編集長コラム

細川 忠宏

食生活でも「木を見て森を見ず」は避けるべき

2023年06月04日

普段の食生活の地中海食度が低いと、体外受精の卵巣刺激に対して期待した採卵数を得られないリスクが高くなるかもしれないという、イタリアのミラノ大学から研究報告を前号でご紹介しました。

採卵数が多いほど、その後の妊娠率や出産率も高くなりますが、採卵数はAMH(アンチミューラリアンホルモン)や胞状卵胞数などの卵巣予備能(卵巣に残っている卵子数)検査でおおよそ予測できます。

ところが、実際に適切と思われる方法で卵巣を刺激しても、期待した数の卵胞が発育せず、想定していた数の卵子が採卵できないことがあります。

予期せぬ卵巣低反応です。

ミラノ大学の研究では、地中海食度が低いと、予期せぬ卵巣低反応がおこるリスクが高くなるというのです。

地中海食の特徴は、ざっくり言えば、玄米や全粒粉パンなどの精製度の低い穀物、果物、野菜、豆類、魚、オリーブオイルを多く食べ、赤身肉、加工肉、乳製品は控え目にという食べ方です。

地中海食度が低い食べ方は、精製穀物や加工食品、砂糖、肉中心で、果物や野菜、魚が少ない食べ方です。

要するに今回のミラノ大学の研究では食事の内容が、本来、卵巣に備わっている力を発揮するのに足を引っ張るかもしれないということがわかったというわけです。

最近の食(栄養)と生殖機能の関係についての研究では、栄養素や食品単体ではなく、食べ方に着目した研究が増えています。私たちは普段、栄養素を食べているわけではなく、いろいろな食べ物を組み合わせて食事しているからです。その結果、地中海食をはじめとした健康的な食べ方が妊娠する力や新しい命を育む力と関連することがわかってきました。

また、どんな食べ方をしているかは、個人個人でおおよその傾向があり、それはそれほど変化しないということもわかっています。

食の嗜好や生活環境、栄養や食の情報によって、徐々に出来上がった「食べ方」は、それほど変化せず、そのことが本人の生殖機能や将来の健康状態、そして、健康寿命まで左右すると言っても過言ではないわけです。

もしも妊活がきっかけで、心機一転、食生活を改善し、地中海食に代表されるような健康的な食べ方に変えることが出来れば、妊娠や出産に有利になるだけでなく、その後の長い人生における生活の質までも向上させることになるかもしれません。

特定の食品や栄養素にこだわることは、かえって偏りを招くことになりかねないことから、得策ではなく、全体の食べ方を見直すべきです。

「木」を見て「森」を見ないのは食生活においても避けるべきことで、大事なのは「食品」ではなく、「食べ方」なのです。