康を維持するための働きのベースになっていることに他なりません。
よく眠れた朝のスッキリとした目覚めの気持ちよさが、そのことを物語っています。
実際、睡眠は体内時計を介してホルモン分泌や免疫機能を司っていることが知られています。
そして、それらは生殖機能をコントロールしていますので、睡眠は、体内時計を介して、ホルモン分泌や免疫機能、そして、生殖機能とつながっています。
ホルモン分泌や免疫機能は、私たちにはコントロールすることが出来ません。それらが乱れ、生殖機能が低下した場合、生殖医療では、ホルモン剤や免疫調整剤で治療しますが、あくまで対症療法で、副作用に悩まされたり、うまくいかなかったりすることも往々にしてあります。
その一方、睡眠時間や就寝時間は、私たちの意思でコントロール可能です。
夜は23時頃に寝て、朝は6時頃に起床し、規則正しい生活リズムを心がけ、体内時計を正常化させることが生殖機能のベースを整えることになるはずです。
大変興味深いことに、最近、睡眠が腸内細菌叢にも関連していることがわかってきたということも、最後に触れておきたいと思います。